【バスケ日本代表】ジョシュ・ホーキンソンが振り返るW杯「自国開催でファンの応援が力に」
W杯で活躍を見せたジョシュ・ホーキンソン©Basketball News 2for1
バスケットボールニュース2for1代表。スポーツニッポン新聞社の編集者・記者を経て、2020年に現メディアを立ち上げる。日本代表やBリーグからNBA、WNBAまで国内外さまざまなバスケイベントを取材。スポーツライターとしても活動している。

 沖縄、フィリピン・マニラ、インドネシア・ジャカルタを舞台に、史上初の複数国開催となったFIBAワールドカップ2023(以下、W杯)。男子日本代表は史上初となる大会3勝を挙げ、48年ぶりの自力での五輪出場権を獲得するなど輝かしい成績を残した。

 国際大会で連敗が続いていた男子日本代表にとっては夜明けを感じさせる大会となったW杯だったが、その快進撃を支えたのがジョシュ・ホーキンソン(サンロッカーズ渋谷)だ。今年2月に日本国籍を取得したホーキンソンは、全5試合に先発出場し、チームトップとなる平均21.0得点10.8リバウンドを記録。パリ五輪出場権がかかったカーボベルデとの最終戦では終盤に勝利を決定づける3ポイントショットを沈めるなど、まさに救世主といっても過言ではない活躍を見せた。

 日本中が熱狂したバスケW杯からおよそ2カ月。改めて当時の心境や日本代表への思いをホーキンソンに聞いた。

大会後は知名度アップで生活激変「散歩もできない」

-まずはW杯お疲れさまでした。W杯を終えてみての心境はいかがでしょうか?

W杯全体を通しては、すごくいい経験になりました。日本という国を背負って戦っていましたし、会場に来てくれたたくさんファンの思いを背負って戦っていました。自国開催でファンも来て応援をしてくれるのは大きな力になりましたし、違いを生んでくれたと思います。

ファンのエナジーを感じる場面は確実にあったし、それを力に変えて勝利を手にすることができました。大きくリードされていて諦めたくないときなどにファンの応援に頼っていました。なので、僕たちにとってはファンの存在が重要な要因になっていたと思います。日本のファンのみなさんの前でいいプレーが見せられてよかったです。パリ五輪出場権を獲得できたことも非常に大きかったですね。

-テレビなどのメディア露出も増え、知名度も上がったと思います。生活の変化はありましたか?

個人としてこんな感じになるとは思っていなかったです。最初に日本に来た時と今の状況を比べるとまったく違いますね。散歩など以前は普通に出来ていたことがもう出来なくなっています。W杯後は誰も自分のことを知らなくて普通に暮らせる、ということはなくなっていますね。タクシーで移動したり、なるべく目立たないようにいろんなことをやっている感じです。もちろんみなさんに自分が誰かを知ってもらっているのは嬉しいですけど、たまには注目されずに一人でいたくなることもあります。どちらの生活にも良さがあって、ないものねだりという感じです。

日本代表の躍進についてはとても誇らしいです。国際大会で結果を出し、成長し続けていて、日本国内でのバスケ人気やレベルも大きく上がっている。それは自分にとっても常に目指していたことでした。日本が好きで、バスケが好きで、その2つがうまく融合している状態だと思います。以前から、日本国内や世界に対して日本への愛やバスケへの愛を広めていきたいと思っていました。それはずっと目標だったことですし、今後の目標でもあります。

インタビューに答えるホーキンソン©Basketball News 2for1

-W杯が始まる前、渡邊雄太選手やホーキンソン選手を含め日本代表チームには多くのケガ人が出ていました。不安などはありましたか?

(W杯は)ケガ人が多くて難しい大会になると思っていました。特に僕と(渡邊)雄太が(W杯前に)一緒にプレーできないのが大変でした。W杯では2人とも長くプレーすることになると分かっていたし、2人のプレースタイルから上手くプレーできるかどうかは心配していなかったですが、本番前にあまり一緒に練習ができていなかったのは不安要素でした。日本代表とチームの能力に自信はありましたが、(渡邊と)一緒に練習できている時間が短かったのでどこかで不安に思う気持ちはあったと思います。

そんな状況ではありましたが、メンバー全員が共通の目標を持って、それを達成出来ると信じていました。お互いのことを信じていたし、誰かがいなくてもほかの誰かがステップアップできると思っていました。実際、コートに誰が出ていたとしても全員が目標に向かって全力でプレーしていましたしね。全員が情熱をもって、試合終了の笛が鳴るまで全力でした。コート上で何が起こったとしてもです。だからこそW杯で成功できたんだと思います。

フィンランド戦大活躍でNBAレジェンドからも認知

-W杯での試合を1試合ずつ振り返っていきたいと思います。初戦はドイツとの戦い(63-81で敗戦)で、ホーキンソン選手個人としてはファウルトラブルで苦しみました

ドイツ戦は間違いなくタフな試合になると思っていました。結果的にドイツはW杯で優勝しましたしね。すごくいいチームだと思いました。でも、ドイツ戦後にボックススコアを見た時に、いろんなスタッツとかを見ていたんですけど、その試合は自分はファウルトラブルであまりチームを助けられませんでした。それでも、僕が出場していた時間帯の得失点差は「0」でした。

