沖縄、フィリンピン・マニラ、インドネシア・ジャカルタの3都市を舞台に、世界32カ国による17日間の激戦を経て、ドイツ(FIBAランキング11位)が8戦全勝で初優勝を果たすというフィナーレで幕を閉じたFIBA男子ワールドカップ。大会MVPには、スタッツ、リーダーシップともに文句なしの活躍を見せたドイツのPGデニス・シュルーダー(185cm、NBAトロント・ラプターズ所属)が輝いた。
ドイツでMVPを獲得した選手は、同国が3位に入った2002年米国大会のダーク・ノビツキー以来、2人目。今大会のシュルーダーの主なスタッツは、いずれもチームトップの19.1得点、6.1アシスト、1.4スティールだった。
同じく初優勝を狙っていたセルビアを83ー77で退けた決勝後、シュルーダーは「長い道のりだった。(私が代表で活動して)10年以上が経っている。素晴らしいチーム。僕たちは(W杯に向けて)7月に合流し、コーチは私たちをまとめるのに素晴らしい仕事をして、みんなが成功のために最善を尽くした。8勝0敗という結果は信じられないよ」と感慨深げに語った。
「残り21.4秒」勝負を決した果敢なドライブ
ファイナルで顔を合わせた両チームで、唯一の180cm台という「小さなリーダー」は、大一番でも変わらない優れた司令塔ぶりを発揮した。
今大会を通して、主にシュルーダーのピックプレーからオフェンスを開始してきたドイツ。この試合でもそれを起点にセルビアの固い守りを崩しに行く。序盤から逆転を繰り返すヒリヒリした展開の中、シュルーダーも第2Q終盤には高確率で3Pを射抜いたり、スティールからの単独速攻で強烈なダンクを叩き込むなどチームを鼓舞し続けた。
特に活躍が際立ったのは、最大12点のリードを3点差まで詰められた、試合時間残り約1分の場面。母国の初優勝が懸かる緊張感マックスの勝負所で、完全に「ゴー・トゥ・ガイ」と化す。
まず、ファストブレイクでファウルを受け、フリースローを2本中1本沈める。残り39.5秒で再び2点差まで詰められたが、ここで正面から1対1で果敢な右ドライブを仕掛け、スピードで相手ディフェンスのブロックを振り切ってレイアップをねじ込んだ。21.4秒を残して4点リード。セルビアのパスミスによるターンオーバーを挟んでさらにフリースロー2本を沈め、土壇場での連続5得点でチームに勝利をもたらした。
HC、チームメートから深い信頼
ドイツは今大会の欧州予選の初戦でエストニアに66ー69で敗れ、不安定なスタートを切った。しかし、その後は順々に主力が合流していき復調。ゴードン・ハーバードHCは「アイザック・ボンガやシュルーダーらがチームに合流し、みんなの模範を示した。その結果がこれだ。ドイツはチームファーストであり、個々に才能があり、お互いを気遣い、挑戦し合ってきた」と選手たちを称えた。
チームをけん引したシュルーダーに対しては、深い信頼関係をうかがわせた。
「彼とは2021年9月に繋がりを得て、信頼と尊敬を育んできた。私がやってきた最も大きなことは、デニスをキャプテンにすること。彼はドイツ代表のキャプテンをすることに強い誇りを持ち、それを2年間全うしたんだ」
セミファイナルのアメリカ戦で24得点を挙げるなど、大会を通して勝負強さを発揮したアンドレアス・オブストも、頼もしいキャプテンに尊敬の念を示した。以下は、シュルーダーのような選手とゴールを分かち合う気持ちはどうか、と問われた際の答えだ。
「とても大きい。彼はリーダーであり、勝者だ。毎ポゼッション、毎試合で勝ちたいと思っている。私たちの前に出て、相手と競うために必要なことを示してくれた。オフェンスだけでなく、ディフェンスやメンタル面でも試合に大きな影響を与えてくれた」
シュルーダー「10年前は誰も代表選手を知らなかった」
HCや仲間からリーダーとして称賛を受けるシュルーダー。1次ラウンドのオーストラリア戦では30得点、8アシスト、2次ラウンドのスロベニア戦も24得点、10アシストと強豪相手でこそ力を発揮した。準々決勝のラトビア戦ではフィールドゴール成功率が15.4%と大ブレーキとなったが、その後は復調した。ただ、自らは優勝を達成できたことはチームに関わった全員の力だと強調する。
「歴史をつくったことはもちろん、私たちがこのトーナメントで成したことは大きな意味がある。これはチームでなければ成し得なかった。コーチ、トレーングスタッフ、フロントオフィスのみんなを含め、素晴らしかった」
プレスルームでの会見中、ネイスミストロフィーを抱えた選手たちが叫びながら会見場になだれ込み、シュルーダーに水をかけてふざけ合う姿もあった。29歳とチームでもベテランの一人に数えられるシュルーダーを含め、チームの一体感が見て取れる場面だった。
一方、この優勝がドイツのバスケットボールの成長にどんな意味があるか、との質問には興味深いコメントを発した。
「ドイツのテレビではファイナルだけが放送された。バスケは素晴らしいスポーツだ。この数年で私たちがやってきたことに対して、もっと敬意を得られることを願っている。来年はパリ五輪もある。全ての試合がテレビ放送されることを願っている」
サッカーが圧倒的な人気を誇り、競技人口も多いとされるドイツでは、バスケはまだ人気醸成の途上にあるということだろう。ただ、シュルーダーは国内外でドイツのバスケが認知されてきていることも実感しているようだ。
「ただ、私たちは歩みを進めている。10年ほど前はダーク・ノビツキーくらいしか知られていなくて、他の選手は(国内でも)誰も知られていなかった。でも、今はフィリピンに行っても、沖縄に行っても誰もが私たちのチームを知っている。私たちが国のためにやっていることを認識し始めている。それに対し、私たちも敬意を表したい」
昨年には極めてハイレベルなユーロバスケット2022で銅メダルを獲得し、今回のW杯では悲願の金メダルを獲得したドイツ。シュルーダーという確固たるリーダーを中心にチームとしてまとまり、躍進するチームに対し、世界のバスケファンが深い敬意を払っていることは間違いない。ジャーマンバスケの快進撃は、まだまだ続きそうだ。
(長嶺 真輝)