【バスケ日本代表】12人中6人が“200cm超”も…ホーバスHCが「高さよりも手の長さ」を重視する理由
A代表デビューを果たした渡邉伶音(右)と狩野富成©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 バスケットボール男子日本代表(FIBAランキング21位)は7月5、6の両日、有明アリーナでオランダ代表(同54位)と国際強化試合「日本生命カップ2025東京大会」を行った。

 初戦はバックコートからの激しいプレッシャーやブリッツを駆使した相手のディフェンスに手を焼き、70-78で敗北。2戦目はパスを繋いでプレッシャーをいなし、トム・ホーバスHC体制で初招集となった中村太地が4本の3ポイントシュートを決めるなどして効率的に得点を重ねた。前日に比べてディフェンス強度も高く、74-53で快勝した。

 この2連戦ではテーブス流河(21歳・181cm)、湧川颯斗(21歳・194cm)、狩野富成(23歳・206cm)、山﨑一渉(21歳・200cm)、渡邉伶音(19歳・206cm)という多くの有望な若手もA代表デビューを果たし、川島悠翔(20歳・200cm)も含めてメンバーのフレッシュさが際立った。

 目を引いたポイントは年齢の低さだけではない。名前を挙げた選手たちの身長を見れば一目瞭然だが、これまでの日本代表と比べてサイズが上がったのだ。2戦目に至っては、ロスター12人のうち6人が200cm以上。平均身長は、パリ五輪に臨んだ12人の193.7cmを上回る196.0cmだった。

「動きが鈍い」「ポストプレー中心」という従来の日本人ビッグマンのイメージとは異なり、200cm以上でもフットワークやジャンプ力、広いシュートレンジを持つ選手も増えてきた。今度、若手ビッグマンたちの台頭は、ホーバスHC率いる日本代表にどのような影響を与えるのだろうかーー。

オランダとの強化試合を終えたアカツキジャパン
オランダとの強化試合を終えたアカツキジャパン©Basketball News 2for1

ドレイモンド・グリーン?「川島悠翔」が“13リバウンド”

 2日間を通し、若手ビッグマンの中で最もアピールに成功したのは川島だ。

 初日の第1Q残り1分31秒で初めてコートに立ち、すぐに輝きを放つ。湧川がドライブした際にゴール下に詰め、タップで押し込んで初得点。続くポゼッションでディフェンスリバウンド、オフェンスリバウンドを立て続けにもぎ取り、フリースローも決め切った。

 終わってみれば、1試合目は19分47秒の出場で両軍最多となる13リバウンド。2試合目もジョシュ・ホーキンソンに次ぐ6リバウンドをつかんだ。昨年、所属する米シアトル大学での練習中に左目の眼窩底骨折を負い、長らく公式戦から遠ざかっていたが、「練習はやってきたし、代表の合宿もずっと参加してきたので、不安はなく自信を持ってやれました」と振り返る。

 身長は200cm。インサイドの選手としては特段大きいわけではないが、二の腕が太く、体が強い。ホーバスHCがドレイモンド・グリーン(ゴールデンステート・ウォリアーズ)を類似選手に挙げていたが、インサイドでのポジション取りがうまく、それもうなずける。

 第1戦後、指揮官は川島の活躍を賞賛した。

「川島選手の役割はリバウンドとディフェンス。本当は3番(スモールフォワード)にしたいけど、まだ技術が足りない。ウチの4番(パワーフォワード)はピック&ポップからの3ポイントシュートを打つけど、それもまだ足りないから、少し小さいけど5番(センター)をやってみようとなりました。あのパフォーマンスはすごい。迷ってない。大きなステップだと思います」

 NBA選手になることを目標に掲げる川島も、2番(シューティングガード)や3番を担える技術を身に付けるための練習を積んでいるというが、現状では「プレーメイクやディフェンスがまだまだ」という自覚がある。自身の強みを理解し、「コーチがどういうことを求めているかを意識して、自分がやれることを精一杯やる」というメンタルで試合に臨んでいるという。

第1戦では13リバウンドを記録した川島悠翔©Basketball News 2for1

A代表デビューの「狩野富成」は2戦目で“4ブロック”

 もう一人、強烈な存在感を放ったのが、第2戦でロスター入りした狩野だ。

 ハイライトは第4Qの残り1分を切ってから。ジャン・ローレンス・ハーパージュニアからの合わせパスを受け、ファウルをもらいながらゴール下シュートを決めた。直後のディフェンスでも見せ場は続く。右45度から左コーナーへのパスに素早く反応し、ペイントエリアから走って3ポイントシュートを豪快にブロック。さらにもう一本、ゴール下でシュートをはたき落とし、会場を沸かせた。

