
同点を狙った相手のシュートをグラント・ジェレットが豪快にブロックすると同時に、死闘の終焉を告げるブザーが鳴った。
勝利の立役者となったジェレットや比江島慎らが歓喜の咆哮をあげ、宇都宮ブレックスのベンチから弾けるように飛び出した選手、スタッフが折り重なるように抱き合う。涙を流す選手も多い。
「黄色い大波」(ジーコ・コロネルHC代行)を生んだファンは総立ちとなり、大歓声を挙げながら狂喜乱舞。横浜アリーナが興奮の渦に包まれる中、ベンチに鎮座する故ケビン・ブラスウェルHCの遺影は、穏やかな表情で笑っていた。
5月27日、2024-25シーズンの年間王者を決めるBリーグチャンピオンシップ(CS)ファイナルの最終第3戦が行われ、宇都宮が琉球ゴールデンキングスに73ー71で勝利。対戦成績を2勝1敗とし、3シーズンぶり3度目の頂点に立った。3度目の優勝は歴代最多となる。
宇都宮のレギュラーシーズン(RS)の成績は48勝12敗で東地区首位。リーグで唯一、勝率を8割台に乗せた。Bリーグ創設9シーズン目にして「全体1位でCSに進出したチームは優勝できない」というジンクスを破り、“完全優勝”を果たした。

二大エース「連続3P」で土壇場に逆転
最大のハイライトは、第4Qの残り1分30秒を切った場面だ。
64ー66の2点ビハインド。二大エースの一人であるD.J・ニュービルがボールを運ぶ。竹内公輔のスクリーンを使い、ドリブルで左45度に移動すると、琉球の松脇圭志のチェックを物ともせずプルアップで3ポイントシュートを放った。見事にリングを捉え、第1Q序盤以来となるリードを奪った。
次のポゼッションで再び琉球に1点前に出られるが、今度はもう一人のエースである比江島慎が魅せる。
ニュービルがペイントタッチして3人のディフェンスを引き寄せ、一瞬フリーになった左コーナーの比江島へパス。迷わずキャッチ&シュートで長距離砲を放ち、スウィッシュで沈めた。試合時間は残り33.7秒。オフコートではシャイな男が、豪快に吠えた。
その後も勝利がどちらに転ぶか分からない展開に。最後は3点差の状況で3本のフリースローを獲得した琉球のケヴェ・アルマが2本目を外し、3本目をわざとリングに当てて弾かれたボールを掴んだヴィック・ローがタップしたが、記事冒頭で触れた通り、ジェレットが叩き落として勝負を決めた。

“千両役者”比江島慎「ケビンが背中を押してくれた」
ファイナル3試合で平均21.6点を記録し、史上初となる「ファイナル賞」と「チャンピオンシップMVP」のダブル受賞を果たしたニュービルは、自身がビッグショットを決めた場面について「魔法のような時間」と表し、納得の表情で振り返った。
「劣勢の状況が続いたけど、コーチが自分を信頼してボールを託してくれました。決めることができて良かったです。お互いを信じ合い、一丸となってプレーするこのチームを象徴するシュートでした」
ニュービルとは対照的に比江島は極度の不調に苦しんでいた。1戦目から3戦目の第3Qまでのフィールドゴール成功率は21.7%(23本中5本成功)、フリースロー成功率は33.3%(12本中4本)。琉球に警戒されていたとはいえ、シュートタッチの悪さは明らかだった。
しかし、劣勢の中で「ただただガムシャラに、リングだけを見てアタックしようと切り替えられました」と3戦目の第4Qに覚醒。放ったシュート、フリースローを全て決め、このクォーターだけで14得点を挙げた。
試合後のインタビューで「性格的に追い込まれないとやらない性格なんで…すみません」とおどけて見せたが、その千両役者ぶりは見事と言う他にない。汗ばんだ表情をぐっと引き締め、シーズン中の今年2月に46歳の若さで急逝したブラスウェルHCへの思いも口にした。
「タフな状況の中でシーズンが進んでいったんですけど、チームみんなが『ケビンのために』という特別な強い思いを持ってプレーしたので、最後はケビンが僕の背中を押してくれたと思っています。最後の(琉球のフリースローに対する)プレッシャーもケビンが与えてくれたんじゃないかなと。ケビンのために優勝できて、本当にうれしいです」
2023-24シーズンにアソシエイトコーチに就任し、今季からHCに昇格したブラスウェル氏。全員が連動して攻めるチームオフェンスの構築や小川敦也ら若手の台頭をけん引し、情熱的な人柄で厚い信頼を獲得していた。“for kevin”という強い思いで勝ち取った完全優勝は、天国の指揮官に対する最大の恩返しとなったはずだ。