ドイツがどんなにいいチームでも我々は戦う姿勢を見せることができたし、もし僕がチームメイトと一緒にもっとプレーできて、勝利に導く手助けができれば、どんなチームが相手だとしても勝つチャンスがあると感じました。

ドイツ戦はファウルトラブルに苦しんだ©Basketball News 2for1

-2戦目のフィンランド戦(98-88で勝利)は18点差をひっくり返した逆転勝利でした。日本としてはヨーロッパ勢からの初勝利となりましたね

W杯が始まる前からフィンランド戦がとても重要になると思っていました。ドイツとオーストラリアは勝つのがとても難しい相手だと分かっていましたし、フィンランド戦はかなり勝つチャンスがあると思っていました。

(フィンランドのエース)マルカネン(NBAユタ・ジャズ)とは大学時代にも対戦したことがあって、彼と対戦するのはすごく楽しみでした。カレンダーの対戦日に丸をつけておくくらいね。彼を相手に何ができるかを示したかったんです。自分がどれくらい成長したかをね。彼はNBAでもスーパースターレベルの選手になって、僕はずっと日本にいて、彼は日本のバスケのことや僕の成長は知らないと思います。だから自分も成長したというところを見せたかったですね。フィンランドに勝ったこと、そして初めてヨーロッパ勢に勝ったことは日本にとってとても大きかったです。初勝利で勢いをつけられたことが、次の2勝につながったと思います。

フィンランド戦では28得点19リバウンドと大活躍©Basketball News 2for1

-マルカネン相手には28得点19リバウンドという素晴らしいプレーを見せました

実はフィンランド戦の後、オーストラリア戦の前にダーク・ノヴィツキー(元ダラス・マーベリックス)に会ったんです。自己紹介しようと思ったんですけど、僕が何か言う前に「お!君この間20リバウンドした選手だよね」って話しかけてくれて。僕のこと知ってくれているんだ、ととてもうれしく思いました。

彼にも言ったんですが、彼は小さい時から僕のヒーローで、アメリカで「ファットヘッド」って呼ばれている大きい切り抜き写真ポスターみたいなのがあって、子供のころは彼のファットヘッドを自分の部屋の壁に貼っていました。お馴染みのフェイダウェイショットを打っているやつでした。そんな彼に会うことができた。ひと夏に野球のヒーロー(イチロー)とバスケのヒーローに会うことができました。2人のヒーローに会えてとてもうれしかったですね。

元NBAのレジェンド、ダーク・ノヴィツキーからも声をかけられたという©Basketball News 2for1

-3戦目はオーストラリア戦(89-109で敗戦)でした。敗れはしましたが、ホーキンソン選手は33得点と大活躍でしたね

オーストラリアには9人10人くらいNBA選手がいて、すごくタレント揃いなチームということは分かっていました。同じ地域で育ち、ずっと戦ってきた友達のマティス・サイブル(ポートランド・トレイルブレイザーズ)もいたし、彼との対戦も楽しみでした。チームとしては非常にタフなマッチアップになると思っていました。相手は各ポジションの層も厚くて、誰かが交代したと思ったら誰かがまた入ってきて、動き続けてとにかく止まらない。ダイナミックな大型ガードもいました。

今でも我々にとって課題なのは、フィジカルが少し足りないということ。相手にはジョシュ・ギディー(オクラホマシティ・サンダー)のような206㎝あって動けるガードがいて、そこにマッチアップするのは難しいことでした。日本代表のPG陣、2人のユウキ(河村勇輝と富樫勇樹)はとても才能がある選手たちですが、サイズ的には小さいので。オーストラリアにはフィジカルの差を突かれて、特にガードポジションでは苦労しましたね。インサイドにドライブからキックなどでディフェンスを崩されて、ウイングにはパティ・ミルズ(アトランタ・ホークス)など素晴らしいシューターも揃っていたので。とめどない攻撃が続いて、我々としては守備で打つ手がありませんでした。

個人としてはインサイドで主導権を握ろうと頑張りました。相手には大きいけど屈強なタイプ、昔のアーロン・べインズみたいなタイプのビッグマンはいなかった。それよりは細くて動けるタイプのビッグマンが多かったので、いいポジションが取れれば自分が得意のフローターを生かせると思いました。あの試合ではガード陣からパスを受けて10本くらいフローターを打つことができました。個人で出来る限り勝利への糸口を探っていましたが、最終的にはオーストラリア相手に勝つには少しチームとして実力が足りなかったですね。ああいった大きくて速い強豪国と張り合うためには、チームとしてどう連携して守るかというのはもっともっと成長しなければいけない部分ですね。

