ファイナルを戦う「宇都宮&琉球」大舞台で“Xファクター”を生み出せる要因は…白熱のシリーズは運命の第3戦へ
“Xファクター”となった宇都宮ブレックスの小川敦也(左)と琉球ゴールデンキングスの荒川颯©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 バスケットボールの世界でよく使われる「Xファクター」という言葉。

 チームの核を担う選手ではなく、周囲の予想をいい意味で裏切り、勝敗を左右するような活躍を見せるプレーヤーの事を言う。Bリーグを中心に日本バスケが盛り上がりを見せる中、少しずつ耳にする機会が増えてきた。

 5月24日に横浜アリーナで開幕した宇都宮ブレックス琉球ゴールデンキングスの「2024-25シーズン・Bリーグチャンピオンシップ(CS)ファイナル」は、両軍のXファクターがシリーズの熱気を増幅させ、白熱の展開に拍車を掛ける存在となっている。

 第1戦を81ー68で先勝した宇都宮は、22歳のルーキーである小川敦也が3本の3ポイントシュート成功を含む15得点を記録。いずれもキャリアハイの数字であり、圧巻の活躍は琉球の桶谷大HC「小川選手にゲームを決められてしまった」と言わしめる程のインパクトだった。

 一方、翌25日の第2戦を87ー75で勝って1勝1敗のタイに戻した琉球は、CSで持ち味の得点力が影を潜めていた荒川颯がこの試合で3ポイントシュートを3本沈めて13得点。こちらもCSにおけるキャリアハイ。負傷離脱中の岸本隆一を彷彿とさせるクラッチシュートを連発し、逆王手に貢献した。

 互いにエース級の選手にマークが集中するのは当然であり、一発勝負の要素が強いプレーオフではよりディフェンス強度が上がる。だからこそ、勝つためにはXファクターの登場が不可欠だ。

 とはいえ、ファイナルでは一つひとつのポゼッションの重要度が格段に増す。観客数は連日13,000人台に上り、声援の圧も強烈だ。緊迫感が漂う雰囲気の中、中心選手以外のプレーヤーが普段以上のパフォーマンスを発揮するのは容易ではない。

 にも関わらず、宇都宮と琉球はなぜ大舞台でXファクターを生み出すことができるのか。チームが築いてきた土壌にその要因があるのでないか。両軍の戦いぶりやコメントから探る。

マッチアップする小川(左)と荒川©Basketball News 2for1

全員バスケを象徴する「24アシスト」と「全員得点」

 まず一つ目は、全員で戦うという意思が深く浸透していることが挙げられる。

 チームである以上、当然の事のように思えるかもしれない。が、バスケットボールは同時にコートに立てる選手は5人のみで、特にオフェンス面は強大な力を持つ個の影響力が大きい競技だ。特定の選手にボールが偏れば相手ディフェンスも対策しやすいため、いかに全員で攻撃を展開するかは重要なテーマの一つになる。

 その意味で、第1戦の宇都宮は理想的なオフェンスを展開した。

 高い得点力を誇るD.J・ニュービル比江島慎を中心に良好なスペーシングを保ち、最大の武器である「ボールがしっかり動く美しいバスケットボール」ジーコ・コロネルHC代行)を体現。ペイントタッチして相手ディフェンスが収縮したら、すかさずキックアウトするなどして16本もの3ポイントシュートの雨を降らせた。

 3ポイントシュートを決めたのは、得点した8人のうち7人。アシストはレギュラーシーズン平均の20.5本を上回る24本に達した。

 一方、琉球は第2戦においてコートに立った10人全員がスコアを記録した。先発のヴィック・ロー、脇真大、ジャック・クーリーらが二桁得点を記録したほか、ベンチポイントが前日の20点から31点に増加。強みであるオフェンスリバウンドからのゴール下シュートやドライブ、3ポイントシュートなど選手ごとの個性を発揮して得点を重ねた。

 桶谷HCのコメントからは、この両チームからXファクターが出る要因の一つが垣間見える。

 「昨日(第1戦)は小川君がXファクターになって、今日(第2戦)は荒川がXファクターになりました。僕らは自分たちがコントロールできることしかコントロールできないから、(Xファクターが出るかなどは)分からない。でも、やり続けた時に運も出てくると思います。だからこそ、自分たちがやるべきことをやるというマインドでいます」

