沖縄と秋田。
世界的に見れば長らくバスケットボールの「後進国」と見なされてきた日本だが、両県は違う。1945年の終戦から27年間に渡りバスケ大国・アメリカの統治下に置かれ、今でも街中に多くのバスケットゴールが見られる沖縄県。能代工業高校やいすゞ自動車という各カテゴリの強豪が大きな存在感を示してきた秋田県。
背景にある歴史は違えど、全国屈指のバスケ熱を誇る両県ではバスケは1スポーツにとどまらず、「文化」として地域に根付いてきた。
そんなバスケどころの県民、ブースターに支えられ、bjリーグ時代の2014年にはファイナルで対戦するなど好敵手として切磋琢磨してきた琉球ゴールデンキングス(西地区1位)と秋田ノーザンハピネッツ(東地区5位、ワイルドカード下位)が、チャンピオンシップ(CS)初戦となるクオーターファイナル(QF)でぶつかった。
目次
琉球がホームで連勝 SF進出一番乗り
舞台は琉球のホームコート、最大8,000人超の収容能力を誇る沖縄アリーナ。他カードに先駆け、5月13日に開幕した。
結果は第1戦を74ー60、翌14日の第2戦を77ー56で2連勝した琉球が一番乗りで CS セミファイナル(SF)進出を決めた。レギュラーシーズンにおける平均失点の少なさが3位の琉球と4位の秋田の対戦らしく、いずれもロースコアのゲームとなった。
点差だけを見れば、レギュラーシーズンの勝率が8割7分5厘(49勝7敗)とB1の歴代最高勝率を記録し、20連勝というB1新記録も達成した琉球が危なげなくシリーズを制したように見えるが、2戦とも流れが行ったり来たりするゲームで、目の肥えた両チームのブースターを納得させるだけの内容だった。
田代主将が選手登録のサプライズ
第1戦、試合開始前の選手入場で琉球ファンにとって嬉しいサプライズがあった。昨年11月に全治10カ月の大けがを負い、今季全休となった田代直希主将が約半年ぶりに選手登録され、名前がアナウンスされた。会場が「ウワッ」と沸き、盛大な拍手に包まれた。
試合後、桶谷大HCが理由を説明した。
「本人が『ベンチに入ってチームメートを鼓舞したい』と言っていた。コーチ陣の目線だけでなく、選手の感覚を田代が話したいと。それは僕たちも聞きたいと思った。もう1人コーチがいるというところで、アシスタントコーチの役割をしてもらいました」
その言葉通り、試合中頻繁に選手と会話、ベンチから審判にアピールする姿も見られた田代。プレーができずとも、琉球が掲げる「団結の力」を体現しているようだった。
第1戦 秋田のスリーを4本に抑えた琉球の堅守
試合の入りは、レギュラーシーズン最終戦で三河、SR渋谷を勝率で逆転してCS最後のイスを勝ち取った秋田が、勢いそのままに先行する展開。琉球はマンツーやゾーン、オールコートなど目まぐるしく変わる秋田のチェンジングディフェンスに手を焼いた。
流れが変わったのは第2Qの開始約2分。「チームにエネルギーをもたらしたいと思った」というコー・フリッピンが前線からプレッシャーを掛けて2本続けてスティールに成功。連続得点を演出して秋田に追い付くと、琉球の守備の強度が一変する。
レギュラーシーズンのスリーポイント成功率が37.8%とリーグ1位の秋田はスクリーンを多用してシューター陣のフリーをつくろうとするが、琉球は果敢なファイトオーバーやビッグマンのカバーで簡単なシュートを打たせない。ドウェイン・エバンスを中心に得点を重ね、琉球が40ー33とリードして折り返した。
第3Qも並里成のスリーや単独速攻で流れを掴み、差を広げた琉球。第4Qに一時4点差まで迫られたが、すぐにタイムアウトを取って守備を修正し、再び突き放して勝ち切った。
最大の勝因は、秋田のスリーを18本中4本のみの成功に抑えたこと。桶谷HCは、チームディフェンスについて試合終了後の記者会見でこう振り返った。
「相手シューターに対してガード陣はしっかりつけていたけど、ビッグマンが長く見過ぎていた。そこを映像を見せてアジャストできたのはよかった。相手のフレアスクリーンをヒットさせないというところも修正できた」
一方、大事な初戦を落とした秋田だったが、チームに悲壮感はなかった。コロナ禍の影響でレギュラーシーズンに組まれていた2試合が消滅し、唯一の対戦となった昨年12月の天皇杯第4次ラウンドは琉球に69ー101で大敗を喫していた。
前田顕蔵HCはリバウンドやオフェンスを課題に挙げたものの、「(天皇杯では)コテンパンにやられてるので、全然、戦えている印象。課題をしっかり修正することができればチャンスはあると思えた試合だった」と前を向いた。
第2戦 小野寺が古巣相手に爆発14得点
迎えた第2戦。第1戦と同様に第1Qは秋田の2点リードで終えるが、またも第2Qで琉球に火が付く。
秋田のスクリーンオフェンスに豊富な運動量と連携で対応し、さらにリバウンドを支配してこの第2Qをわずか9失点に抑える。オフェンスではインサイドからのキックアウトを中心にコーナーでフリーをつくり、小野寺祥太が3本、岸本隆一が2本のスリーをヒット。このクオーターだけで29点を積み上げ、前半で18点のリードを奪った。
第3Qこそ「気が抜けてしまった」(今村佳太)と守備の強度や集中力が極端に落ち、一時4点差まで詰められた琉球だったが、第4Qに堅守を取り戻し、再び点差を広げて勝利した。
桶谷HCが「1番いいシュートを打っていた」と評したのは、チームトップの14得点を挙げた小野寺。第1戦では古巣との対戦で気合いが入り「空回りした」(小野寺)とシュートを1本も放てず、わずか9分の出場にとどまっていた。
