
ホテルの一室。疲労困憊の体を落ち着け、天井を見上げた。翌日にはファイナル進出をかけた運命の第3戦が控えている。ダブルオーバータイムにもつれた第2戦まではいずれも2点差で決着し、死闘続きだった。最終戦はどんなゲームになるのかーー。激戦を想像しながら、心に決めた。
「ビッグショットを打つ場面があったら、絶対に自分が打ちたい」
5月19日に浜松アリーナで行われたBリーグチャンピオンシップ・セミファイナル(CS・SF)第3戦の後、琉球ゴールデンキングスのヴィック・ローが語ったエピソードである。
1勝1敗で迎えた最終戦、琉球は三遠ネオフェニックスに77ー69で勝利。リーグ史上初となる4シーズン連続のファイナル進出を決めた。
最大の立役者となったのが絶対的エースのローだ。この大一番でいずれもゲームハイとなる30得点10リバウンドのダブルダブルを記録し、ターンオーバーはゼロ。終盤の勝負所では3ポイントシュートを2本連続で成功させ、前夜の決意を現実のものとした。
カーク&クーリーとの連携から3Pヒット
連続3ポイントシュートの1本目は第4Qが残り4分を切り、65ー66で1点ビハインドの場面だった。
アレックス・カークがコーナー付近でボールを持った。スリーポイントライン内側から45度あたりに移動したローにハンドオフでパスを出し、そのままジャンプシュートへ。少し体を捻りながらの難しい体勢だったが、高い弧を描いてリングを射抜いた。
次のオフェンスは右45度でのジャック・クーリーとのピックプレーから。クーリーがスクリーンに行くふりをしてローのマークマンを内側に押し込み、一瞬フリーになった。迷わずジャンプ。真っ直ぐに伸びた一本の棒のようなきれいなフォームで放ち、スウィッシュでネットを揺らした。
三遠はたまらずタイムアウト。琉球ベンチから選手たちがわっと飛び出し、吠えるローに駆け寄って次々とハイタッチを交わす。緊迫したシーソーゲームが続いていただけに、ベンチ裏の琉球ファンも総立ちで喜びを爆発させた。
土壇場でリードを5点に広げた琉球は、その後は一度も三遠に肩を並ばせることなく、最後まで死力を尽くして逃げ切った。ローのビッグショットが勝負の分かれ目となったことは間違いない。

「責任を任せてもらえるなら、何回でも打つ」
第1戦のラストでも、第2戦の第4Qラストの場面でも、逆転を狙った3ポイントシュートを打った。しかし、いずれもゴールは捉えられず。自らそれに言及した上で、冒頭の「絶対に自分が打ちたい」という“決意”を宿した場面に触れた。
結果的にシュートが外れたとしても、確固たる信念があるからこそ、過度に引きづることはない。
「そういうシュートを打つためにバスケットをやっているし、練習をしています。もし、僕が今日の試合で20本外してても、21本目を打ちます。それを決めて、チームを助けられるような選手になりたい。チームの責任を任されるのであれば、僕は何回でもシュートを打ちます」
初戦は17得点、2戦目も23得点とスコアを積み上げた一方、2試合を合わせてターンオーバーは10個。「自分がBリーグのチームに加入してから、一番タフなシリーズだった」と振り返る激しい削り合いの中、初戦は34分53秒、2戦目も45分52秒と長時間コートに立ち、疲労は極めて大きかったはずだ。勝負所での8秒バイオレーションやパスミスといった簡単なターンオーバーもあった。
岸本隆一が不在で、2戦目からはケヴェ・アルマも離脱した中、役割が多岐にわたるローが徹底マークを受けることは必然だ。マッチアップしたのはデイビッド・ヌワバ、吉井裕鷹というリーグ屈指のディフェンダーであり、相手ビッグマンはハードショーやスイッチも駆使していた。
「非常にハードなディフェンスをされて、結果的にターンオーバーになったことは、三遠のディフェンスが良かったからだと思います」と振り返る。相手の力を認めた上で、守備網を打ち破るための努力も止めなかった。
「そこはしっかり反省して、試合を見て、研究して、次に切り替えることが非常に大事だと思っています。良い選手は最終的にビッグプレーを作り出すことができる。気持ちを切り替え、自分のプレーをできたことはすごく良かったです」
第3戦のターンオーバーゼロという数字が、ローの修正力の高さ、メンタルの強さを物語っている。

SF3戦で平均リバウンド数がチームトップ
エースの自覚に加え、キャプテンの一人としてチームで戦うという意思も強い。「(2戦目の第4Qで)松脇が最後に決めた場面がなければ、今日の試合はなかったし、今日の試合がなければ、自分の活躍もなかったです」と話し、こう続けた。
「チームメイトには感謝をしています。クーリーやカーク、脇もこのシリーズは非常にいい活躍をしていました。キングスの強みは全員で、チームで戦っているところです。自分が活躍できるのはうれしいことですが、チームでバスケットをしていることを忘れずにやっていきたいです」
この言葉は、実際にプレーにも表れていた。
クーリーとカークが徹底してボックスアウトされる中、ローの3試合における平均リバウンド数は10.3本。これはチーム最多だ。味方へのアシストの他、ディフェンスでもヌワバや吉井といったスコアラーにプレッシャーをかけ続け、献身的なプレーを続けた。
桶谷HCも「間違いなく彼がMVP」と断言し、エースの活躍ぶりを絶賛した。
「彼には、点を取る選手じゃなくて、勝たせる選手がMVPになるべきだとずっと言っていました。チームを勝たせられる選手になってほしい、と。今日は点数を取って勝たせた部分もありますが、それ以外のディフェンスも含めて、やっぱり彼がチームを勝たせてくれたと思います」
ローの加入初年度だった昨シーズンもファイナルまで駒を進めたが、あと一歩のところで広島ドラゴンフライズに戴冠を阻まれた琉球。ファンへの想い、ファイナルへの意気込みを問われたローは、力強く言った。
「僕はキングスファンが大好きです。Bリーグの中でもトップクラスのファンだと思います。こうして浜松まで来てくれたり、沖縄サントリーアリーナのパブリックビューイングで応援してくれたりして、とても感謝しています。ファイナルは宇都宮ブレックスのファンもたくさん横浜に来ると思いますが、キングスファンの応援の力を借りて戦っていきたいと思います」
5月24〜27日に横浜アリーナで行われるファイナル。琉球が2シーズンぶりの王者返り咲きを果たすためには、ローの活躍は必須となる。

(長嶺真輝)