21日、Bリーグ1部・横浜ビー・コルセアーズ(中地区2位)がチャンピオンシップ(CS)・セミファイナルで琉球ゴールデンキングス(西地区1位)にシリーズ開幕から2連敗で、敗退した。
昨年、準優勝を果たすなどポストシーズンの経験豊富でロスターの層も厚い琉球とのアウェイで戦いはシリーズ突入前から厳しいものになることが予想されていたが、横浜BCにとってやはり壁は高かった。かつては降格の危機に瀕していた時期もあったチームは「怒涛の」1年に幕を閉じた。
天皇杯、チャンピオンシップで初の4強
エースの河村勇輝の故障を敗因の一端に挙げないわけにはいかないが、Bリーグが始まってから西地区で6連覇を果たし、勝つ術を知る琉球との経験や層の厚さ、勝負強さ、攻守における強度の徹底など、チームとしての力量にも差があった。
それでも、横浜BCが積み重ねてきた戦いぶりが色褪せることはない。2022-23シーズン。開幕から3勝7敗と出だしは悪かったが、得点面でも急成長を遂げつつあった河村の成長もあり、そこから徐々に調子を上げて勝ち始め、一時は川崎ブレイブサンダースを抜いて中地区の首位に立ちもした。天皇杯でも、準決勝で琉球に惜敗したものの、躍進した。
そして初めてつかんだCSへの切符。横浜BCは出場8チームの中で最低の勝率(33勝27敗、5割5分7厘)となったが、クォーターファイナルの川崎戦もセミファイナルの琉球戦も、今の横浜BCなら何かが起きるのではないかと周囲は注目した。それは無論、今シーズンを通じての彼らの戦いぶりがあってのことだ。
青木勇人HC「チームとして戦った」
「勝負の世界なので、優勝するチーム以外は負けて終わるというのがこの世界の常だと思います」
敗退が決まった後の記者会見。そう話した横浜BCの青木勇人ヘッドコーチの口ぶりと表情は、清々しさを感じさせるものだった。前日、18ターンオーバーを記録するなど力を出せずに敗れた試合の後の険しい表情から一転していた。
敗退してなおそのように振る舞えたのは、リーグのベスト4にまで勝ち残ったからという結果に安堵したからだけではあるまい。上述したように、シーズンをかけて横浜ビー・コルセアーズというチームのアイデンティティを作り上げてきたことに対しての手応えを、日本のバスケットボール界に示すことができたことへの充足感ではなかったか。
それは、青木HCのこんな言葉からもうかがえた。
「今日は負けてしまったんですけれども、チームとして昨日から修正して戦えた。シーズンを通してもチームとして戦ったという、そういう片鱗は見せられた部分はあったのかなと思います」
20日の琉球とのSF初戦後。琉球の桶谷大HCは勝利を喜ぶ一方で、横浜BCというチームが今シーズン見せてきた粘り強さについて言及した。
「横浜さんが今シーズン怖いなと思うのは、すごい結束力があるというか、リードをされていてもそこで終わらないっていうのが彼らの強さだと思っているので、本当にリードが何点あってもトランジションのスリーポイントがあるチームですし、セカンドチャンスもあるので、そういうことが起きたら自分たちがやるべきことをやり続けることが重要かなと思っています」
これは横浜BCへの賛辞である。「諦めないチームを作ろうとしてきた」と述べた青木HCは、以前、アシスタントとして共に琉球で指導をしていた桶谷のその言葉を「すごく嬉しい」と喜んだ。
河村の成長もワンマンではないチーム力見せた
河村の個人的な力量が一気に向上したことが、Bリーグが始まって以来、昨シーズンまでの6年で1度として勝ち越したことすらなかったチームの成績を押し上げたことは動かしようのない事実だろう。では横浜BCが彼のワンマンチームだったかと言えば、正鵠を射ているとは言えない。
