パリ五輪に参加する最終メンバー12人が決定したバスケットボール男子日本代表。10日には渡欧前最後となる国内での記者会見が開かれ、トム・ホーバスヘッドコーチや選手12人それぞれがパリ五輪への意気込みなどを口にした。
選出された12人のうち、ワールドカップや五輪など主要な国際大会での経験がないのはテーブス海とジェイコブス晶の2名のみ。特に最年少20歳のジェイコブスはディベロップメントキャンプから参加し、最終的にロスター入りを果たした唯一の選手となった。
代表選考の期間中、チームにおける自身の役割は「シューター」であると繰り返し、3Pシュートを決めきることを課題に挙げていたジェイコブス。先月23日のオーストラリア戦では0/2に終わったものの、5日の韓国戦では9本中3本を成功。7日の試合でも5本中2本を沈めるなど、ロスター入りへ向けて大きなアピールとなったことは間違いない。
実は、強化試合で決めた5本の3Pのうち、4本は河村勇輝からのアシストによるものだった。ジェイコブスの代表入りを後押ししたパスには、河村の経験から裏打ちされたある思いが込められていた。
韓国戦でA代表初3P「できるだけのことをやった」
「正直、そこで終わったと思いました」
オーストラリアとの強化試合を終えて、最終候補16人に残った時のジェイコブスの言葉だ。9分20秒間のプレーで0得点4リバウンドを記録。放った2本の3Pシュートはそれぞれミスと相手のブロックに阻まれ、持ち味をアピールすることはできなかった。
「オーストラリアはメインのロスターでもなかったし、僕の役目としても、試合で1本か2本しか打てないっていう場面で多分出ると思うので、1本のチャンスを外したというのは多分すごくコーチも見ていると思う。残っているメンバーが一番上手い選手たちなので、(その中で)できるだけ自分の活躍を見せるために、もっと頑張らなきゃいけないなと思った」
最終ロスター入りへ向け、ラストチャンスとなった韓国戦。第1戦では1クォーターからプレータイムを得たものの、放った3本の3Pはすべて失敗。オープンでシュートは打てていたものの、前半を終えて3Pは0/4と悪い流れを払しょくできずにいた。
それでも第3Q残り5分27秒、トップから右へドライブした比江島慎が左コーナーにいたジェイコブスにスキップパスを送ると、A代表初となる3Pをヒット。第4Qも残り7分36秒から試合終了までプレーし、河村からのアシストでさらに2本の3Pを成功。敗れはしたものの、最大20点ビハインドからリードを奪った日本の追い上げの一翼を担う活躍を見せた。
この試合ではチーム最多の9本の3Pを放ったジェイコブス。「自分の役割を知っているので、(入らなかったからといって)そこで打つのをやめてしまうと余計悪いアピールになってしまうので、どんどん打ち続けました。周りのチームメイトが信じてくれているというところが一番自信になると思います」と安どの表情を浮かべて振り返った。
続く第2戦では、肩の荷が下りたのか、より自由なプレーを披露。3P 2本を含む8得点7リバウンド1アシストの活躍を見せ、試合後には「この2試合で自分のできるだけのことをやった」と胸を張った。
自身の経験引き合いに「成長につながる」
冒頭にも述べた通り、ジェイコブスが韓国戦2試合で決めた5本の3Pシュートのうち、4本は河村からのアシストによるものだった。それも、単に空いていたからパスをしたというものではない。特に第1戦の4Q中盤から終盤にかけては、日本が追い上げている場面で河村がドライブで相手ディフェンスを引きつけ、オープンになったジェイコブスにパスを送るシーンが幾度も見られた。河村ほどの選手であれば自分でシュートを打つことも容易いはずだが、まるでそれは、「自信を持ってシュートを打て」というジェイコブスへのメッセージのようにも感じられた。
第2戦の最後、どういった思いでジェイコブスへのパスを送っていたかを河村に尋ねると、時間の都合で会見を終了させようとするスタッフを制し、こう答えた。
「彼とは横浜ビー・コルセアーズで一緒にプレーもしてましたし、代表期間でも結構一緒にいる時間も多くてよく話したりする後輩の1人なので。思い入れというか、彼は本当に練習中からすごくシュートが入っていて、もしかしたら練習の中でここ最近は一番入っていたんじゃないかなというぐらい、シュートが入っていた。
僕も代表を若い頃に経験して、やっぱり一つの試合の中での成功例というのが、若いからこそすごく成長に繋がるというか。そういう時期に彼は差し掛かっているんじゃないかなと思うので。この2試合で彼なりにすごく自信がついた試合だったと思うし、本当に楽しみな選手かなと思います」
BリーグでのMVP獲得や昨夏のワールドカップでの活躍など、日本でも有数の支配的なプレイヤーに成長している河村だが、昔は今ほど積極的に得点を狙う選手ではなかった。2022年、当時21歳で初めてA代表に呼ばれたときにホーバスHCから「マークマンが下がった時に打たなかった。それは直さないと次のレベルには行けない」と“喝”を入れられ、自ら得点を取りに行く現在のスタイルにシフトチェンジ。よりアンストッパブルな存在となった今の河村を作り上げる大きなきっかけとなった。
河村にとってジェイコブスは横浜BCでともに練習をしていた後輩であり、ともに次世代の日本代表をけん引していく同志でもある。6月上旬に代表合宿が始まった際には、ジェイコブスや山ノ内勇登ら若手の存在について「自分ももう若くないんだなと。もっと気を遣いながら若手の選手とコミュニケーションを取りに行ったり、バスケットの面だけではない役割も増えてきている」と語っており、後輩たちとも積極的にかかわっていることを明かしている。
代表経験が少ないジェイコブスに自信をつけさせ、試合の中で成功体験を積んでほしいという思いが、韓国戦でのアシストという形で現れたのだろう。
ジェイコブスもまた、河村とのコンビネーションについては手ごたえを感じているようだ。
「(河村とは)横浜BCの時から一緒に練習をしていて、そこから1年前の合宿でも一緒にプレーして。すごくパスがうまい選手で、コートのどこに立っていても探してくれる選手。そういうガードがいてくれて、すごくシュートを決めるのも楽になりました。そういうガードとプレー出来て、すごくうれしいです」
河村やジェイコブス、富永啓生といった若手がともにパリ五輪に出場するということは、日本バスケ界にとって大きな財産になることは間違いない。日本の司令塔としてはもちろん、次世代のリーダーとしても成長を続けている河村。パリ五輪8強という目標を達成し、さらなる成功体験を積んで帰ってきてくれることに期待したい。
(滝澤 俊之)