「一番圧を感じた」安藤誓哉を封じた琉球ゴールデンキングスがCS・SF一番乗り…RSでの“布石”と右ドライブへの警戒が効果発揮
津山尚大(手前)をマークする琉球ゴールデンキングスの伊藤達哉©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 琉球ゴールデンキングスは9、10の両日、沖縄サントリーアリーナで島根スサノオマジックとBリーグチャンピオンシップ・クォーターファイナル(CS・QF)を行い、79ー71、88ー70と2連勝でシリーズを制した。セミファイナル(SF)進出は一番乗り。琉球のSF進出は7大会連続、7回目。

 大きな勝因の一つに、島根の絶対的エースであるPG安藤誓哉を2試合平均でわずか9.5点に抑えたことが挙げられる。

 レギュラーシーズン(RS)は平均16.3点でB1の日本人トップの数字を叩き出していた安藤。1試合あたりの平均シュート本数こそRSと同程度だったが、フィールドゴール成功率は40.5%から27.6%まで落とさせた。与えたフリースローは2試合を通してゼロ。ほぼ完璧に封じたと言っていいだろう。

 どう対策したのかーー。

足が攣るほどの徹底ぶり…小野寺祥太らのディナイと反応の速さ

 第1戦のオープニングでいきなり観客を沸かせたのは“守備職人”の小野寺祥太だ。

 マッチアップする安藤に対してディナイを張り、安藤へのパスをスティール。速攻につなげて先制点を奪った。

 1対1の場面では、持ち前の鋭い読みと脚力を存分に発揮する。例えば、この試合の第2Q中盤のディフェンス。左45度から安藤が得意とする右ドライブを仕掛けられたが、1歩目に対する素早い反応でほぼ正対した状態を保ったまま付いて行き、タフなミドルシュートを打たせた。

 簡単に抜かれることやシュートを打たれることを防ぐため、腕一本分の距離感を保つ「ワンアーム」が1対1におけるディフェンスの基本の一つとされるが、それを高いレベルで遂行し続けた。

 例に挙げたシーンの安藤の「右ドライブ」については、チーム全体で共通認識を持って警戒していたようだ。それは、第3Qの失点をわずか5点に抑えて勝利した第2戦後の伊藤達哉のコメントからうかがえる。

 「安藤選手は右ドライブが得意で、津山選手はほぼ左に行く。それをもう1回ハーフタイムで全員で話し合い、うまく守れたと思います。そこからいい流れに持ち込むことができました」

 安藤に対しては、チーム内で特にディフェンス力に定評がある小野寺、平良彰吾、伊藤が順繰りにマッチアップ。オフボール、オンボールに関わらず高強度のプレッシャーをかけ続け、試合終盤には足が攣る選手が出る程の徹底ぶりだった。

 第1戦後、小野寺は好感触を口にした。

 「明日の試合もあるので(守り方の戦術を)詳しくは言えませんが、今日は安藤選手の強みをしっかりと抑えられました。ただ、レギュラーシーズン中は2試合目で20何点を取られていることもありました。そこは僕個人としても守っていきたいですし、チームとしてもコミュニケーションを取りながらうまく守っていきたいです」

安藤誓哉を守る小野寺祥太©Basketball News 2for1

RS終盤の対戦で“隠した”ハードショーとブリッツ

 当然ではあるが、安藤ほどの優れたスコアラーを常に一人で守り切ることは不可能に近い。オフボールスクリーンやピックプレーを頻繁に使ってディフェンスのズレを生もうとするため、小野寺が「チームとして」と言ったように、いかに他の選手と連係して守るかが重要となる。

 ポイントになったのが、マッチアップする選手以外の「スタント」と「ハードショー」だ。

 スタントとは、フリーになったボールマンがドライブを仕掛ける際、ディフェンス側の選手がヘルプに行くフリをして躊躇させる動きのことを言う。島根のもう一人のメインガードである津山尚大にマッチアップしていた脇真大らが深めにスタントし、安藤からボールを離させる場面が多く見られた。

 安藤がピックを使った時のハードーショーも、スクリーナーとマッチアップするビッグマンが徹底した。時には、アレックス・カークらがそのまま圧を強めてダブルチームを仕掛ける「ブリッツ」につなげる場面も。いずれの守り方も他の選手にパスを振られて、オープンの3ポイントシュートなどを決められることこそあったが、それほど爆発力のある安藤をリズムに乗せたくなかったのだろう。

 ジャック・クーリー、カークという重量級のビッグマン2人を擁する琉球は、ピックプレーに対してビッグマンが下がりながら守る「ドロップ」を使うことも多い。ハードショーを多用したことは、島根からすると意外性があったかもしれない。

 第2戦後、桶谷HCはRSの最終盤となる4月27、28の両日にあった直接対決で“布石”を打っていたことを明かした。

 「ジャックはハードショー慣れしていないので、少しかわいそうな部分もありましたが、(安藤に対するディフェンスは)良かったと思います。RSでの島根との最終節はそこまで(ハードショーを)出さずにCSに取っておいたので、うまくいったと思います。得点以上に、安藤選手をメンタル的に削っていけたことが最後の展開につながったと感じています。ハードショーのところはみんながよく頑張ってくれました」

アレックス・カーク(中央左)らビッグマンの活躍も光った©Basketball News 2for1

ショー、ドロップ、スイッチ…「全部できる」強み

 チーム全体で安藤を抑え切るという強い意思は、対象となった当の本人にもひしひしと伝わったようだ。以下はシリーズ終了後の安藤のコメントである。

 「良いディフェンダーが多い琉球が(自分を)抑えに来ることは分かっていましたが、僕としてはレギュラーシーズンを含めて一番圧を感じた試合でした。ブリッツをされたら自分をおとりにして、パスをさばいて得点を重ねられたらいいと思っていましたが、なかなかうまくいきませんでした」

 その上で、琉球の遂行力や強度の高さを称賛した。

 「想像していた以上の準備が必要だったと思います。僕個人としてもそうだし、もっとチームに伝えられれば良かったと感じています。琉球の方がローテーションの人数が多い中で、結束力の高さや、一人ひとりが試合に向けて準備をしているということが本当に感じられました」

 琉球がセミファイナルで当たる三遠ネオフェニックスには佐々木隆成大浦颯太デイビッド・ヌワバなど得点力の高い選手が多く所属している。

 それも踏まえ、桶谷HCはチームディフェンスのバリエーションの多さに自信を見せた。 

 「(自分たちに対して)ハードショーの対策もしないといけないとなると、相手からしたら結構難しくなるんじゃないでしょうか。ドロップなのか、ハードショーなのか、スイッチなのか。今のキングスは全部できるようになってきているので、相手にとっては難しいチーム、簡単に攻められないチームになると思います」

 リーグ屈指の日本人スコアラーをうならせた琉球のディフェンスは、セミファイナル以降も大きな武器になるはずだ。

セミファイナルに進出した琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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