好調の要因は「調子がいいと思ってないから」と言い切る琉球の荒川颯…言葉の端々ににじむ“成熟ぶり”
成長著しい琉球ゴールデンキングスの荒川颯©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 「BEST OF THE WEST」。西地区王者を記念したキャップを被った琉球ゴールデンキングス荒川颯が発した第一声は、周囲への感謝だった。

 「選手、スタッフだけでなく、ファンの方々の声援であったり、メディアの方々が盛り上げてくれたおかげだと思っています。改めて感謝の気持ちを忘れずにやっていかなきゃいけないなと思うことができました。ありがとうございます」

 そう言って、報道陣を前に頭を下げた。

 琉球は19日、西地区6位の長崎ヴェルカと沖縄サントリーアリーナで対戦し、90ー80で勝利して2シーズンぶりの西地区優勝を決めた。昨季はレギュラーシーズン最終盤で名古屋ダイヤモンドドルフィンズにまくられて地区連覇が「6」でストップ。チャンピオンシップ(CS)初戦のホーム開催に向け、切望していたタイトルだった。

 翌20日の2戦目も87ー66で快勝し、連勝を「14」に伸ばした琉球。破竹の勢いで白星を積み重ねる中、急速に存在感を増しているのが荒川だ。

 長崎との第1戦はキャリアハイとなる4本の3ポイントシュートを沈め、第2戦を合わせると3試合連続の二桁得点となった。記者会見で発する言葉の端々には、選手、そして一人の人間としての成熟ぶりがうかがえる。

第4Qで3ポイント2連発「早く出せと…」

 19日の1戦目、琉球は前半からリードする展開。第3Q序盤に岸本隆一が負傷退場したものの、その後も点差を引き離していった。

 14点を先行して迎えた第4Q、荒川がプレー再開直後に2本連続で3ポイントシュートをヒット。その後、猛追を受ける時間帯にも左コーナーから長距離砲を決め切った。残り1分を切って4点差まで詰め寄られたが、最後はヴィック・ローの4点プレーや伊藤達哉の値千金のスティールなどで再びリードを広げ、逃げ切った。

 荒川は第3Qの出場時間は32秒のみだったが、それでも気持ちを切らすことなく、コートに立ってすぐに結果を残した。ベンチにいる間は“ウズウズ”していたようだ。

 「いつもに比べたら3Qで自分がコートに立つタイミングが遅かったと思います。ただ『もっと早く出たい』『出せ』という気持ちでベンチに座っているので、心の準備は常にできています」

 今シーズンは全55試合にフル出場中。その中で二桁得点は10回あるが、その内の7回がこの14連勝中である。深めた自信が強気なメンタルとプレーにつながっているのだろう。

試合中、笑顔を見せる荒川(中央)©Basketball News 2for1

岸本、橋本、寺園…先輩から学んだ「当たり前」の基準

 一方で、以前から備えている謙虚さは変わっていない。むしろ、パフォーマンスの向上に比例してその姿勢が増しているように見える。冒頭で記したコメントが自然と口から出た理由を聞くと、「地区優勝を決められたのは『自分の頑張りがあったから』なんて1ミリも思っていません」と答え、こう続けた。

 「スポーツ選手が何かを成し遂げた後、必ず感謝の気持ちを言葉にしますが、僕は『本当にそんな感じになるのか?』と正直思っていました。でも、いざこういう状況に立つと周りにいる方々への感謝の気持ちが最初に湧くようになりました。そういった部分でも人間として成長できているのかなと思います」

 この「謙虚さ」や「人間的な成長」が、プレーの質を高く保つ上で重要な要素となっていることは間違いない。

 参考にする選手がいる。名前を挙げたのは岸本隆一のほか、レバンガ北海道時代にチームメイトだった橋本竜馬寺園脩斗だ。3人に対して抱くのは「一喜一憂せず、やるべきことを積み重ねていく」「当たり前のことを毎日こなしていく」という選手像だと言う。

 好調の要因を聞かれた際のコメントに、彼らの安定したメンタリティーが乗り移っていることが分かる。

 「自分が調子がいいことを、自分自身が調子がいいと思っていないことです。だから『調子がいいからシューティング練習をやめよう』とかも全くないですし、もっとできると思っています。今まで見てきた素晴らしい選手たちの行動を真似できていることが、今の結果につながっていると感じます」

謙虚な姿勢は変わらない©Basketball News 2for1

整理できてきた「スキルをどう使うか」

 新しい技術を身に付けたという意識はない。それよりも「持っているスキルをどういうふうにコートで使うか」「試合にどういうマインドで入るか」という部分で整理ができてきたという。

 確かに、荒川は大学時代に3人制のU23日本代表に選出され、以前から高い得点力を備えていた。琉球では高強度のディフェンスとコーナースリーを決め切る役割を与えられ、適応に時間がかかったが、所属2シーズン目にして安定感が増してきた。

 今では「結果を積み重ねてきたことで、考えずに自分の体が勝手に動くようになってきた」という好感触がある。連勝中に自信が付いた自覚はあるが、明確なタイミングは「分からない」。日々の「やるべきこと」にまい進する中で、自然と結果が伴ってきた。

 ただ「調子がいいとは思っていない」ため、当然満足はない。チームは初優勝を遂げたものの、自身は2分51秒の出場時間にとどまった3月の第100回天皇杯全日本選手権決勝も「悔しい思いをした」と振り返る。

 CSにおいても、ファイナルまで駒を進めた昨シーズンはほとんど存在感を示すことができなかった。大一番でも輝きを放つことができる選手になるため、ひたすら課題に目を向ける。

 「今日の試合を振り返えると、ボールの持ち過ぎやディフェンスの強度で反省すべき点がたくさんありました。そういったところを修正しながら、今日の感情を全てモチベーションに変え、次のステージに行けるように頑張っていければなと思います」

 CSでも高パフォーマンスを発揮し、自らのキャリアを「次のステージ」に押し上げたい。

2季ぶりに西地区優勝を果たした琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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