第1節からいきなり実現した宇都宮対琉球という2021-22シーズンファイナルの顔合わせは、昨季準優勝だった琉球が連勝で制した。
会場は沖縄アリーナ。スコアは10月1日の第1戦が81-52、2日の第2戦が85-70だった。小さな離島県である沖縄で両日とも8,022人、6,510人と多くの観客を集め、注目度の高さをうかがわせた。
内容としては、2戦とも琉球が圧倒した形だった。2試合目の後半に宇都宮が押し返す時間帯もあったが、琉球が終始硬いディフェンスを武器に優位に立ち、現段階では力の差があった印象だ。年間60試合を戦う長いレギュラーシーズンにおける初めの2試合とはいえ、4カ月前のリーグの頂上決戦と同じ顔合わせで、なぜこれ程の開きが生まれたのかー。
目次
比江島につける人数の増加 厚いウイング陣の”復活”
大差となった初戦。琉球連勝という結果に繋った象徴的な場面はすぐに訪れる。
宇都宮エースの比江島慎とマッチアップした今村佳太が、第1Qで早くもファウル2つに。結果、今村の出場時間は試合を通して20分を割ったが、新加入でフィジカルの強い松脇圭志や小野寺祥太がディフェンスの強度を保ち、失点をわずか52点に抑えた。オフに復帰した田代直希主将も含め、2試合目もウイング陣がフィジカルの強い宇都宮のガードとフォワードにファウル覚悟の激しいプレッシャーをかけ続け、第1Qを6失点に抑えるなど常にリードを保って勝ち切った。
ファイナルとの違いが顕著に現れたのは比江島の得点だ。比江島がMVPに選ばれたファイナルの際は2戦合計で41得点を献上した琉球だったが、今回は計16点。1戦目に至っては4点のみだった。
2日の試合後、桶谷大HCはファイナル時点とのチーム状況の変化をこう説明した。「比江島に対して、今村がファウルトラブルになっても、田代がついて、松脇もいる。昨シーズンはこれができなかった。宇都宮は削られながらプレーしないといけなくなる。松脇1人が入っただけでも、相当チーム力が上がりました」。
一方、1日の会見で琉球の印象を聞かれた比江島も「ディフェンスをできる選手が増えて、タフなチームになった。フィジカルで少し対応できなかった」と語り、強い圧力を感じていたようだ。
昨シーズンも開幕時は今村、田代、小野寺、牧隼利とディフェンスで体を張れる選手が揃っていた琉球。ファイナル時には田代と牧を欠いていたため、特に今村への負担が大きく、ファウル数 を気にしながらのプレーで強度を高く保つのが難しかった。
今村自身が「今季はウイングの層が厚いので、(ファウル数)を気にせずにディフェンスができています」(10月1日)と語ったように、松脇が加わったことでチーム全体としての強度の高さが”復活”。田代も「自分がスタートで出てるけど、小野寺もいて、松脇もディフェンスがうまい。 控えメンバーでも強度が落ちないので、体力が切れたら変わるという状況。チームとして守備を強調していきたい」と手応えを語る。さらに今後、牧が復帰すれば鉄壁のウイング陣を形成できそうだ。
スペーシング向上 コー・フリッピンのドライブが効果的に
琉球はオフェンス面でも好結果を残した。昨シーズンは一度も80点以上を奪えなかった宇都宮に対し、2試合とも80点超え。1試合目は出場11人中10人が得点を挙げ、2試合目は6選手が2桁得点を記録してバランスのいい攻撃を貫いた。
琉球の指揮官に復帰して2年目の桶谷HCは「去年の開幕戦は僕自身がまだ選手の長所を掴み切れなかったけど、今季に関してはどういうことをやりたいか分かってくれている選手が残っている。プラスアルファで、(ジョシュ)ダンカンと松脇という新しい選手をどう生かすかを考えている。去年の最初より攻撃はスムーズにできています」(10月1日)と語る。HCと主力が残留した” 継続性”がチーム内での共通認識を保ち、バランスのいいオフェンスに繋がっている。
