Bリーグでは初のポストシーズン進出を目前にする横浜ビー・コルセアーズは、第30節の川崎ブレイブサンダースとのB1中地区首位決戦で2連敗を喫した。
2つの黒星は川崎という常勝チームとの力量の差を示したとも言えるが、一方でその結果には反映されない、横浜BCのチームとしての成長と可能性を感じさせるシリーズとなった。
エース河村勇輝がケガで欠場 後半巻き返すも及ばず
月頭の試合でエースPGの河村勇輝が右大腿二頭筋損傷という全治4週間程度の故障を負い、彼抜きでこの川崎とのシリーズに大きなディスアドバンテージを持って入った横浜BCは、2試合とも試合序盤から相手のディフェンスプランにうまく対応できなかった。それにより得意のファストブレークとセカンドチャンスからの得点が伸びずに差を広げられ、主導権を握られてしまった。それぞれ後半の巻き返しで勝利の可能性を演出したが、振り返れば前半に大きなビハインドを背負ってしまったことで、追いつくだけでエネルギーを使い、相手に対処する時間を与えてしまったことが敗因になったと言えるだろう。
川崎のうまさの前に「いなされた」ところもあった。たとえば9日のシリーズ2戦目。横浜BCは後半、川崎を上回るプレーを見せ徐々に差を詰めたが、一方で、連続得点で勢いをつけようとすると川崎の大黒柱で安定感のあるC、ニック・ファジーカスにボールを集めて得点し、またファールをうまく使うことでそうさせなかった。
「川崎のチームのうまさ。ああいう(勢いに乗りかけている)ときにファールされることや、うちのミスを点につなげるといううまさも嫌だなと思っていました。うちとしてもチープなファールはするなと毎回、ホワイトボードに書いているので、ギャンブルして(ボールを)取りにいってファールとされるときに『(審判へ向けて)いやファールでしょう』みたいなのはどんどん避けていきたいと思っています」
試合後、その点について問うと横浜BCの青木勇人ヘッドコーチはそのように答えた。横浜BCは2月上旬のホームでの千葉ジェッツ戦でも連敗を喫しているが、このときも前半のビハインドから後半に追い上げる展開に持ち込みながら及ばなかった。このときは、勢いに乗りかけると自軍のディフェンスの際にファールで相手にフリースローを与えてしまい、やはり流れが切られてしまったところがあった。同HCはそこにメンタル的なミスがあったと認めている。
横浜BCが今後、つねにポストシーズン争いを繰り広げ、究極には優勝を狙っていくうえで、こうしたうまさ、狡猾さのようなものは身につけていく必要があるのだろうが、しかしそれを一朝一夕に得られるものではないし、ファールをしないように抑えながら、縮こまってプレーするのは彼らのような若く経験の浅い選手の多いチームにおいてあってはならないことだ。青木HCも「ソフトになってしまうとうちのバスケットが崩壊してしまう」と、思い切りの良さを消すような言葉を選手たちにかけるつもりはない。
チームディフェンスに自信 森川正明 「今年の強み」
横浜BCが初のチャンピオンシップ(CS)進出を果たす可能性はかなり高いが、レギュラーシーズンもまだ10試合を残している。よりミスの許されないCSへ向けて同HCが求めるのは、アグレッシブさは保ちつつもスマートさも兼備することだ。
「相手を見てプレーするのは大事。自分が誰についているのか。シューターなのかドライバーなのかとか、そういうのは試合を経て“トライ・アンド・エラー”を重ねていくところもあると思うので、そこは試合で得ていくしかないと思っています。相手あってのバスケット。簡単ではないと思いますが、前よりはどんどんうまくなっていると思います」
今回の連敗で地区優勝は苦しくなったが、横浜BCがBリーグ7年目にして初めてCSのコートに立つ日が近づいている。同リーグ初年度から3シーズン連続で降格プレーオフを戦い、B1にとどまるのが精一杯だったチームが、だ。
今シーズン、河村という珠玉のポイントガードが大飛躍を遂げたこともあってチームが躍進を遂げているとはいえ、川崎やその他の強豪と呼ばれるチームと比べると、総じて戦力にはまだ一定程度の差がある。それでも上位チームと伍して戦うことができるようになったのは、このチームにひとつ「激しいディフェンスから走る」というアイデンティティができたことと、選手たちが指示を仰ぐのではなく能動的にコート上で直面する問題等に対応できるようになってきたからではないか。
今回の、大きなビハインドからの反撃の末に敗れた川崎との2戦は、それが表れたシリーズとなった。
