
Bリーグ西地区首位の琉球ゴールデンキングスは4月12、13の両日、沖縄サントリーアリーナで東地区最下位の仙台89ERSと連戦を行い、96ー61、77ー70でいずれも勝利した。3月15日にあった第100回天皇杯全日本選手権決勝で勝ち、初優勝を達成して以降、負け無しの11連勝となっている。
通算成績は39勝13敗で、西地区2位の島根スサノオマジックとのゲーム差は「6」。2シーズンぶりの西地区優勝に向け、マジックナンバーを残り「3」まで減らした。
連勝中で最も印象的なのは、ディフェンスの安定感が増していることだ。11試合のうち9試合は失点が60〜70点台。特にガード陣のボールマンプレッシャーは試合を通して高い強度を保っており、攻守に好影響をもたらしている。
けん引するのは、共に守備職人で知られる小野寺祥太と伊藤達哉だ。13日の試合後、揃って記者会見に姿を見せた。
第1Qと第4Qにディフェンスのハイライト
仙台との第2戦、この2人が強いインパクトを残した場面がある。
まずは伊藤。第1クオーター(Q)中盤に0-7のランで1点差に詰め寄られ、タイムアウト明けでコートに入った。
それまではピック&ロールから仙台のポイントガード(PG)がフリーになり、そのままドライブをされたり、ビッグマンのダイブやポップにアシストされてシュートを決められたりしていた。しかし、伊藤がコートインして1回目のディフェンスで相手のリズムを狂わせる。
ハンドラーを担っていた相手ポイントガードの多嶋朝飛に対し、ハーフコートを越えた辺りの高い位置で体を当て、ピックプレーに入る前にボールを離させた。このポゼッションでは結果的にミドルシュートを決められたが、オフボールも含めて全体のプレッシャー強度が増し、9ー0のランで流れを押し返した。
第2Q以降もリードを保ちながら、持ち味であるリバウンドでなかなか優位に立てず、抜け出せない琉球。第4Qの中盤には2点差まで詰め寄られた。
ここから存在感を見せたのが小野寺だ。
残り5分ちょうどから再開したオフィシャルタイムアウト明けのディフェンス。仙台PGの渡辺翔太に対してフロントコートからぴたりと張り付き、簡単にピックを使わせない。プレッシャーを緩めずにスリーポイントライン付近でファンブルさせ、トランジションの瞬間にファウルをもらった。
その後に岸本隆一とヴィック・ローの連続得点で点差を引き離し、残り約2分。小野寺が再び相手ハンドラーの青木保憲にプレッシャーをかけ、試合をほぼ決定付けるバックコートバイオレーションを誘い、沖縄サントリーアリーナが大歓声に包まれた。
追い上げられた時間帯に「(オフェンスが)停滞している」と感じていたという小野寺。最近は自身のシュート成功率が低迷していることにも触れ、「まずはディフェンスからやっていこうという中で、渡辺選手や青木選手が疲れている時にうまくプレッシャーをかけられたと思っています」と振り返る。
桶谷大HCは「第4Qは普通インテンシティが落ちてきますが、彼はあの時間帯でも高いインテンシティ(強度)でディフェンスができるメンタルとスタミナ、脚力がある。それを出し惜しみなく、チームのためにやってくれることに頭が下がります」と語り、小野寺への厚い信頼をうかがせた。

