7カ月に及ぶレギュラーシーズンの戦いを経て、先週末に開幕したBリーグチャンピオンシップ。22チームの中から出場権を勝ち取った8チームがクオーターファイナル(QF)でしのぎを削り、琉球ゴールデンキングス(西地区1位)、川崎ブレイブサンダース(東地区2位)、島根スサノオマジック(西地区2位)、宇都宮ブレックス(ワイルドカード上位)の4チームがセミファイナル(SF)進出を果たした。
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敵地で連勝 クオーターファイナルで唯一アップセット
SFに残った4チームの中で、唯一アップセットを起こしたのが宇都宮ブレックスだ。
レギュラーシーズンを40勝16敗で終えた宇都宮は、ワイルドカード上位枠でチャンピオンシップ(CS)に進出。QFでは、東地区を1位で通過した王者・千葉ジェッツとの対戦となった。
Bリーグファンにとって「恒例行事」ともいえるこのカードは、過去4回のCSで3度実現(2017,2019,2021)。昨シーズンはファイナルで顔を合わせ、第3戦までもつれる熱戦を繰り広げた両チームが、いきなりQFで対峙するということで、CS屈指の好シリーズになると目されていた。
第1戦 荒谷らの活躍で宇都宮が好スタート
船橋アリーナのど派手な演出とともに幕を開けた第1戦。先に流れをつかんだのは宇都宮だった。
1クオーター(Q)残り9分6秒、比江島慎がトップから3ポイントシュートを沈めると、アイザック・フォトゥのレイアップ、比江島のドライビングレイアップなどで9-0のラン。宇都宮が2-12と最大10点のリードをつかむなど、敵地で好スタートを切った。
千葉もホームで負けじとクリストファー・スミス、原修太らが得点を重ね、残り2分37秒には原の3ポイントで15-14と初めてのリードを奪う。残り1分強からは宇都宮・荒谷裕秀が2本連続で3ポイントを決めれば、富樫勇樹がブザービーターとなる3ポイントを沈めるなど、両者譲らず前評判通りの展開に。千葉が22-21と1点のリードを奪い、シリーズ最初のクオーターを終えた。
第2Q、宇都宮がアイデンティティーである堅いディフェンスからリズムをつかむ。
ジョシュ・スコットらを中心にインサイドを固め、最初の5分間で千葉の得点を4点に抑えると、オフェンスでは荒谷の3ポイント2本を含む4本の長距離砲を沈め、残り4分57秒で26-33と7点差をつける。このクオーターでも富樫が終了間際にタフなシュートを沈めるも、37-41と宇都宮がリードを奪い前半を終える。
後半、両チームをけん引したのはそれぞれのチームのエースだった。
第3Q、比江島が開始から約1分間で4得点を決めれば、富樫はこのクオーターだけで3ポイント3本を含む13得点と爆発。シーソーゲームの展開のまま4Qに突入する。
試合が動いたのは残り5分8秒。62-68と宇都宮の6点リードの場面で、チェイス・フィーラーがギャビン・エドワーズからファウルを受けながら技ありのフックショットを決める。千葉のインサイドの要エドワーズは、これが5つ目のファウルとなり退場に。フィーラーがフリースローをきっちりと決め、62-71とリードを9点に広げると、その後もインサイド・アウトサイドから効果的に得点を重ね、70-81で勝利を収めた。
比江島はゲームハイ21得点7アシスト
アウェイでの難しい戦いの中、勝利を引き寄せたのは間違いなく比江島慎だろう。
出だしからアグレッシブなプレーでチームを引っ張り、試合最多の21得点(FG8/14、3P3/6)を記録。得点だけではなく、周りを生かすパスや粘り強いディフェンスで7アシスト(0ターンオーバー)、3スティールも記録し、オールラウンドな活躍で難敵撃破へ大きく貢献した。
レギュラーシーズン中、宇都宮が千葉に負けた2試合では、比江島は3.0得点(FG11.1%)、勝った2試合では20.0得点(FG54.2%)を記録していたことからも、比江島の活躍がどれほど重要だったかが分かる。
「セルフィッシュになるぐらいやりだして」
「いつの間にか比江島慎が帰ってきた、みたいな感じです」。
試合後、安齋竜三ヘッドコーチ(HC)は冗談交じりに話した。
「僕らも気づかない間に、いつの間にそうなったのかって分からないですけど、あいつの性格なんで。千葉と2連戦だった1試合目(4/30)が多分0点だったのかな、あの時は。(得点を)決めきれなかったっていう、本人の中でもどかしさみたいなものがあって。その次の試合からもうすごいアタックモードに入っているし、『自分第一』みたいな、ちょっとセルフィッシュになるぐらいやりだして。それが僕らが望んでいる比江島慎だから。やっと来てくれたんだっていう感じですかね。元々やれるのは分かっていたので」。