オーストラリア戦では自己最多の33得点を記録©Basketball News 2for1

カーボベルデ戦で値千金の3P「人生で一番うれしかった」

-順位決定戦に進んだ4戦目はベネズエラ戦(86-77で勝利)でした。この試合も15点差を逆転した試合でしたが、ホーキンソン選手個人としては6得点と苦しみました

あの試合は何も言ってなかったんですけど、実は体調があんまりよくなくて、風邪をひいていたんです。勝利のために耐え抜こうと決めていましたが、いつもと同じようにプレーできていないのは見ていても分かったと思います。そんな感じだったので、ベネズエラ戦はとにかく「乗り越えろ 乗り越えろ」と自分に言い聞かせていました。勝ち切ることができれば次の試合には良くなると思っていたので。

ベネズエラ戦はチームとしていいスタートが切れなくて、そんな中でファンの声援が力になりました。ガード陣がいくつかビッグプレーを決めて、それがさらにファンの盛り上がりにつながって、その力を原動力に勝つ方法を見つけることができました。厳しい状況の中でも耐え抜いて勝利できた試合でしたね。本当にホームコートアドバンテージが勝因になった試合でした。ファンの声援が2勝目を挙げるエナジーになって、たとえ個人としてはいつも通りのプレーができていなくても、勝ち切ることができたのだと思います。

-最終戦はカーボベルデ(80-71で勝利)との対戦でした。第4クォーターには7分間無得点になる場面もありましたが、最後はホーキンソン選手のショットで勝利を決定づけました

カーボベルデには221㎝のウォルター・タバレスがいましたよね。通常であれば僕が外からスリー決めることで相手のディフェンスを広げることができるんですけど、なぜか最初の4試合ではスリーポイントショットが1/9とかで全然入らなかったんです。練習ではいつも通り入っていたのに試合になるとなぜか入らなくて。それでもいつかは入りだすと思っていましたし、カーボベルデ戦の大きなカギはタバレスをいかに外に出させるかということでした。ペイント内を支配させないように。彼は221㎝でリバウンドでも首位だったし、彼を外に引き出すことでガード陣がドライブやキックアウトを出来るようになる。そうすれば彼のインサイドでの脅威なしに簡単に得点が取れることになる。だから、試合前にコーチにも「今日は決まる日だ」「今日はスリーを決めるよ」って言っていたんです。

実際にあの試合では4/8でスリーを決めることができたし、タバレスを外へ引き出すことができました。終盤には左コーナーからスリーを決めて、あれは今までのバスケ人生で一番くらいにうれしかったですね。勝てばオリンピックに行けるとわかっていたし、決めた後はみんなで喜んでいましたね。だからこそスリーを決めたいとずっと思っていました。いつも決まるショットが決まらなくてチームにも迷惑をかけていたので、最後の試合でスリーを決めることができたのはすごくうれしかったですね。

カーボベルデ戦では終盤に勝利を決定づける3Pを沈めた©Basketball News 2for1

来夏パリ五輪 母国アメリカとの対戦実現すれば「楽しい経験になる」

-パリ五輪出場が決まりましたが、そこへ向けての意気込みは

トム・ホーバスHCがパリ五輪の目標などは何も決めていないと言っていましたけど、僕たちは目標やそのプロセスに真剣に向き合っています。とても重要なことだし、目標が決まったらどんなものでもそれを達成できるように信じていかないといけない。なので今のところは、もし日本代表に選ばれればパリ五輪でプレーするのが楽しみっていうだけですね。自分の力を見せたいです。

W杯ももちろん大きな舞台でしたが、オリンピックはそれ以上に大きな最高峰の舞台で出場できるのは12チームだけです。W杯は32チームが出ていましたから、よりレベルの高い舞台になります。五輪はもし1次ラウンドで敗退したら順位決定戦もないですし、すべての試合が世界トップ10レベルの国との対戦になります。だからこそ全試合を本当に真剣に戦わないといけません。もちろん今はサンロッカーズ渋谷でのシーズンに集中していますが、間違いなく来年の夏にもう一度日本代表としてプレーするのが楽しみですし、日本のバスケの発展に貢献して日本や世界のファンに日本のバスケを知ってもらいたいです。

パリ五輪出場権を獲得したバスケットボール男子日本代表©Basketball News 2for1

-アメリカ代表はパリ五輪に本気のメンバーを集めるという報道もありますが、もし対戦することになったらどうでしょうか?

SNSで見たミームで「パリ五輪でのアメリカ代表はアメリカバスケのアベンジャーズ」と言っているものがありましたね。レブロン(ジェームズ)、KD(ケビン・デュラント)、(ステフィン・)カリー、ジェイレン・ブラウンなどのメンバーが来るかもしれない、と。オリンピックでは3グループしかないですよね?1/3の確率で彼らと同じグループになる。もし五輪で彼らと戦えたら、とてもユニークで楽しい経験になると思います。

前回、日本がアメリカと戦ったのは2019年の中国でのW杯だったと思いますが、その時はボロボロでした。彼らと同じコートで日本代表のユニフォームを着て戦うことは間違いなく楽しみにしていることの1つですね。

(取材・文=滝澤俊之)

来夏パリ五輪での戦いにも意欲を見せる©Basketball News 2for1

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