第2戦では4本のスリーを決めたほか、守備では秋田エースの古川孝敏や田口成浩に密着マーク。ルーズボールにダイブして味方を鼓舞し、会場を沸かせる場面もあった。
ダイブした際、エンドライン外でカメラを構えていた筆者に衝突。すぐに「大丈夫ですか」「すみません」とこちらを気遣い、笑顔で私の肩をぽんっと叩き、再びコートに駆けて行った。熱い心と冷静さ、そして優しさを持ち合わせたプレーヤーなのだろう。
そんな人柄もあってか、試合後は敵、味方関係なく、称賛の嵐だったという。
「みんなめちゃくちゃ喜んでくれて、ロッカーでも『グッジョブ』とか、ドウェインも『誇りに思うよ』とか言ってくれた。(秋田の田口からは)『お前はすげえよ』と言って頭をぐちゃぐちゃにされた。元チームメートからそう言われることは嬉しいです」
同じく古巣との対戦となった古川は、声を詰まらせながら「結果を勝ち取れるのがベストだったけど、チームとしては戦えた。胸を張って秋田に帰れるのかなと思います」と気丈に語った。今季、CSに初めて進出した秋田。「初めてCSに出た選手も多い中で、それぞれが感じたことが間違いなくある。1人1人が成長すれば、秋田も成長していけると思う」と来季を見据えた。
同じ熱狂的な土壌 バスケで地域盛り上げる
冒頭で記した通り、琉球と秋田には似たような土壌がある。リーグトップクラスの集客数を誇る琉球のファンと同様に、秋田のファンも熱狂的で知られ、「クレイジーピンク」との異名を持つ。
第2戦の終了後、コート中央でマイクを握った並里成は「素晴らしいエナジーをくださって助かっています。本当にいいゲームができました」と琉球ファンに挨拶した後、秋田ベンチ裏に陣取ったピンク一色のブースターの方向に向き直り、感謝を伝えた。
「秋田のファンの皆様も沖縄まで応援ありがとうございました。いいゲームになりました」
普段、饒舌ではない男が、まだ試合の興奮を帯びた話し口でそう語り、頭を下げた。
お互い大都市ではない地方県のチームであり、大きな資金力を有する大企業の親会社や株主がいる訳ではない。そんな両チームが自力でCSへの切符を勝ち取り、沖縄アリーナという国内でも先駆的な施設で観客を魅了するシリーズを繰り広げたことは、今後Bリーグが全国を巻き込んで発展していくための一つの礎になるのではないか。
東京有明コロシアムが1万人以上の熱気で包まれた2014年のbjリーグファイナルを観戦していたという桶谷HCは「当時、僕はキングスにいなかったけど、あのイメージがすごいある。bj時代から見てる人は、この顔合わせに何かしら思うところがあると思う」と、自身も両チームに縁を感じているよう。
秋田へのリスペクトを込め、さらに続けた。
「お互い、バスケが大好きな人たちが球団、チームを支えている。地域を盛り上げながら成長し、そして地域の人たちが僕たちを応援してくれるサイクルをつくれることは、スポーツの素晴らしいところ。これからも秋田さんと切磋琢磨して、バスケで地域を盛り上げていけたらなっていう風に思います」
「鬼門」SFは島根と対戦 ウイング陣が鍵に
5月21日から、再び沖縄アリーナでSFに臨む琉球。相手は東3位のA東京を2勝1敗で下した西2位の島根となった。これによりどちらがシリーズを制しても、西地区のチームが初めてファイナルに進出することが確定した。
日本人得点ランキング1位の安藤誓哉や昨季リーグMVPの金丸晃輔を中心にリーグ屈指の攻撃力を誇る島根に対し、琉球はリーグNO1のリバウンド力と堅守を武器とするチーム。レギュラーシーズンは琉球の3勝1敗だが、島根は主力を欠けていたこともあり、予想は難しい。「カンファレンスファイナル」とも言える西の頂上決戦は、激戦必至だ。
琉球はジャック・クーリー、ドウェイン・エバンス、アレン・ダーラム、島根はニック・ケイ、リード・トラビス、ペリン・ビュフォードと強力な外国籍選手を揃える。安藤と琉球の岸本隆一、並里とのリーグを代表するガード陣のマッチアップは見ものだ。
琉球にとっては金丸をなんとしても波に乗せたくない。マークに付く可能性が高い今村はQFの第2戦終了後、まだ相手は決まっていなかったが、SFに向けてこんな風に語っていた。
「島根も東京も日本を代表するウイングがいる。自分としてさらにステップアップすべきと思っているけど、意識し過ぎると今までのプレーができなくなる。誰が相手でも自分のディフェンスが表現できればと思っています」
田代直希と牧隼利を負傷で欠く中、秋田戦で小野寺が存在感を発揮したことはチームにとって大きな収穫となり、桶谷HCは「試合前、アシスタントコーチと『今日、祥太が上がってこないとこれからしんどくなる』と話していた。このゲームは僕たちにとって大成功だった」とチーム状況に手応えを語っていた。
コロナ禍でCSが中止となった2019ー20シーズンを除き、3季連続でSF敗退を喫している琉球。直近の2シーズンは1勝2敗で負け、あと一歩のところでファイナル進出を逃し続けている。
「鬼門」となっているセミファイナルへ。4度目の正直に挑む。
(長嶺真輝)
【著者プロフィール】
長嶺真輝(ながみね・まき)…沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。元バスケ日本代表の渡邉拓馬選手に似てると言われたことがある。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。