既視感を覚えた。
1年ぶりの再戦で改めて思い知らされたのは日本代表の強さ。
地理的に優位な条件を有した昨年の夏はある種のボーナスチャンスで、実際の力関係が反映されたわけではなかった可能性をどうしても考えずにはいられなかったが、その懸念も昨日ですっかりと拭い去られた。
日本は世界で争うチームの仲間入りを果たしていて、その内容はワールドカップ時よりもさらに充実していた。
すごすぎたドイツの「個」と「チーム力」
団体競技であるバスケットボールは組織としての連動や仲間との同調が重視されがちだが、チームの総力を決定的に左右するのは個人の力だ。
各メンバーのバスケット力が低いままではいかに高度なチームプレーも意味をなさない。
もちろん逆もまた然りで、どれだけ個々が実力を備えていても有効な戦術と共通理解がなければ勝つのは難しい。その意味において、ドイツ代表はあまりにも強大だった。
デニス・シュルーダーの突出したボールハンドリング能力と身体能力は安定かつ超高速のプレースピードを実現するため、活動の大部分を60%程度の出力に留めても問題を発生させない。
つまりそれは常に正確な状況判断を下せる快適な環境に身を置けているということで、彼のクリエイト能力は別次元の破壊力をもって日本のディフェンスを脅かした。
また、フランツ・バグナーの1対1は一見難しいシュートを見事に決めているようでいて実はそうでもない。
あれだけの質量がスピードを持って接触すればブロックされずにシュートを打つための十分なスペースを作り出せる。
恵まれたフィジカルとボールコントロール能力やステップ能力などの高度なドライブスキルを備えた彼にとっては特別な感覚を必要としない簡単なシュートだったはずだ。
そんな圧倒的ともいえる個人の集まりが、完璧ともいえるほど絶妙にスペーシングされたオフェンスシステムでお互いの動きに対して抜群のリアクションを取るのだから、止めようがない。
日本が守れないのではない、ドイツが凄すぎた。
河村勇輝と八村塁 “五輪レベル”のピックアンドロール
日本が誇る絶対的な「個」はやはり八村塁。
フィジカルの強さ、ドライブのスピード、中距離も含めたシュート範囲の広さは組織化された堅い守備を持つドイツに対しても単体で大きな脅威となった。
八村がローポストでボールを持った状況では複数人で止めにいく守り方が準備されていて、ドイツ側からの明らかな警戒が見てとれた。
そしてもう1人、存在感を示したのは河村勇輝だった。
前半にジョシュ・ホーキンソンと2回、八村と1回見せたピックアンドロールは、河村の世界のレベルへの対応を表すものだったように思う。
この3回のプレーに対してドイツは3種類の守り方を仕掛けてきたが、河村は的確に守備の急所をつき、オフェンスを成功させた。これは本戦前の強化試合では見られなかったプレーだ。
ドイツ戦、セルビア戦ともに、河村は相手チームのフィジカルでハイスピードなディフェンスに順応できず、精彩を欠いた。
ピックアンドロールの際にプレッシャーを嫌がったのか、ディフェンスからかなり距離を取ったコースのドライブに終始してしまい、チャンスを生かすことができていなかった。
資質はあるものの、世界レベルでの経験が不足していたために有効な判断ができていないように感じた。
しかし彼はこの短い時間で過去の経験を利用し、大幅な改善を見せた。
ボールサイドコーナーに人を置かない状況での河村と八村によるウイングピックは、いまや再現性の期待できるオフェンスオプションとしてオリンピックレベルでも通用するのではないだろうか。
そのトリガープレーがチーム全体の3Pのシュートクオリティを引き上げ、大番狂わせを現実のものとする。
そんな想像が大いに膨らんだ初戦の出来栄えだった。
3P攻勢 運次第でジャイアントキリングに
ワールドカップを制したドイツ代表との差は、ほんの10年ほど前の日本代表にとってアジアチャンピオンとの距離感だった。
これだけの短期間で様変わりした現状に対して驚きと懐疑の念が頭の中でせめぎあっていたが、今の日本代表はここが現在地だとはっきり示した。
古い人間の正直な気持ちを言わせてもらえれば、もう十分に満足な成果でこれ以上を望むべくもない。
一方で、日本代表の採用している戦術の可能性を考えれば、もしかしてと思うこともある。
極端なまでに3Pアテンプトの比率を高める構成は、誰にも操作することのできない「運」次第でジャイアントキリングを実現するための強力な武器になる。
短期決戦の国際大会だからこそ外れ値の発生は効果が絶大で、そしてそれは格下の特権とも言うべき戦い方だ。
運がくれば勝てるかもしれない、と思えるレベルまでになった日本代表を誇りながら、「そのとき」は次戦か、次々戦か、あるいはその両方か。
楽しい妄想はまだまだ続きそうだ。
(元日本代表 石崎巧)