中でも目立ったのは、コー・フリッピンのゴールへの鋭いアタックだ。桶谷HCは、その要因にダンカンと松脇の存在を挙げる。「2人ともスリーがあるので、中がアタックしやすくなったと思います。フリッピン、(アレン)ダーラム、ジャック(クーリー)は昨季以上にインサイドにスペースがあって、ファウルももらいやすくなった」(10月2日)と解説する。
宇都宮はボールの流動性上がらず 第2戦では光明も
一方の宇都宮。琉球のウイング陣がファイナル時点より厚みを増したことで、ファイナルの時に体の強さを生かしてインサイドで得点を重ね、「ファイナル賞」を受賞した鵤誠司も2試合で計7得点と沈黙。パスの流動性が上がらず、チーム全体でターンオーバーは1戦目16回、2戦目14回とミスが続いた。流れの悪さは守りにも影響し、宇都宮の本来の持ち味である個々の選手のフィジカルの強さと緻密な連動性を生かしたチームディフェンスも影を潜めた。
2戦終了後、遠藤祐亮はこう振り返った。
「相手のディフェンスの激しさで、ボールを持ちたいところで持てない。ちょっとずつずらされていいシュートで終われない。2戦ともそこが反省点。ディフェンスの激しいチームに対して、誰が空いてるのかという判断をしっかりやっていかないといけない」。
それでも第2戦の第3Q以降は宇都宮らしいバランスのいいオフェンスが復活し、光明も見えた。ボールを動かしながらフリーをつくり、前半1本も決めることができなかったスリーを後半だけで9本沈め、一時は一桁点差まで迫った。
佐々宜央HCは「メンバーも変わってまだ噛み合ってない中でも、少しいい部分を見せられました。ただ、それを40分間通さないといけない」と課題を見詰めながら、「自分たちは昨シーズン優勝したけど、レギュラーシーズンは琉球が1位で、宇都宮は7位だった。元々の底力はまだまだ足りないという自覚は昨季からあったので、頭を叩かれた形です。改めて自分達はチャレンジャーだと認識させてくれた。高いレベルを味わえて良かった」と前向きに語った。
個人としても、HCとしてチームを率いるのは2019-20シーズン途中まで琉球で担っていた時以来となる。「チャンピオンチームを任せてもらうのはなかなかない経験。本当に幸せです。沖縄にいた頃もプレッシャーはあったけど、いい思い出しかない。最後まで120%で戦いたい。下克上の気持ちを忘れず、安齋 (前HC)に追い付き、追い越せるようにひたむきに頑張りたいと思います」と力強く決意を語った。
ジュリアン・マブンガ次第でバリエーション増
今季の宇都宮を占う上では欠かせない選手となる新加入のジュリアン・マブンガについても触れておきたい。
2戦ともベンチスタートとなったマブンガ。佐々HCが「(フィットするには)まだまだ時間がかかると思う」(10月1日)と語ったように、他メンバーとの連係はスムーズとは言えず、得点は第1戦0点、第2戦は8点と伸び悩んだ。琉球と同様に各選手がバランス良く得点するスタイルの宇都宮にとって、マブンガの高い得点能力とパスセンスをどうチームオフェンスに落とし込んでいくかは今後の課題となる。
第2戦の後半にはマブンガを起点にフリーをつくったり、自ら長距離スリーを沈めて流れをつくったりする時間帯もあっただけに、遠藤は「まだ合流してから一緒に練習してる回数は少ないけど、手応えを感じられた部分はあったし、点差も詰められた。ジュリアンも自信に繋がったと思う」といい感触を得られたようだ。
また、こうも続けた。「ジョシュとアイザックがいる時はインサイドが強くて、ジュリアンが出たらまた違うスタイルになれば相手は守りづらい。そこをレベルアップしていきたいです」。元々の強みである高い守備力に加え、同じチーム内に2つのスタイルが共存するようなチームオフェン スを構築できれば、他のチームにとって脅威になることは間違いない。
(長嶺真輝)