 全員が強い当事者意識を持ち、自分たちのスタイルを貫く。宇都宮と琉球にはその習慣が定着しているからこそ、“日替わりヒーロー”のような存在が出てくるのだろう。

琉球の桶谷大HC(中央)©Basketball News 2for1

与えられる明確な“役割”が自信に…

 小川や荒川のような経験の浅い選手にも明確な役割が与えられ、それを遂行することで自信を積み重ねてきたことも大きな要素だろう。

 コーチ陣やチームメイトから「空いたら打て」と言われているという小川は、第1戦の後に強い自覚を口にしていた。

 「自分が打っていたシュートはセンターの選手がきれいにスクリーンを掛けてくれて、相手のマークを抑えてくれました。1本目はD.Jからのパスで、自分はアシストをもらっての3ポイントシュートが多い。そこは決めきりたいなと思います」

 CSを通して急激に存在感を増している宇都宮の小川と高島紳司に関しては、相手ハンドラーに対して高い位置からプレッシャーをかけ続けることも重要な仕事だ。35歳のベテランである遠藤祐亮は、それをやり続けて結果につながっていることが、彼らのプラスになっていると見る。

 「前からの激しい当たりは、レギュラーシーズンではあまりやっていませんでしたが、自分も含めた3人がその仕事を与えられました。小川選手と高島選手は脚力がすごいので、新しい自分の良さを見付けられ、自信も付いてきたCSになっていると思います」

 それぞれがどのような役割を担い、いかに個性を引き出し合うか。チームとしての共通理解があるからこそ、力を発揮しやすい側面もあるだろう。

 琉球がそれを象徴したのが、第2戦の第2Q残り4.9秒の場面だ。32ー43の11点ビハインド。残り時間が少ない中、外角シュートの確率が低い脇に変わってシューターの荒川が投入された。期待に応え、シグネチャームーブであるステップバックからの3ポイントシュートを左45度から沈め、なんとか一桁点差で折り返した。

 この時の采配について、桶谷HCは「誰が一番シュートが入るかというところで、脇もすぐ自分が交代だと気付いていました。誰がどういう役割を持っているかという共通理解があるからこそ、出てくる選手が気持ち良く、自信を持ってバスケットができるんだと思います」と振り返る。

 とはいえ、荒川はこの試合の前までのCS6試合の平均得点は1.5点と低調だった。それでもコーチ、チームメイトが信頼し続けたことは、本人にとっても力になったはずだ。シーズンを通して積み上げてきた自信がぶれていなかったことは荒川のコメントから見て取れる。

 「自分のリズムが掴めていない状態でしたが、どうやったらポジティブに考えられるかはすごい試行錯誤していました。今までシュートが入ってなかったから、相手ディフェンスは僕をノンシューター扱いしていました。全てがつながって、今日の活躍があります。シュートが入らなくても、自分自身を信じてやる。今までやってきたことをやるという気持ちでした」

レイアップシュートを決める荒川©Basketball News 2for1

“チームファースト”なリーダーたちの存在

 最後に、チームを力強くけん引するリーダーたちの存在の大きさにも触れたい。

 彼らが安定して高いパフォーマンスを維持しているからこそ、Xファクターになり得る若手や経験の浅い選手が伸び伸びとプレーできることは間違いない。高い能力を持ちながらも、チームファーストなメンタルとプレーを貫いている。

 比江島はこの2試合で平均6.5点とシュートタッチこそ苦しんでいるが、その他の面での貢献は変わらない。以下は第1戦後のコメントだ。

 「シュートタッチがあまり良くない状況でも、自分はドライブからのアシストやリバウンドでも貢献できると思っています。素晴らしいスコアラーが揃っているので、そこをしっかり見極めながら、自分のやれることを最低限できたかなと思います」

 第2戦の最終盤に、勝利を大きく引き寄せる3ポイントシュートを沈めたローは、コート中央でのインタビューで仲間の活躍を讃えた。

 「チームを助けられたことはうれしいですが、ここにいま立っているべきは颯だと思います。自分たちが苦しい時間帯につないでくれて、その後に自分のシュートが入ったのはラッキーでした。みんな沖縄を元気にするためにやっています。第3戦、全員で戦って勝ちを掴み取りましょう」

 2024-25シーズンの王者が決まる天下分け目の第3戦は、27日の午後7時5分にティップオフされる。

 チーム内の信頼関係が深く、頼もしいリーダーの下で各々が個性を遺憾無く発揮している両チームにおいては、誰が、どのタイミングでXファクターとして台頭してもおかしくはない。ただ、お互いにほぼ手の内を知り尽くした状態で迎える最終戦は、対策の精度も上がっており、ハードルはより高くなる。

 中心選手を含め、相手の分厚い壁を打ち破り、チームを勝利に導くのはどの選手か。そして、歓喜の優勝トロフィーを掲げるのは宇都宮と琉球のどちらか。2016年のBリーグ創設以来、B1カテゴリーにおける東西の強豪として君臨してきた両雄の最終決戦は、激戦必死だ。

宇都宮ブレックスのD.J・ニュービル(右)©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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