
国内13カ所で盛大に行われたBリーグ2025-26シーズンの開幕カードにおける最大の衝撃は、沖縄で起きた。
立役者は東地区の横浜ビー・コルセアーズだ。10月4、5の両日、海を越えて沖縄サントリーアリーナに乗り込み、西地区の琉球ゴールデンキングスとアウェー戦を実施。77-75、79-75で立て続けに接戦を制し、開幕2連勝を飾った。
所属地区こそ違えど、昨シーズンの勝ち星は横浜BCが22も少ない。琉球は準優勝を飾り、今季も日本代表の佐土原遼の加入で優勝候補の一角に挙げられていることを考えれば、前述の「最大の衝撃」という表現は大袈裟ではないだろう。
一方で、僅差での勝利は決して偶発的なものではない。2試合を通し、横浜BCのチームとしての統率力が琉球を凌駕していた。
就任2年目に入り、今夏の「FIBAユーロバスケット2025」では母国フィンランドを史上最高の4位に導いた若き名将ラッシ・トゥオビHCが掲げる、人とボールが動いて全員で戦う「コレクティブ・バスケットボール」の進化の兆しが垣間見えた。
“ゴー・トゥ・ガイ”がもたらした「打破する力」
言わずもがな、今季の横浜BCの目玉は日本人屈指のスコアラー、安藤誓哉の補強だ。初戦の17得点、2戦目の16得点はいずれもチーム最多。クラッチタイムでスコアを挙げ、早速存在感を示した。
最大10点差を逆転して勝利した1戦目の後、安藤は穏やかな表情で「タクティカル(戦術的)な部分というよりは、チームを勝ちに導きたいという気持ちだけでした」と振り返った。まだビハインドを背負っていた試合時間残り2分を切ってからエンドワンを獲得するレイアップシュート、3ポイントシュートを連続で沈め、その思いを体現した。
昨シーズンは好勝負を演じながらも、最後に勝ちきれない試合も多かった横浜BC。クラッチタイムで相手をねじ伏せる“ゴー・トゥ・ガイ”の加入は、ラストピースとして盤石な補強と言えるだろう。
最終盤の連続得点を生んだハンドラーとしてのスコア以外にも、2試合を通して目立ったのはカッティングの動きだ。以下がその理由である。
「シンプルに(ディフェンスが)が被ってきたのもあるし、チームにはパスを出せる選手も多くいます。自分のカッティングだけでも相手のヘルプが寄って、(味方が)シュートを打てたシーンもありました。それがラッシHCがやろうとしてるバスケットボールの一つです。一人の選手としてオフボールの動きを成長させたいので、こういうコーチの下でプレーできるのは絶対にいい経験になると思います」
既にチームが表現したいバスケを理解し、順応し始めている。そう印象付けるには、十分な内容だった。
2戦目の後、キャプテンの森井健太も「誓哉さんが加入し、苦しい時間帯に打破する力をもたらしてくれました。どの相手と試合をしてもアドバンテージが取れる部分なので、本当に素晴らしいオプションの一つになると思っています」と頼もしく感じている様子だった。

継続メンバーが支えるDFとリバウンドの粘り
一方で、この2連戦で安藤の存在感がひときわ目立ったかと言うと、そうでもない。それは、いい意味で。森井や松崎裕樹、須藤昂矢、ゲイリー・クラークら昨シーズンからの継続メンバーが攻守でそれぞれの役割をこなし、チームとしての完成度の高さの方がより際立っていたからだ。
須藤は強い体幹を生かしてヴィック・ローとマッチアップし、2戦目ではウイングコンビの松崎と共に、いずれも二桁得点を記録。安藤と同じく、いずれもカッティングの動きを徹底していた。
チームディフェンスでは、ビッグマンのカバーやマッチアップする相手ごとの距離感の精度が高く、得点力の高い琉球を2試合とも70点台に封じた。昨シーズン、リーグトップの平均リバウンド数を誇った琉球に対し、2戦目は37本対36本で上回ったことも特筆に値する。
以下は森井のコメントだ。
「ディフェンスの粘り、リバウンドの粘りという部分は昨シーズンから積み上げてきたものです。スタッツには表れないですけど、須藤選手や僕の体のぶつけ合いはチームの要として、自信を持っています。まだ2試合なので分からない部分もありますが、それを40分間を通してどれだけ発揮できるかは成長が見られたと思います。出たメンバーが自分の仕事をやってくれたことが大きいと感じます」
ビハインドを背負った場面でも、追い上げられた場面でも、誰一人として個人技に走ることなく、常に全員で戦う姿勢を貫いた。昨シーズン就任したラッシHCのバスケを熟知する継続メンバーが築いた強固な土台が、安藤の加入を確かな上積み要素にできている理由だろう。

笑顔のラッシHC「ポップコーンを食べてる観客のように…」
「コレクティブ・バスケットボール」を先導するラッシHCも、選手たちの姿勢を高く評価した。
「このチームは学ぼうという姿勢が素晴らしく、コーチをするのがすごくうれしいです。いつもチームでステップアップをして、ステップダウンをしないということを常に伝えています。選手たちはそれを理解して前を向いて頑張っているので、本当に誇りに思っています」
2戦目の第1Qの終盤には、意思疎通レベルの高さを物語るプレーもあった。
トップの位置でボールを持った森井が右45度のキング開にパスを送る。その瞬間に中央を駆け抜け、ペイントエリアでリターンパスをもらうと、そのままレイアップシュートへ。と、見せ掛けて、左45度からカッティングしてきた松崎に空中からビハインドパスを送って華麗にスコアを演出した。
拍手するジェスチャーをしながらその場面に触れ、「ポップコーンを食べてる観客のようにうれしかったです」とおどけた指揮官。チームの出来に手応えを感じているのだろう。
リーグ屈指の強豪からアウェーで地で奪った2勝は、極めて価値の高い2勝になったことは間違いない。マイク・コッツァー、ケーレブ・ターズースキーと外国籍ビッグマンが立て続けにインジュアリーリスト入りする不運に見舞われ、キャメロン・ジャクソンが合流してから間もない状態で迎えた開幕2連戦だっただけに、チーム全体にとって大きな成功体験になったはずだ。
幸先のいい航海に出た横浜BC。勢いそのままに荒波を越え、さらに勝ち星を積み上げていきたい。

(長嶺真輝)






