
バスケットボール女子日本代表(FIBAランキング9位)は7月3、4日の両日、有明アリーナでデンマーク(同55位)と国際強化試合「三井不動産カップ2025東京大会」を行った。
初戦は18回というターンオーバーの多さ、守備の連係ミスが目立ち、身上であるペースが速いバスケを40分間表現できずに65ー65で引き分け。2戦目はインサイドへ攻める意識が増したことで相手ディフェンスが収縮し、最大の武器である3ポイントシュートの精度が向上。チームが最低ラインに設定する40本の3ポイントシュートを放って18本を成功(成功率45.0%)させ、89ー55で大勝した。
コーリー・ゲインズHCが新たな指揮官となり、若手からベテランまで幅広い層が招集されている女子日本代表。新チームが始動してからまだ2カ月ほど。7月13日に中国・深圳で開幕するFIBAアジアカップを前に課題が明確になり、強さを増すための準備と捉えれば、意義のある連戦になったはずだ。
今後、ロスターに名を連ねた選手15人を12人に絞り、アジアカップに挑む。そのため、デンマークとの2連戦は選考レースという側面も強かった。

「自分が軸になってくるというのは、理解しています」
4日の試合後、アジアカップに向けて強い覚悟をにじませたのは、チーム最年少19歳の田中こころだ。6月7日にあった台湾戦でA代表デビューを果たしたばかりにも関わらず、2戦とも先発PGの大役を担った。
スピードのあるドライブ、積極的なボールプッシュ、ペイントタッチからの鋭いアシスト、1対1の激しいディフェンス…。初戦に一人でターンオーバー7回を記録するなど状況判断に課題こそ見えたが、2日間を通して持ち味を随所に発揮した。まだ最終メンバーは発表されていないが、意識は既に中国へ向かっていた。
土壇場でパスミス→2本連続打ち切る 見えた“大物ぶり”
名は体を表すという格言は、言い得て妙である。1戦目の第4Q残り1分を切って、スコアは同点。この試合最大の勝負所で、2ポゼッション続けてシュートを放ったのは、キャプテンの35歳・髙田真希でも、長らく日本女子のトップに君臨してきた34歳・渡嘉敷来夢でもない。二人と共にコートに立っていた田中だった。
左サイドからドライブを仕掛けてレイアップ。外れて味方がオフェンスリバウンドで繋ぎ、次は左45度からミドルシュート。2本目もリングを捉え切れず、チームを勝利に導くことはできなかったが、堂々としたプレーからは「自分が打ち切る」という明確な意思が見て取れた。
「コーリーに『お前が行け』と言われていたので、どんな状況でも、絶対に自分は打つという気持ちでやっていました。結果的に外れましたけど、思い切って打ったので、そこは良かったと思います」。チームでただ一人の十代とは思えない“心”の強さである。
この二つのシュートの前にあったオフェンスでは、田中はベースライン沿いを左からドライブし、飛び込んだ渡嘉敷に頭の上からパスを送ってサイズの大きな選手にスティールされていた。バウンドパスの方が通る確率は高かったはず。「(直後に)コーリーから『パスの選択は悪くなかったけど、大きい相手を前にしたら絶対に下からだ』と言われました。それは、言われる前に自分でも分かっていました」と自省していたという。
トップクラスのガードからすれば、勝負所での初歩的なミス。経験の浅い選手であれば、気持ちが萎縮してしまっても不思議ではない。失敗を恐れず、直後の2ポゼッションで自ら打ち切ったことに、大物ぶりが垣間見えた。
髙田も「リングにアタックすることはすごく重要ですし、それが若いうちからできているのは本当に素晴らしい」とメンタルの強さを称賛。「どんどん続けてほしい」と成長を温かく見守る。田中は渡嘉敷とのツーメンゲームも多い。オフコートでも自ら積極的にコミュニケーションを取っており、ベテランから信頼を獲得できているのだろう。

「自信がないから…」 練習に励んだ高校時代
名門・桜花学園高校時代に全国制覇やキャプテンを経験。昨年WリーグのENEOSに入団し、開幕戦でいきなり二桁得点を記録して鮮烈デビューを飾った。今年6月7日にあったゲインズ体制初戦の台湾戦では先発としてA代表デビューを果たすと、この試合でも開始13秒で3ポイントシュートを沈めるなど10得点を挙げ、周囲を驚かせた。
気鋭の新星にとっては、カテゴリーや舞台の大きさの違いは些細な事なのだろうか。
ただ、自身は「昔からメンタルが強いかと言われたら、そうではない」と言う。むしろ、以前は「自分に自信がなかった」。肝が座ってきたのは、高校時代。「自分に自信がないからこそ、自信が付くまで練習を積んできました。(気持ちが強くなってきたのは)高校2年くらいの時からですかね。その後もいろんな経験をさせてもらって、今は高校の時よりもちょっと強くなってるかなと思います」と笑みを浮かべた。
まだまだ成長途上という自覚もある。「消極的になってしまう部分はゼロではないので、もっと強くなり、そこをゼロにしていけたらいいかなと思います」と頼もしい。
アジアカップで2大会ぶりの優勝を狙う女子日本代表。2年前の前回大会、決勝で71ー73で敗れ、6連覇を阻まれた中国(FIBAランキング4位)が最大のライバルとなる。身長220cm超という圧倒的な高さを誇る選手を要する中国とは、6月の遠征でテストマッチを行い、92ー101、61ー93で2連敗という結果だった。
その経験を念頭に、田中は「6月に対戦した台湾に比べてデンマークはサイズが全然違って、すごい大きかったので、そこは中国と似ていました」と振り返る。だからこそ、「ペイントタッチをすることで、中に寄せて、外から打つシュートがすごい良かったと思います。中国と対戦する時も第1Qからそれをどんどん出せていけたら、勝ちにつながるんじゃないかなと思います」と勝利のイメージが湧いたようだ。

パリ五輪でPGを担った吉田亜沙美、町田瑠唯、宮崎早織が不在の中、新世代の旗手を担う田中に対する周囲の期待は当然大きい。それでも、当人に気負いはない。
「自分が積極的に行くことで、チームに流れを持っていけると思っているので、自分がチームの軸になることは理解しています。PGは責任の大きいポジションです。ただ、その中でもどれだけ自分なりに楽しんでやれるかが一番大事。心配を恐れず、自分らしく頑張りたいなと思っています」
先発PGとして起用し続けたことからも、田中がアジアカップデビューを果たす可能性は濃厚だろう。新体制下における2028年ロサンゼルス五輪に向けたスタートを意味し、力のある日本と中国の戦いぶりは世界も特に注目するところ。強い心を持ち、自然体で、堂々とプレーする。「らしさ」を発揮し、中国の地でも輝きを放ちたい。
(長嶺真輝)