「今年のチームはディフェンスの意識を高く持っているチームで、点差は離れることもありますけど、一つ一つ、自分たちのディフェンスをやっていけば必ず追いつけるというのは、今日の試合に限らず、今までの試合でもそういった展開はありました。そこは自分がたちにそれだけの力があると信じているので、今日の試合もまず一つ一つ、しっかりディフェンスをやって返していこうというのは試合中にみんなで話し合っていて、それができたところです。エナジーを落とさずにプレーできるというのは今までのチームにはなかったというか、今年のチームはみんなそれができるのが強みの部分かなと思います」
今シーズンで横浜BCに来て3年目。コートにいるときもベンチでも、ときにオーバーリアクションと大声で味方を鼓舞するベテランSFの森川正明は、8日の試合後、このように話した。
初のCSへ前向き 森井健太「もっと強いチームに」
若さと勢いは、勝ちに恵まれていなかったチームが強くなっていく過程で必要とする淵源のようなもので、ある意味で経験値の高い強豪チームでは醸し出せないものでもある。横浜はまさにいま、その若さと勢いを力の源として「勝てるチーム」へと変身しつつある。
「すごく楽しいところだろうなって思いますよ。僕も東芝ブレイブサンダースの入団1年目は“Bランク”のような順位がずっと続いてきました」
横浜BCについて川崎のベテランPG、篠山竜青は、自身のチームにもそういう時期があったと少しの郷愁のトーンを含めながら話した。篠山の入団初年度のブレイブサンダースはJBLで最下位となったが、翌年、ファジーカスが加わったこともあって準優勝を果たしている。そうして昇っていくとき「ならでは」の快感に似たものが横浜BCにもあるのではないかと言うのだ。
横浜BCで指導者を始め、しかし成績不振のために一度はチームを離れざるをえなかった青木HCにとっても、本来ならば抑えられないほどの個人的な感激があるはずだ。
「いままでの横浜は神奈川ダービーで首位対決という場面にはまったく参加できないままいたチームでしたが、今年、始まるとき、この時期に横浜がこの場所で、神奈川ダービーで中地区1位を争って戦うことができているかどうかっていうのを思っていた方がどれだけいたかというなかで、自分たちでこの位置を、この挑戦権を勝ち取った、そんなゲームだと(選手たちには)伝えました。ここまで来たのは自分たちの力ですし、ブースターさんたちが自分たちのことを信じてくれたそんな証だと思います」
首位決戦に入るにあたって選手たちをどのように送り出したかと問われた青木HCは8日の敗戦後、そのように語り、試合を振り返って言葉を続けた。
「出だしは点差を離されてしまったところもありましたが、それでも切れなかったのは選手たちの気持ち、ブースターさんたちの思い、クラブの気持ちが最後まで乗っていたからだと思います」
上述したように横浜BCのCS進出は決まりつつあるが、若さと勢いのチームがレギュラーシーズンの残りの試合で無為に戦うわけにはいかない。キャプテンの森井健太は言葉に力を込める。
「いま、河村選手がケガで出ていないのは本当にチームとしては厳しい状況ですが、そこで『自分が主役だ、自分がこのチームを支えている』という気持ちを1人、1人が持たなきゃいけないですし、そういった気持ちをプレーでも出せればさらにチームとして武器が増えていくと思います。まだCSは決まっていないですけど、CSではもっと強いチームになれるチャンスなので全員で前を向いていきたいなと思います」
今シーズン加入のアメリカ人SF/PF、デビン・オリバーは、川崎との連敗はあったものの、大事なのはポジティブな姿勢を崩さずに前へ進んでいくことだと語った。
「プレーオフになれば今いない選手も全員、戻ってきます。このチームはシーズンと通じて成長をしてきて、高いエネルギーとケミストリーが備わった、結束したチームです。だから僕らはポジティブにプレーをし続けて、全員が戻ったときにはいい試合ができるはずです」
5日のサンロッカーズ渋谷戦は河村不在で勝利し、今回の川崎との連戦でも、負けはしたが戦える集団であることを示した。横浜BCがどこまで練度を高め、ポストシーズンへ向けて勢いをつけていくのかが、残りのレギュラーシーズンの見どころとなる。
(永塚 和志)
関連記事
河村勇輝「相手が嫌がる選手に」 横浜ビー・コルセアーズを導くエースの進化が止まらないワケ
河村勇輝が見せた「覚悟」 横浜ビー・コルセアーズが満員のホームで大きな白星