B2に昇格して初のシーズンを迎える創設2年目の福井ブローウィンズ。「最短2シーズンでのB1昇格」という目標を達成すべく、B1を主戦場としてきた木村圭吾、西野曜、ライアン・ケリーを補強し、10月の開幕に向けて着々と準備を進めている。
17日には、沖縄アリーナでB1の強豪の一角である琉球ゴールデンキングスとプレシーズンゲームを実施。72ー82で敗れたものの、格上を相手にファストブレイクや激しいディフェンスなど随所で持ち味を発揮した。
福井が入ったB2東地区は、B1から降格した信州ブレイブウォリアーズと富山グラウジーズがいずれも入り、昨季のB2で56勝4敗と圧倒的な強さを誇ったアルティーリ千葉もいる。「魔境」での戦いに突入するのを前に、B1の中でもフィジカルが強いチームに分類される琉球と対戦することは貴重な経験になるはず。
昨シーズンのB3でMVPを受賞し、チームの要である細谷将司も「プラスでしかない」と見る。福井は18日も午後7時半から琉球と対戦する。
目次
多彩なディフェンスで食らい付く ベンチポイントは「43点」
試合は細谷、長谷川智伸、渡辺竜之佑、ペリー・エリス、ベンジャミン・ローソンの5人でスタート。細谷の3Pで口火を切ると、その後もオールコートプレスからスティールして得点を挙げたり、素早いトランジションから木村が3Pを沈めたりして得点を重ねる。
琉球のジャック・クーリーやケヴェ・アルマにオフェンスリバウンドを拾われてセカンドチャンスポイントを許す場面こそ目立ったが、速い展開を維持して食らい付き、39ー45で折り返した。
後半もゾーンやマンツー、オールコートプレスなど多彩なディフェンスを駆使しながら粘りを見せる。第4Qで二桁リードを奪われたものの、出場した12人のうち11人がスコアを記録するバランスのいいオフェンスを貫き、アンダードッグながら大きく引き離されることなく40分間を戦い抜いた。
新加入のケリーがいずれもチームトップの14得点、6バウンド、4アシストと奮闘。木村が3P3本を含む11得点、藤澤尚之は10得点、4リバウンドに加えて3スティールと攻守で躍動した。
この3人を含めてベンチスタートのメンバーが存在感を見せ、ベンチポイントは総得点の半分超の43点。セカンドチャンスポイントは4対22と劣勢だったものの、ファストブレイクポイントは12対2で琉球を上回った。
「フィジカルの弱さを痛感」新シーズン向け貴重な経験に
自身も過去に指揮を取ったことがある古巣との対戦を終えた伊佐勉HCは、試合をこう総括した。
「B1のフィジカルやスピードに対し、特に前半は全くディフェンスが機能していなくて、琉球のガード陣に遊ばれていた感じです。得点こそ10点差ですけど、まだまだ未完成な状態で、全く歯が立っていない。次戦は我々がやりたいバスケを増やして、もうちょっとゲームになればいいなと思っています」
意外なほどの辛口評価だったが、確かにディフェンスのローテーションミスや相手のドライブに対して1対1で崩される場面は散見された。
指揮官は「もうちょっと対抗できるかなと思っていたけど、相手のスピードに着いて行くので精一杯でフィジカルコンタクトが思った以上にできなかった」と振り返った上で、「後半は少しできていましたが、基本中の基本の1対1で簡単に打たれてしまっては相手のオフェンスを止められません」とも言った。
福井はB1での経験が豊富な選手は多いが、カテゴリーが上のリーグに所属するチームとの対戦でプレー基準も異なるため、アジャストに苦しんだ面はあったかもしれない。
過去にB1で3度リバウンド王を獲得したクーリーなど、特に外国籍選手のフィジカルが強い琉球と対戦し、細谷は「この試合を通して、僕たちのフィジカルがまだ弱いということを痛感させられました。素晴らしい経験ができた試合だったと思います」と振り返る。
今シーズンはB3からB2に戦いの舞台を移し、リーグ全体のフィジカルレベルは上がる。それを念頭に「これからB2で戦っていきますが、ここまでフィジカルが強いチームはないと思います。それをシーズン前に体感できたことは僕たちにとってプラスでしかない。B2でこれ以上のフィジカルを出せれば、優勝に近付くということを感じられた試合でした」と前向きに語った。
