【バスケ日本代表】恩塚ジャパンの"頭脳“吉田亜沙美「パス出せば決めてくれる」 4試合でシュートゼロも存在感が際立つワケ
日本代表の吉田亜沙美©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 バスケットボール女子日本代表(FIBAランキング9位)は6日、有明アリーナでパリ五輪前の強化試合をニュージーランド(同26位)と行い、92-50で快勝した。2日前にもニュージーランドに125-57で圧勝し、6月にあったオーストラリア(同3位)との2戦も含め、国内で行った四つの強化試合を全て勝利。良好な仕上がりで、決戦の地へと旅立つ。

 素早いトランジションからのレイアップ、誰でも、どこからでも狙える高確率の3P。それぞれが常にリングから目を逸らさず、怒濤のようなオフェンスを身上とするチームにあって、一人独特な空気をまとっている選手がいる。

 最年長36歳の吉田亜沙美だ。

 この4試合を通し、得点以前にシュート試投数はゼロ。プレータイムが10分を超えた試合もない。これまで所属チームや代表で常に中心を担い、アシストと同様に高い得点力も武器としていた吉田からすると考えられないような数字だ。

 それでも林咲希主将が「ゲームの流れを一番理解している」と言うように、チームメートからの信頼は厚い。ド派手な金髪に覆われた頭脳に、際立った存在感の理由が隠されている。

記者の質問に答える林咲希©Basketball News 2for1

絶妙アシストを連発 “視野の広さ”と“感性”健在

 パスで沸かせた。

 ニュージーランド戦の最後のワンプレー。試合終了間際にボールを持った。トップの位置からドライブを仕掛ける。ビッグマンがカバーに入ると見るや、絶妙なタイミングで左コーナーの宮澤夕貴にパスを送り、ブザービーターの3Pをヒット。会場を埋めた10,745人の大歓声と共に、パリ五輪前の国内最後の強化試合を締め括った。

 絶え間なく前線から仕掛ける激しいプレッシャー、素早いトランジション、ペイントタッチをきっかけにつくるフリーの3P。強化試合を通してチームが高い完成度を示し、吉田も「スモールラインナップで、足の強さというのは日本の武器だと思っています。日本のバスケットはどんどん進化していますし、強さも出てきてると感じています」と好感触を語った。

 この試合、吉田が持ち味のパスで会場をどよめかせたのは、前出の場面だけではない。

 ゴール下で一瞬フリーになった選手に鋭いノールックパスを送ったり、ファストブレイクで相手ディフェンスの裏に抜け出したプレーヤーに完璧なタイミングで縦パスを送ったり、決して動きが素早いわけではないが、コート上で一人だけ見ている景色が違うようにすら感じる。チームで最も短い9分59秒の出場にとどまったが、短い時間でチームにテンポと勢いをもたらした。

 自身が主将を務め、チームがベスト8に入った2016年のリオデジャネイロ五輪ではアシスト王を獲得。視野の広さや、パスから得点までの流れが瞬時にイメージできる豊かな感性は健在だ。

味方へのパスを狙う吉田©Basketball News 2for1

自身の役割は「流れを出す」こと

 代表にはさらにスピードを生かしたドライブが武器の宮崎早織、冷静なゲームコントロールで鋭いアシストを供給する町田瑠唯という個性豊かなポイントガードが揃う。相手にとって脅威になっていることは間違いない。

 「各々違うプレースタイルなので、相手のガードは困ると思う。組み立てるという意味では、今日の試合であれば一旦落ち着かせる部分もあっていいのかなと思いました。3人でゲームの流れを見ながらお互いアドバイスし合い、作っていければと思っています」。PGトリオはベンチでも常に会話をしており、チームの土台を支える。

 吉田が考える自身の役割も明確だ。

 「私はファストブレイクやセカンドブレイクで点を取るということを多くやりたい。セットオフェンスでは宮崎、町田が崩し、私は流れを出すということを意識しています」

 2019年、2021年の2度の引退を経て、2023年4月に現役復帰。2024年の年明けに代表へ舞い戻り、再びJAPANのユニホームに袖を通した。

 体力面やパスの強さ、状況判断の精度など全盛期の感覚に追い付いておらず、「まだ100%自分のプレーのパフォーマンスは戻ってきているわけじゃない」と言う。それでも個性をしっかりとチームに還元し、「練習を積み重ねていきながらシュートも増やしていければ」とスコアへの意欲も衰えていない。

 得点力の高い頼もしい後輩たちに囲まれ、アシストの楽しさも再確認しているよう。「パス出せば必ず決めてくれますし、(私が)ドライブに行った時の合わせもみんなすごく上手。みんなが『いつでもパスを取る』という緊張感を持ってやってくれているので助かっています」と笑みを浮かべる。

司令塔としてチームをけん引©Basketball News 2for1

自覚するメンターの役割「全力でサポートしたい」

 吉田の存在がチームメートに与える影響も大きい。

 「練習中から人一倍声を出してくれて、一番盛り上げてくれて、すごく頼りになります。試合中もゲームの流れを一番理解しているので、今どこで攻めようかとか、今どこが危ないかっていうところを判断できる。心強いです」

 主将の林がそう言えば、ガード陣の中で最も若い28歳ながら、先発の司令塔を務める宮崎も厚い信頼を寄せる。

 「ベンチに帰った時、どんなプレーをした方がいいかをルイさん(町田)やリュウさん(吉田)に聞いてアドバイスをもらっています。先輩たちが後についてくれているのはすごく心強いです」

 メンターとしての役割は吉田も強く自覚している。以下は宮崎の評価を聞かれた時のコメントだ。

 「成長している部分はたくさんありますけど、一番はメンタルだと感じています。東京オリンピックの時、彼女は試合に出る機会が少なくて悔しい思いもしたはず。そこが今、こうやってメインガードをやっている要因だと思う。彼女のサポートを全力でやりたいです」

 「金メダル獲得」という日本女子バスケ界にとって未踏の領域を目指す恩塚ジャパン。百戦錬磨の吉田の頭脳とリーダーシップは、パリの地でさらなる存在感を発揮するに違いない。

(長嶺 真輝)

宮崎早織(左)とハイタッチ©Basketball News 2for1

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