 この試合を通し、ブロック数は圧巻の4本。「走れて飛べる方なので、そこを生かしていきたいと思っていました。持ち味のジャンプ力、リムプロテクションを発揮できたので、楽しかったです」と笑みを浮かべた。

 近年の日本代表でセンターとして定着してきた207cmの渡邉飛勇と同じく、走れて飛べるビッグマンだ。それぞれに特徴もある。2人と共にコートに立ったホーキンソンの説明が分かりやすい。

「2人は同じ系統の選手ですが、狩野は飛勇に比べてサイズがあって、もうちょっと力強い。飛勇は狩野に比べてシュートタッチとか細かい部分が上手い。それぞれ長所がある。二人ともショットブロックの能力が長けているので、一緒にやるのが本当に楽しみです」

 小柄な選手が多かった日本にとって、新たなリムプロテクターの台頭は大いに歓迎すべきことだろう。

第2戦では4ブロックを記録した狩野(中央)©Basketball News 2for1

ホーバスHC「高さよりも手の長さが…」

 その他、サイズのある若手の中では2戦目で山﨑が3ポイントシュートを1本決めたほか、パリ五輪代表として既にチームの中心を担うジェイコブス晶(21歳・203cm)が2戦とも二桁得点で安定した活躍を見せた。今回の強化試合ではロスター入りしなかったが、6月下旬の強化合宿には山ノ内勇登(22歳・211cm)も参加している。

 速いペース、5アウトのオフェンス、3ポイントシュートの多投、足を動かした粘り強いディフェンスなどの特徴が挙げられる日本代表のバスケットボール。そこに“高さ”が加わると、どのような影響が出るのか。川島が体現したように、当然リバウンド力の向上が期待されるが、それだけではない。

 第2戦後の記者会見でホーバスHCに聞くと、以下のように答えた。

「4年前に私が男子のコーチになった時、スティールを増やしたかったんです。アグレッシブなオンボールディフェンス、インバウンドでのトラップ、トランジションでのトラップとかいろいろやっていますが、手の長さがないとディフレクションとかスティールが難しいです。身長ももちろん大事だけど、長さの方が大きいです」

 181cmでウィングスパンが190cm以上あるハーパージュニアのような選手はいるが、一般的には身長と腕の長さは相関関係にある。つまり、身長が高ければ、それだけ腕も長い。スティールを狙う上で、より広く“網”を張れる選手が多いに越したことはないだろう。

 ただ、足を使うホーバスジャパンにおいては、細かいフットワークやリムランができる脚力があることが前提となる。それは指揮官の言葉からも明らかだ。

「ウチのバスケットは速いから、動かないといけない。ジョシュもすごい走るじゃないですか。だから、215cmの(あまり動けない)選手よりも、203cmとか205cm、208cmで動ける選手が必要。それで、シュートが打てる選手が、ウチのバスケットにすごくフィットすると思います」

 その視点から見れば、オランダ戦でロスター入りした若手ビッグマンたちは動ける選手が多く、山﨑や渡邉は3ポイントシュートも持ち味だ。今後、八村塁渡邊雄太のような高いレベルで万能性を持った選手が増えれば、代表の底上げにつながることは間違いない。

第2戦で16得点を記録した中村太地©Basketball News 2for1

「バチバチ」の競争環境 個々の成長でチームに変化を

 同世代で競い合っていることも、各選手にとっていい刺激になっているようだ。

「チーム内はバチバチです。みんな自分の持ち味を生かして、メンバーに残れるように頑張っています」。狩野はそう語る。同じセンターの川真田紘也に限らず、次世代の代表を担う選手という意味でライバルは多い。競争環境が自身の成長につながるか、と問われると「もちろんありますね」と即答した。

 山﨑も同様に、代表活動を成長の糧にしたいと考えている。

「先輩方もいれば、同世代で自分より代表歴の長い選手もいるので、みんなから吸収できるものがあると思います。本当に良い環境です。ただ、やっぱり自分も負けていられないので、リーダーシップを発揮していきたいです」

 8月5〜17日にサウジアラビア・ジッダで行われるFIBAアジアカップに向け、新旧メンバーの融合によるチーム力の強化と選手選考を進めている日本代表。7月11〜13日に遠征で韓国(FIBAランキング53位)と、7月19、20の両日には「Softbank CUP 2025千葉大会」でデンマーク(同59位)と強化試合を行う。熾烈な選考レースを通し、若手選手たちがいかに成長し、チームにどのような変化をもたらすのか。注目だ。

A代表デビューを果たした山崎一渉(右)©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

Twitterで最新情報をゲット!

おすすめの記事