木村、西野、ケリーの加入で「一段階上に行った感覚」
琉球戦に関して言えば、格上相手で課題が浮き彫りになった試合ではあったが、今シーズンの福井は1年目に比べてさらなる進化が期待できるチームであることは間違いない。ベンチポイントが極めて多かったことからも分かるように、昨シーズンの主力を維持した上で木村、西野、ケリーが加入し、層の厚さが増した。
細谷が実感を込めて言う。
「練習中から、高さやフィジカルの部分が昨シーズンとは全然違うと感じていて、そのあたりのレベルは格段に上がっていると思います。チームとしてもう一段階上に行った感覚はあります」
冒頭でも記したが、福井が入ったB2東地区は極めてレベルの高いチームが顔を揃えた。昨季まで2シーズン連続でB1の得点王、ベスト5に輝いたペリン・ビュフォードが電撃移籍した信州を筆頭に、A千葉、富山のほか、山形ワイヴァンズと青森ワッツも昨シーズンはプレーオフに駒を進めている。
B1に昇格するためには、まず7チームで構成する東地区の上位3クラブに入るか、東西の上位3クラブを除いた残り8チームのうちの上位2クラブ(ワイルドカード)に入り、8チームで争うプレーオフに進出することが必須となる。
当然ハードルは高い。それも分かった上で、細谷は言い切った。
「もちろん強いチームはありますけど、B2で優勝する自信はあります。そこに向けて、ぶれずにみんなを信じてやっていけば、おのずと優勝に近付くと思います。何より、僕たちにはむーさん(伊佐HC)がいます。むーさんを信じて着いて行けば優勝すると僕らは信じています。優勝します」
選手とコーチの信頼関係の厚さは、対戦相手にも伝わったようだ。以下は、bjリーグ時代に伊佐HCと共闘し、盟友関係にある琉球の桶谷大HCのコメントだ。
「久しぶりにむーさんのチームと試合をしましたが、みんなが気持ち良くバスケをやっているというのはすごく見えました。むーさんらしいチーム作りをしているな、と。福井はB1で顔を知っている選手もいっぱいいて、個性のある選手たちだと思うんですけど。それをちゃんと機能させている。雰囲気がいいことが、良くなっていく一番重要な肝なので、強いチームになる可能性はあると思います」
「プロ不毛の地」福井に根付いてきた感触も
昨シーズンは創設1年目にして、B3で46勝4敗という圧巻の強さでレギュラーシーズンを終え、プレーオフも全勝で優勝を飾った福井。シーズンを通してホーム戦無敗だったこともあり、試合を重ねるごとにファンが定着し、会場の盛り上がりも増していった。
本拠地とする福井県はプロ野球やJリーグのチームもなく、「プロスポーツ不毛の地」と言われることもあったが、細谷は徐々にブローウィンズが地域に根付いてきている感触があるという。自身は“バスケ王国”と称される秋田県を本拠地とし、地域に深く愛される秋田ノーザンハピネッツに所属した時期もあり、その経歴にも触れながらこう言った。
「スーパーに行ったらすぐに声を掛けられたりとか、街を歩いていても(初めの頃とは)全然反応が違います。僕はハピネッツも経験していますが、その時と同じような感覚がありますね」
クラブが地域に根付いていく過程を肌で感じられるのは、草創期にあるチームならでは。ファンあってのプロスポーツ選手として、キャリアが10年を超える細谷も改めてやりがいを感じられる部分もあるのだろう。
「やっぱり一番は、B1に昇格することです。それができればチームがもっと飛躍して、知名度が上がっていくと思います。一日でも早くキングスさんのようなクラブに近付けられるよう、結果を出していきたいなと思っています」
過去、Bリーグへの新規参入から最短2シーズンでB1まで駆け上がったチームは長崎ヴェルカのみ。言わずもがな、B2昇格に比べてB1昇格の壁は極めて厚い。1年目の勢いそのままに、B2でも福井の地から旋風を巻き起こせるか。注目だ。
(長嶺 真輝)