Bリーグ東地区2位の宇都宮ブレックスは21日、沖縄アリーナで西地区首位の琉球ゴールデンキングスと対戦。最終盤の残り4分強から13−0のランをつくって74ー68と逆転勝利を飾り、66ー68で競り負けた第1戦の雪辱を果たした。通算成績は24勝7敗となり、3ゲーム差で東地区首位のアルバルク東京を追っている。
この試合からレギュラーシーズンが後半戦に突入したが、宇都宮は未だに連敗が一度もない。今シーズンは高い得点力と勝負強さを備えるD.J・ニュービルらが加入した一方、主力選手の顔ぶれはほとんど変わっていないのにも関わらず、32勝28敗の東地区3位でチャンピオンシップ進出を逃した昨シーズンを大きく上回るペースで白星を積み重ねている。
強豪の地位を取り戻した要因の一つに、日本代表が48年ぶりに自力でオリンピック出場権を獲得した昨夏のワールドカップで、アカツキジャパンのアシスタントコーチを務めた佐々宜央HCの変化がある。
38歳・竹内公輔が圧巻の“ダブルダブル” ニュービルは土壇場で逆転3P
第1戦で負傷したアイザック・フォトゥを欠いて臨んだ第2戦だったが、宇都宮は前日に悔しい敗戦を喫した影響もあり、プレー強度で琉球を大きく上回り、いきなり8ー0のランをつくる。特にニュービルと並んで二大エースの一角を担う比江島慎が積極的にペイントアタックし、第1Qだけで10得点を挙げた。
ビッグマンが少ない中、グラント・ジェレットが第3途中でファウル3つになり、琉球にインサイドを攻め込まれたが、ジェレットや竹内公輔がリバウンドで粘ってリードする展開が続いた。
第4Qに入るとプレッシャーの強度を上げた琉球のディフェンスを打開できなくなり、逆転を許す。残り4分24秒でこの試合最大となる7点のリードを奪われ、タイムアウトを取った。佐々HCは、この土俵際でどのような指示を出したのか。
「もちろんボールは動かした方がいいけど、琉球はパス回しでディナイすることを強調してるチームなので、逆に動かしてるとただ時間を食ってしまう。だからこそ単純に2対2の状況で縦に突く動きを先に入れて、そのずれたところでボールを動かしていくという選択肢を与えていました。最終的に徹底できて、ちゃんとチームとしてつくろうとしていました」
この戦略がはまり、ニュービルが縦に抜いてイージーレイアップを決めたり、ニュービルのペイントアタックから竹内がオフェンスリバウンドを掴み、ゴール下をねじ込んだりして猛追。さらに残り49.3秒でニュービルが逆転の3Pを沈め、70ー68と前に出た。その後もジェレットの値千金のブロックショットや比江島の確実なフリースローなどで突き放し、8,443人の観客が詰め掛けたアウェーの地で大きな勝利を掴んだ。
個人スタッツはジェレットが23得点、12リバウンド、比江島が17得点、ニュービルは14得点、5アシスト。中でも圧巻だったのは38歳の竹内公輔で、いずれも今シーズン自身最高の11得点、14リバウンドを記録した。特にオフェンスリバウンドは8つに上り、フォトゥ不在の穴を見事に埋めた。
第1戦はマッチアップした琉球のアレン・ダーラムに攻め込まれ、終盤の勝負所で放ったシュートも外してしまい、「昨日は本当に悔しくて、今日はやってやる、と。試合前にアイザックが出れないと分かり、ただ頑張るだけじゃなく、『やっつける』というくらいの気持ちでやらないと勝てないと思ったので、いいメンタルで試合に臨めたと思います」と振り返った。
その上で「2日間とも非常に激しいゲームになりましたけど、何とか1つ勝てて良かったです。7点差になった時にもう一度奮起し、ズルズルいかないで逆転できたことは、今後チームがステップアップするために非常に大きな要因になると思います」と見通した。
逆境での強さを支える「意志を持っている」選手たち
今シーズンの宇都宮は逆境に強い。昨年12月13日にあった天皇杯3次ラウンドの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦では、外国籍選手がジェレットのみという苦しい人員だったのにも関わらず84ー57で圧勝。昨年10月29日の同じく名古屋D戦では、第4Qで一時11点リードを奪われたところから逆転勝ちを飾った。
思うように勝利を重ねられなかった昨シーズンとはチーム内の雰囲気も異なっているという。ベテランの竹内が語る。
「昨シーズンは誰かが欠けたらステップアップできなかった。でも、今シーズンは誰かが欠けても、その選手の分までステップアップしようとなる。ロッカールームも非常にいい雰囲気ができています」
佐々HCも同じような空気を感じている。
「ビハインドになった時、選手たちに眼の強さがあり、そういう時にみんながよく喋る。一つ一つの試合で本当に諦めない。(今日の)最後の場面でも遠藤や慎、D.Jが『こういうことをやっていいか』と選手の方から意見が出る。僕は、それが本来の在るべき姿だと思う。ゲームプランはありますけど、意志を持っている選手たちがいることが、こういう苦しいゲームを勝てる一つの要因だと思います」
佐々HCが「一人一人と話す」ことを意識する理由
選手の自主性を生まれていることは、佐々HCのチームづくりの変化も影響しているようだ。変わったきっかけは、この2連戦が行われた沖縄アリーナで昨夏に開かれたW杯である。
「幸運にも、W杯でトム・ホーバスHCの下でチームづくりを経験できたことは非常に勉強なりましたし、有効なものはすごい使っています。チームとして戦っていく上で、バスケット以外の部分も含めてリーダーシップなど一人一人が役割を発揮することが必要になる。試合に出られていない選手も含め、役割をこなしてくれていることが今のチーム状況に繋がっていると思います」
2017年から2シーズン目の途中までHCを務めた琉球時代はチーム全体でのミーティングが多かったが、今は「一人一人と話す」ということを意識しているという。
「チーム作りの時に、『ここでハドルを作ってほしい』とか、こういう場面では『この選手とコミュニケーションを取ってほしい』とか、ちょっと堅苦しいですけど、コミュニケーションの役割分担のようなことを意識しています。リーダーシップをどう発揮したらいいのかということは、選手たちの中で明確になってきていると思う。ただ、まだまだではあるので、ベテランも若手もリーダーシップをもっと発揮できるようにしていきたいです」
佐々HCと同級生である竹内も「僕は信頼してもらっているのか、事細かく言われることはありませんが、若い選手は役割を与えた方が遂行しやすいという部分があるのか、コミュニケーションをすごく取っている感じはします」と印象を語る。
対戦相手ではあるが、公私共に仲の良い琉球の桶谷大HCにも「佐々HCの変化を感じるか?」と問うと、こんな答えが返ってきた。
「世界が広がって、すごい優しくなりましたよね。角がなくなってきた。チームをまとめるに当たって、そういうことであったり、チームがしんどい時にどういう振る舞いができるかは重要な事だと思っています。僕が偉そうに言うことではないですけど、広い心が身に付いて、人間として変わったなという感じはしています。コーチとして、友達として彼をすごく尊敬しています」
バスケットボールなどスポーツ界に限ったことではないが、リーダーの器は組織の有り様に大きな影響を与えることは間違いない。まだ39歳という若手コーチで、伸び代十分な佐々HCの成長と共に、宇都宮はさらに強さを増していきそうだ。
(長嶺 真輝)