昨季ファイナルの悔しさ糧に「やり返したいなと」
昨シーズンのファイナル。1勝1敗で迎えた第3戦、3点を追う残り1分44秒の場面で、痛恨の5つ目のファウルを犯し退場。優勝まであと一歩のところで涙をのんだ。
「僕自身は本当に去年の悔しい負けの悔しさを持ってずっとやってきたので。それをぶつけて、同じCSという舞台でやり返したいなと思った」。
1年間溜め続けた悔しさを晴らす、圧巻のパフォーマンスを披露した比江島だった。
第2戦 鵤らの活躍で宇都宮が流れをつかむ
続く第2戦。千葉が勝てば1勝1敗のタイ、宇都宮が勝てばSF進出という大一番。先手を打ったのは、やはり宇都宮だった。
鵤誠司が富樫とのサイズのミスマッチを生かし、1Qだけで6得点を記録。荒谷、喜多川修平といったベンチ陣も要所要所で得点を重ねるなど、9-23と14点のリード。自慢のディフェンスも機能し、25-35と10点リードで前半を終えた。
運命の後半。負けたら後がない千葉は、富樫を中心に速いテンポで猛攻を仕掛ける。しかし、千葉が追いつこうとするたびに宇都宮は鵤やテーブス海の得点でやり返し、主導権を握らせない。それでも千葉が必死の追い上げを見せ、残り34秒、富樫の3点プレーで3点差まで迫る。船橋アリーナのボルテージは最高潮に達していた。
遠藤のクラッチスリー 雪辱の連勝決める
1ポゼッション差で迎えた宇都宮のオフェンス。比江島がトップでボールを持ちながら、機会を探る。ジョシュ・スコットとのピック&ロールプレーから右へドライブ。千葉ディフェンスがダブルチームに来ていることを察知すると、即座に右コーナーでオープンになっていた遠藤祐亮にパス。遠藤が放った3ポイントはリングに吸い込まれ、残り12.7秒でリードを6点に拡大した。
「一瞬でも迷いが生じてしまうと相手の術中にはまってしまうので。まずは自分から仕掛けることを意識しました」。
第1戦後に語っていた通り、自信に溢れたプレーで比江島がチームを導いた。
その後もファウルゲームとなった試合の最後に比江島がフリースローをきっちり2本沈め、70-77で勝利。敵地で昨シーズンファイナルのリベンジを果たし、SF進出を決めた。
ディフェンス+ベンチ陣の貢献も鍵に
リーグ2位のレギュラーシーズン平均88.1得点を誇っていた千葉を2戦連続で70得点に抑えたディフェンス力もさることながら、ベンチ陣の得点面での貢献も光った。ベンチからの得点は第1戦で千葉24得点に対し宇都宮30得点、第2戦では千葉21得点に対し宇都宮31得点と、いずれも千葉を上回っている。
第1戦では荒谷裕秀が3ポイント4/4で自己最多の14得点、第2戦ではテーブス海が14得点6リバウンド4アシストと、ロールプレイヤーたちが大舞台でしっかりとステップアップしたのも勝利の大きな要因だった。
安齋HCは試合後、「めちゃくちゃ大きかったです」とベンチ陣の活躍を称賛。
「(ベンチから)誰かが活躍してくれるのは本当に重要なところ。後から出てくる選手もしっかり準備ができていての結果だと思うので。この2試合に関しては、すごく助けられたところかなと思います」と目を細めた。
アウェイ会場を黄色く染めたファンの存在
もう一つ、忘れてはいけないのがファンの存在だ。
船橋アリーナで行われたQFだったが、観客のおよそ30~40%は黄色いTシャツを着て宇都宮を鼓舞していた。千葉に流れが行きかけそうな場面では、宇都宮ファンの応援の音もどんどん大きくなっていたのが印象的だった。宇都宮ファンの応援なしに、レギュラーシーズンでホームでの勝率がリーグ1位(92.5%)だった千葉の本拠地で連勝することは難しかったに違いない。SFで対戦する川崎ブレイブサンダースの篠山竜青が「宇都宮ファンの皆さん本当に熱いです。勝った瞬間チケット買い出してると思うんですよ」と警戒するほどだ。
安齋HCも「(会場に)入った瞬間に黄色い方たちが多くて、感動するくらいでした。すごいパワーを感じましたし、その人たちのおかげでこの2試合取れたと思っています」とファンへの賛辞を惜しまなかった。
Bリーグチャンピオンシップの歴史上、ワイルドカード上位からアップセットを起こしたのは2022年の宇都宮ブレックスと2019年のアルバルク東京の2チームだけだ。アルバルク東京は2019年、各地区の1位を倒し、優勝を果たしている。
アルバルク東京と同じように宇都宮が優勝まで突き進むのか。「BREX NATION」の力が試される時だ。
(滝澤俊之)