Bリーグ1部(B1)・群馬クレインサンダーズは4月15日、ホームで宇都宮ブレックスに79―71で勝利。こけら落としとなった新ホームアリーナ・オープンハウスアリーナ太田(通称「オプアリ」)で記念すべき1勝目を挙げた。
目次
コンセプトは「スモールアリーナ、ビッグビジョン」
「スモールアリーナ、ビッグビジョン」
それこそがオプアリのコンセプトだ。
2021年にホームタウンを前橋市から太田市に移転。人口約22万人の太田市で新アリーナをつくるうえで重視したのが、コンパクトながら臨場感あふれる空間を実現させることだった。
収容人数は5,000人と他アリーナと違いはないものの、唯一無二の存在感を放つのがアリーナ中央に吊るされるセンタービジョンだ。国内最大の6,100インチの大型ビジョンには合計14画面が設置されており、アリーナのどこからでも画面が見やすい作りになっている。またそれぞれのビジョンは可動式となっており、演出に合わせてさまざまなスタイルでビジョンを活用することができる。
また、アリーナには84の照明が設置されており、コートに光を集めることで劇場のような空間を演出。音響設備は50機のスピーカーと24機のサブウーハーがあり、それらを組み合わせることでコンパクトなアリーナながら大迫力で試合を楽しむことができる。リボンビジョンで広告を流すことができるので、コートサイドの広告パネルも撤廃。コートと座席の距離はわずか2メートルと、チームの一員になったかのようなかつてない臨場感を実現している。
メインコート以外の設備も充実している。トイレは合計158個設置されており、入り口と出口が異なることでスムーズな動線を確保。授乳室なども設けられており、それぞれが個室になっていることで女性でも男性でも自由に利用することが可能だという。アリーナ外には太田マルシェからたくさんのフードトラックが出店しており、あらゆる種類のグルメを堪能することができる。
新B1の基準にもなっているVIPルーム・ラウンジは6部屋55席用意されており、3つ星レストランが用意した料理を食べながら革張りのイスで観戦する試合は、極上の非日常体験となるだろう。
オプアリの雰囲気に並里成も感激「すごく気合が入った」
15日のこけら落としでは、試合前のセレモニーでアリーナが暗闇に包まれ光と音による演出が始まると、自然と観客から拍手と歓声が沸き起こった。試合終盤、接戦の中で群馬の選手が得点を重ねたシーンでは割れんばかりの歓声が場内にこだまし、その雰囲気はさながらチャンピオンシップファイナルのようだった。
「(今までとは)全く別のホームコートになったような、一瞬、自分たちのホームコートじゃないと思うぐらい」と語るのは、今シーズンからチームに加入した並里成だ。昨シーズンまで琉球ゴールデンキングスに所属した並里は、国内最高ともいわれる沖縄アリーナでのプレーも経験している。新たにできたオプアリの環境は沖縄アリーナに勝るとも劣らないものだと並里は語る。
「本当に(今までと環境が)すごく変わっていて、演出だったり、僕らもすごく気合が入ったので。思った以上に『質』というか、そういうものにもすごくこだわっているんだなと。こうやってアリーナで練習も試合もできることにすごく感謝しています」
豪快なダンクで記念すべき初得点を決めたマイケル・パーカーも「新しいアリーナは素晴らしい雰囲気で、一生に一度の経験をすることができた。日本でも最高峰のアリーナだと思う。本当にホームコートアドバンテージを感じた」と振り返る。
環境面の充実で選手獲得へのアピールポイントに
2019年6月に株式会社オープンハウスが群馬クレインサンダーズの経営に参加して以来、2021年にホームの移転や新アリーナ建設計画が発表され、そして2023年4月に新アリーナオープンと目まぐるしいスピードで進化を続けてきた群馬。チームとしても2020-21シーズンには史上最高勝率でB2優勝・B1昇格を果たし、オフには当時B1でスターとして第一線で活躍していた五十嵐圭を獲得。今シーズン開幕前には前述の並里や日本人ビッグマンとして将来が期待される八村阿蓮を獲得するなど、コート内外で成功を収めてきた。
そういった選手の獲得の面においても、この新アリーナ計画は重要な役割を担っていたという。大型ビジョンが設置されたコートはもちろん、アリーナ内につくられた練習用のサブアリーナやアイスバスなどが置かれた選手専用のロッカールームなど、環境面での充実も選手にとって大きな魅力となった。
チーム加入2季目の五十嵐は「アリーナ建設の予定が決まっていた段階で、この群馬のチームに移籍してきた一つの理由として、やはりこの新しいアリーナでプレーをしてみたい(ということがあった)。そのときのコートに立って、何を感じるか、そういったものを味わってみたいっていう思いがこの群馬クレインサンダーズに移籍をしてきた一つの理由でもあった」と新アリーナが移籍を決断した要因の一つだったと語る。同様のコメントをパーカー(2019-20シーズンにチーム加入)も残しており、トップレベルでプレーする選手たちにとっても群馬への加入を決める大きなファクターとなっていることは間違いない。
ファンも選手も呼びこめるアリーナづくりを
B1基準をクリアしながらも地域にあったサイズ感で、なおかつ魅力あふれるアリーナをつくり上げた群馬。人口22万人と決して大きいとはいえない地方都市ながら、宇都宮戦では2日間で10,000人以上を動員した。集まったファンはもちろん、プレーする選手やHCからも多くの笑顔が見られたことからも、いかにこの新アリーナが特別なものかがうかがえる。
「会場に入っていただいて非日常空間を味わってもらいたいなっていうのが、我々の狙いでもあります」と群馬の吉田真太郎GMは語る。
「(アリーナをつくるときに)最初、私が掲げたのが『東京ディズニーランドにしたい』ということ。このアリーナが群馬県にとって、一つのエンタメとなるようにしていきたいです」
2026年の「新B1」を目指すべく、現在Bリーグでは多くのチームがアリーナ建設計画を進めている。これまではどうしても大都市や首都圏のチームに優秀な選手が集まり、観客動員数も多くなる傾向があったが、今回の群馬のアリーナづくりが地方チームにとっては成功するための一つのモデルケースとなり得るのではないだろうか。
ファンも選手も呼びこめるようなアリーナづくり。群馬のオプアリは、まさに「スモールアリーナ、ビッグビジョン」を体現した空間だ。
(滝澤 俊之)