活発なコミュニケーションも要因に
小野寺と伊藤に限らず、荒川颯や脇真大、岸本らも相手ハンドラーへのプレッシャーを高めている。伊藤が「レギュラーシーズンの終盤になるにつれて、僕もびっくりするくらい全員のディフェンスインテンシティが上がっていると感じます」と言えば、小野寺も異口同音に印象を語る。
「天皇杯の決勝で勝ち、チームの流れや雰囲気が一層良くなりました。誰が出てもディフェンスのインシティが高く、オフェンスもアグレッシブにできているので、その結果としてチームがうまくいっているのだと思います」
小野寺いわく、特段選手同士で「強度を高める」という申し合わせをしている訳ではない。ただ、雰囲気が良くなったことで試合中のコミュニケーションが活発だという。伊藤の名前を挙げ、こう続ける。
「伊藤選手もディフェンスでうまくファウルを使うことなどをよく話しているので、そういった部分も含めてコミュニケーションが取れています。前線からプレッシャーをかけていくことでチームディフェンスの土台が作れているので、今後も続けていけたらなと思います」
このコメントを受け、伊藤にも「チームに共有していることはありますか?」と聞いてみた。答えは「相手に流れを持っていかれる時はディフェンスの質が落ちてしまう時だと思っています。そういう時は僕が喝を入れるじゃないけど、(気持ちや集中を)『切らさずにやろう』と言うようにしています」。プレーだけでなく、言葉でも強いリーダーシップを発揮しているようだ。

「コンタクト」を強調する桶谷大HC
全体のディフェンス強度が上がる中、桶谷大HCも体の「コンタクト」は重視するポイントの一つに挙げる。後半で一気に突き離した1戦目の後の会見では、「(前半で)バックコートとBOB(エンドラインからのスローインで始まるオフェンス)でのコンタクトがなくて、特にBOBから4回くらいやられていました。ハーフタイムで『一つひとつのコンタクトをもう一回ちゃんとしよう』ということを伝えました」と話していた。
「コンタクト」はミーティングで使うホワイトボードに書くことも多く、普段から強調している言葉だという。機動力が高くはないジャック・クーリーとアレックス・カークのところをカバーする意味でも重要性は高い。
以下は第2戦後の指揮官のコメントである。
「(相手のオフェンスが)どこでエントリーして、どこが起点になっているかということに対してはコンタクトを取れるようにしたい。特にジャックとアレックスのところは狙われがちなので、ドリブルハンドオフの時とかにちゃんとプレッシャーをかけられるようにしたいです」
ピックプレーを守る際、クーリーは主にドロップ、カークはドロップとショーと使い分けているが、いずれにしろ、ハンドラーに対するプレッシャーが緩いと効果は薄く、スピードのミスマッチを突かれやすくなる。相手が次のアクションに入るのを少しでも遅らせるためにも、フィジカルコンタクトの習慣は維持したい。

「ファストブレイク」の増加も
より高い位置でのディフェンス強度が高まっていることは、オフェンスにも好循環を生んでいる。それが顕著に表れているのがファストブレイクの増加だ。
キングスは現在、1試合のファストブレイクポイントの平均が9.0点。そもそもインサイドに最も大きな強みを持っているため、リーグで21番目の数字と決して多くはないが、仙台との1戦目はファストブレイクポイントだけで29点に上った。2戦目は6点にとどまったが、先述した小野寺がターンオーバーを誘った場面などは速攻に繋がる可能性も十分にあり、速い展開からのイージースコアが目立ち始めている。
レギュラーシーズンは残り8試合。昨シーズンは名古屋ダイヤモンドドルフィンズに最終盤でまくられて西地区の連覇が6でストップしただけに、チャンピオンシップ(CS)に向けていい形で締め括りたいところだろう。
今シーズン、その名古屋Dから移籍した伊藤に終盤戦のポイントを聞いた。
「1試合1試合が負けられない状況の中、ディフェンスに一番フォーカスしています。それは名古屋D時代もそうでした。今のキングスはそれができています。オフェンスは試合によってシュートの入る、入らないがありますが、ディフェンスは常にインテンシティを高くやる必要があると思います」
所属6シーズン目の小野寺も「去年は悔しい思いをしたので、まずは地区優勝を取って、CSをホームで開催できるように戦っていきたいです」と気合いを入れる。ディフェンスにプライドを持つ二人を先頭に、今後もチーム全体として高強度を維持していきたい。

(長嶺真輝)