NBAだらけのフランスと肩を並べる時代がやってきた。
世界最高峰の新人王もディフェンス王も、さすがの存在感は示すものの日本代表を圧倒できなかった。
ビクター・ウェンバンヤマを1on1で抑え込んだジョシュ・ホーキンソン。
そして、ルディ・ゴベアの決定的なダンクをブロックした渡邉飛勇は、この試合の個人的ハイライト。
世界のトップレベルが突破できない日本の守りなんて、夢物語以上のものにはならないと思っていた。
オーバータイムではオフェンスリバウンドを許し、サイズのアドバンテージでゴリ押されてしまったが、40分間をほぼ変わらないポゼッション数で戦ったことも大変な賞賛に値する。
もうリバウンド負けする日本代表は過去のものになったのだ。
好調の八村塁と河村勇輝 “黒子”に徹した富樫勇樹の存在感
攻撃面においても八村塁は無類のパフォーマンスでフランスに襲いかかった。
試合を重ねるごとにチームオフェンスへのフィット感が増していて、アタックを仕掛けるタイミングが的確になってきている。
所属チームで一つのオプションとなっているであろうミスマッチアタックは彼の最大の特徴だと思うのだが、そのチャンスを河村勇輝が適切に生かすようになってきていることからも、八村の能力に対するチームの理解と適用の深まりがうかがえる。
また、このオリンピック期間中のオフェンスに関する重要なトピックとして、富樫勇樹の働きぶりも見逃すことはできない。
世界レベルへの適応が進み、攻撃的なプレースタイルを進化させている河村とは対照的に、富樫はその豊富な経験を生かしてオフェンスをコントロールする場面が多くなっている。
トランジションのシチュエーションであえてスピードを落として渡邊雄太のスリーポイントを引き出したり、デザインされたプレーの意図を忠実に表現しホーキンソンなどのピックアンドポップをクリエイトしたりと、自身のアタックよりもチーム全体の機能に注力している様が見受けられる。
河村、八村のメインウェポンを休ませている間にも全体の勢いを維持し続けられるのは彼の手腕によるところが大きいだろう。
このアグレッシブな河村とコントロールする富樫の関係性だが、2年前のアジアカップ時は全くの逆であった。
当時は得点能力において優れていた富樫が積極的にアタックし、河村はディフェンスとコントロールに重きを置いていた。
身長とプレースタイル、スピード感において重なる部分の多い2人だからこそ別々の役割を担うことでチームに幅をもたらしていたわけだが、それぞれの現状に合わせてタスクを入れ替えられるだけの対応力にも驚かされる。
その中でもより変化を迫られたのはおそらく富樫の方で、前を向き続けることが仕事の河村よりもさらに難しい状態であることは間違いない。
それでもオリンピックレベルのディフェンス力を相手に、プレーをスカウティングされている中で効果的にスクリーンを使い、コーチングスタッフが期待する通りのシュートチャンスをクリエイトする彼の技術はやはりこの舞台にふさわしい。
歴史的勝利逃した悔しさも 五輪1勝へ冷静な分析を
日本代表にとっていまだかつてない戦力の充実と、メインプレーヤーの好調に恵まれた試合だったからこそ、歴史的な瞬間を迎えられなかった悔しさはひとしおだ。
たらればを重ねればキリがない試合であることは間違いないが、40分間を戦って同点で終わった事実は最後のワンプレー、一つのディフェンスに重要性が集中したことを意味しない。
試合開始から積み重ねられた一つ一つのプレー、一秒一秒の判断、そのどれもが最後に1点を上回らなかった直接の要因たりえる。
第4クォーター残り数十秒の印象深い出来事に引きずられることなく、冷静に内容を受け止め、次に生かすことができれば、念願の一勝がいよいよ現実のものとなりそうだ。
(元日本代表 石崎 巧)