奇しくもそれは、河村が右脚の故障で試合を欠場するようになった4月以降、証明された。同月上旬の川崎を相手に連敗を喫したが、両試合で序盤の劣勢から追い上げを見せ、接戦に持ち込んだ。また、シーズン最終盤に復帰も再度、右脚を痛めた河村は、CSのQF川崎戦でベンチスタートとなるも、他の面子が奮起し、かつ河村の負担を減らすべくデビン・オリバーがボールハンドラーとなるなどでより攻撃面での選択肢が増えるなど、思わぬ効果を生んだ。
そして琉球とのSFでも、河村の出場時間がシーズンと比べて約6分少なくなった中でもチームは一進一退の戦いを演じ、最後まで食らいついてみせた。
「自分がボール運びやトップにいることがいつもは多い中で、そうした負担を減らすために僕がコーナーでステイしていて他の選手たちがボール運びをしたり、トップでのピックを使ってしっかり点につなげたり、本当に頼もしいチームメートたちだなというのは感じています」
QFの川崎戦。横浜BCはそれぞれ91得点、104得点と、河村が十全じゃない状態でも、それを補う躍動ぶりでオフェンスを爆発させている。上の言葉はそのシリーズに勝利した後の河村のものだ。
今シーズンから加入のチャールズ・ジャクソンとオリバーという外国籍2選手はフィットしたが、それは単に2人のプレースタイルが合致したというだけでなく、ともによくコミュニケーションを取りチームの士気を高めるなどリーダーシップでも際立った。ここはフロントの慧眼だった。
ジャクソンはチームが勝ちだすにつれ、徐々に自分たちのことを信じられるようになり、シーズンが進むにつれて徐々に高い目標へ向かっていく意思が固まっていったと証言した。
「皆、よりハードに練習するようになったし、他の選手がそうすれば自分もといった具合でドミノ効果のように伝染していったんだ。誰もがハードに練習したがったし、誰もが体育館にいたがった。そして全員が同じゴールを向いていた」
育成型のチーム作りで「一石を投じる」
大企業を中心とした大きな資本が近年、Bリーグの球団経営に参入していることもあって、オフの選手の移籍の活発化はとどまることを知らない。横浜BCにしても、来シーズンも同じ面子でできる保証は当然、ない。横浜BCにはいわゆる強豪と呼ばれる球団ほどの潤沢な予算があるわけではないが、それでも今シーズン、ポストシーズンのベスト4にまで到達した事実は、このリーグに何かを投げかける。
そこについて、青木HCは言葉に熱さと矜持を込める。
「(横浜BCは)すごくいっぱい選手を引き抜いたりというタイプのクラブではなくて『育成型クラブ』というのを謳ってここまで戦ってきました。その中で、限られた環境の中でどうやってチームが戦うかっていうのをフロントがすごく考えてチームを作ってくれていると思います。現場、フロントとタッグを組んで、しっかりとタスクにフォーカスしながら、それぞれが自分の場所で主人公として輝いて戦っていけば、こうやって“4つ”に残って戦うことができるっていうのを、証明まではしていないですけども、一石を投じる、そんなシーズンだったかとは思っています」
青木HCが今シーズンのチームの戦いぶりを「見ていて楽しかった」と振り返れば、河村は「本当、ワクワクしたシーズンだった」とした。厳しいプロの世界でそういった言葉が当事者たちから聞こえてくることは稀だが、横浜ビー・コルセアーズの今シーズンのバスケットボールとはまさにそういうものだったということだ。
「こんな日が来るなんて」
QFで川崎をスイープで破ってベスト4進出を決めた直後、観客席の横浜BCファンの女性が声を震わせながら、一緒に観戦に来ていた知人に向けてそうつぶやくのが聞こえてきた。
そう思わず口をついてしまったのも無理はない。Bリーグ初年度から3年連続で降格の危機に瀕した「あの」横浜BCが信じられないシーズンを送ったのだから。
(永塚 和志)