“不惑の年”竹内公輔が示した宇都宮の「カルチャー」
二大エースがビックショットを決めた場面では、仕事人の働きぶりも秀逸だった。象徴的だったのは、前述した比江島の逆転3ポイントシュートの場面だ。
左コーナーでニュービルからのアシストを受けた比江島に対し、マッチアップしていた琉球の松脇圭志のシュートチェックが間に合わなかったことには理由がある。竹内公輔がオフボールスクリーンをかけ、進路を塞いでいたからである。
3人の連係については「フォーメーションではなく、その場の判断」(比江島)だったと言うが、あの一瞬の隙がなければ、最終結果は変わっていたかもしれない。それほどに、大きな意味を持つスクリーンだった。比江島が胸を張る。
「僕らのカルチャーとして、チームメートのために犠牲を払ってスクリーンをかけたりするということは以前から根付いています。そういった選手をちゃんと育てているし、逆にそういう選手がいないと、こうやって3つのチャンピオンリングを獲得することは難しいと思います」
今年で40歳を迎えた竹内。試合時間残り約4分で帰化選手のギャビン・エドワーズが退場したため、その後は最後までコートに立った。追う展開が続いたが、負けるイメージは湧かなかったという。
それにはある経験が起因している。昨年12月29日にあった広島ドラゴンフライズ戦だ。第4Q残り21秒で5点ビハインドだったが、比江島の3ポイントシュートとゴール下シュートで同点に追い付き、オーバータイムに持ち込んで勝ち切った。実は、この試合でもエドワーズが退場し、竹内が最後の時間帯にコートに立っていたのだ。
デジャブのような感覚は、竹内に自信を与えた。
「年末の広島戦がフラッシュバックして、その試合は勝てていたので、いいイメージがありました。琉球に12点差を付けられた時も、何度もこういう展開からまくって勝ってきていたので、自分たちらしくプレーすれば絶対に行けると思っていました」
不惑の年を迎えた大ベテランは勝負どころでも迷わず、自分のやるべき仕事を全うし、宇都宮の“カルチャー”を体現して見せた。

“若い力”の上積みで王朝を築けるか
宇都宮が優勝を果たしたのはBリーグ初年度である2016-17シーズン、2021-22シーズン、そして今回の2024-25シーズンである。
現状のメンバーの中では田臥勇太、竹内、遠藤祐亮、渡邉裕規の4人は全ての優勝を経験し、比江島と鵤誠司、アイザック・フォトゥは2度目と今回でチャピオントロフィーを掲げた。中核を成す選手たちがほとんど変わらず、深い信頼関係の下で強固なチームカルチャーを維持していることが、宇都宮の強さを支えているのは間違いないだろう。
さらに今回の戴冠メンバーにおいては“上積み”が見て取れた。22歳の小川と24歳の高島紳司が躍動したことである。
二人とも相手ハンドラーに対して高い位置から激しいプレッシャーをかけ続け、自らの役割を全う。小川に至っては初戦で15得点を記録し、緊張感が最高潮に達した第3戦の第4Q中盤でも3ポイントシュートを1本沈めた。
第1戦後の記者会見で、憧れの選手である比江島に「本当にベンチから勢いを与えてくれて、今では欠かせない選手になっています」と言わしめた小川は優勝決定後、力強い言葉を発した。
「ブレックスは素晴らしい先輩方がいるので、頼ろうと思えば自分は何もしないこともできます。でも、そこで自分がクリエイトしてドライブに行き、まわりを生かしたりして、オフェンスの起点になるというところが一番ステップアップできたと思います。ただ、第2戦以降は得点が減ってしまったので、波を減らすことが求められると感じます」
30〜40代のベテラン陣が築いてきた強固な土台の上に、若い力も芽吹き始めた宇都宮。来シーズンの編成はまだ分からないが、成長途上にある小川や高島のような存在はチーム力のさらなる伸びしろと言える。
Bリーグが創設して以降、これまでに行われた8回のCSで連覇を果たしたのは2017-18、2018-19シーズンのアルバルク東京のみ。史上初の完全優勝を果たした宇都宮であれば、群雄割拠のリーグで王朝を築くことができるかもしれない。

(長嶺真輝)