エバンスの「THE SHOT」で“鬼門”突破 琉球ゴールデンキングスが初ファイナル進出
セミファイナル第2戦、決勝点を決めたドウェイン・エバンス(右中央)©Basketball News 2for1
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8,309人が見守った沖縄アリーナで決めた

 試合時間残り11.2秒。スコアは70対70の同点。追い付かれた琉球がタイムアウトを取った。


 西1位の琉球ゴールデンキングスと西2位の島根スサノオマジックがぶつかったチャンピオンシップ(CS)セミファイナル第2戦は、最終盤までもつれる死闘となった。前日の第1戦で先勝した琉球は勝てば初のファイナル進出が決定、島根は「Win or Go Home」という崖っぷちの状況。8,309人が詰め掛けた満員の沖縄アリーナの緊迫感は、最高潮に達していた。


 琉球ボールでゲーム再開。リーグ随一のクラッチシューター岸本隆一がスリーポイントライン外側中央でボールを持った。琉球のチームファウルは既に5つ。「最後はもう隆一に託すというところ。あとオフェンスリバウンドに行っても、絶対にファウルはするなというのはチームに伝えた」(桶谷大HC)


 残り4秒、右45度から岸本がプルアップでスリーを放つが、リングに弾かれる。素早く反応したのはドウェイン・エバンス。ペリン・ビュフォードとのリバウンド争いを制し、ボールをもぎ取った。

残り0.5秒、オフェンスリバウンドからシュートを放つエバンス©Basketball News 2for1


 迷わずペイントエリア内右45度からフェイドアウェイジャンパーへ。残り0.5秒。目一杯伸ばしたビュフォードの右手のわずか上をすり抜け、ボールが高い孤を描いた。客席には、両手を合わせて祈るように行方も見詰める人も。試合終了のブザーが鳴るのとほぼ同時にリング中央を射抜くと、緊張から解放された大観衆が総立ちで喜びを爆発させた。地鳴りのような歓声が響く中、咆哮を上げるエバンスにチームメートが次々と抱き付き、ブースターと一体となって歓喜を分かち合った。

エバンスの決勝点が決まり、会場は大興奮©Basketball News 2for1


 最高の舞台で、最高の死闘を演じた両雄。試合終了直後、島根のエースガード・安藤誓哉が桶谷HCの下に駆け寄り、汗ばんだ表情で言った。「これ、ファイナルですよ」。指揮官の胸がジーンとなり、目頭が熱くなった。


 コロナ禍でCSが中止となった2019-20シーズンを除き、3季連続でセミファイナル敗退を喫してきた琉球。沖縄アリーナで行う今季最後のホーム戦で、ついに分厚い”壁”を突破した。

キングスファン「団結の力」 島根がFT4本連続ミス



 「最後のシュートを決めさせてくれたのも、こっち側(島根ゴール)のシュートを落とさせてくれたのもの、本当にみなさんのおかげです」


 コート中央でマイクを握った桶谷HC。興奮冷めやらぬ様子で開口一番に放った言葉を裏付ける、決定的な場面があった。


 時間をさかのぼる。一進一退の攻防を続けていた第4Q残り約3分。琉球ブースターの熱気が高まる中、島根を牽引するリード・トラビスとビュフォードが2人合わせて4本のフリースローを連続で外した。その後に安藤のスリーなどでカムバックしたが、この痛恨のミスが、勝敗を分ける大きなポイントになったことは間違いない。


 「めちゃくちゃ悔しいです」と語った安藤は「セミファイナルで、今日自分達がした思いを何度もしてきた琉球の覚悟は、本当に感じました」と、8千人のブースターに後押しされた琉球の選手たちの気迫をひしひしと感じ取っていたようだ。

第4Q終盤、同点3ポイントシュートを決めた安藤(右)はビュフォードとハイタッチ©Basketball News 2for1

昨季CSでは苦い敗退経験 エバンス「間違いなく生きてる」


 勝負所で流れを引き寄せ、チームの掲げる”団結の力”に支えられて球団やリーグの歴史に残るビッグショットを沈めたエバンス。1989年のNBAプレーオフで、マイケル・ジョーダンが空中でブロックを交わしながら決めた伝説のブザービーター「THE SHOT」を想起したオールドファンも多いのではないだろうか。


 普段多弁ではない男も、さすがにこの日は違った。マイクを握ると、ファイナル進出を意識してか「Let’s Go!!」と叫び、すり鉢状のアリーナから盛大な拍手が降り注いだ。指揮官と同様に「この素晴らしい雰囲気の中で、みなさんの後押しがあったからこそ勝利することできた」とホームの熱い応援に感謝した。


 この日は第3Qまでわずか4得点と不調だったため「歯を食いしばってやれば良いことがある。自分のキャリアにとっても大きな影響がある試合だった」とエバンス。昨季の最終戦となった千葉とのCSセミファイナル第3戦では後半でシュートタッチに苦しみ、惜敗したが、今季は真逆の好結果を生んだ。「去年の経験は間違いなく生きてると思う」と成長を実感しているようだ。

初ファイナル進出に大きく貢献したエバンス(中央)©Basketball News 2for1

第1戦は最大21点差を逆転 ダーラム殊勲の活躍


 第2戦の結末があまりに劇的だったため、記憶が霞んでしまっている人もいるかもしれないが、第1戦も琉球が第1Qの最大21点差をひっくり返した見応えのあるゲームだった。


 鮮やかなスタートダッシュを決めたのは島根。第1Qで8本のスリーを沈め、このクオーターで34-21と大きくリードを奪う。前半を終えた時点でも依然として11点差があったが、後半に入ると少しずつ琉球に流れが傾き始める。


 大きなきっかけは2つある。立役者はいずれもアレン・ダーラムだ。


 「ピックのところでジャックが狙われていた」(桶谷HC)と、外からのシュートやドライブの得意な選手を抑えるのが難しいクーリーのマッチアップを攻められたが、機動力の高いダーラムが入り、エバンスと共にスイッチも使いながら守り始めたことで外の守備が安定。第2Q以降は各クォーターで1本ずつしかスリーを許さなかった。

攻守で躍動したアレン・ダーラム©Basketball News 2for1


 力強いドライブやリバウンドからの1人速攻でインサイドを徹底して攻め、このクオーターはフィールドゴール4本中4本成功で10得点。さらに残り2分を切ってドライブ時にニカのファウルを誘い、退場に追い込んだ。


 もう一つは島根のファウルトラブルだ。クーリーらに対する守りで島根の帰化選手、ウィリアムス・ニカが第3Q開始3分を待たずにファウル4つに。ここで「ニカは攻守で試合に変化を与えられる選手。彼がファウルトラブルになった時に積極的に攻めたいと思った」と勝負所を見極めたダーラムが積極性を増す。


 琉球はインサイドの争いで優位に立ち、前半13対26だったリバウンド数が、後半は18対10と反転。勝負所で琉球は今村佳太のスリーや岸本のスティールなどビッグプレーが出たのに対し、島根はイージーなミスから5秒バイオレーションを取られたり、安藤がほぼフリーのレイアップを外したりして、最後は琉球が94-85と突き放す形で勝利した。

セミファイナル2戦で平均23.0得点と獅子奮迅の活躍を見せた今村佳太(左)©Basketball News 2for1

琉球と島根 勝負を分けた層の厚さの差


 このシリーズを通して見えた両チームの顕著な差は、層の厚さだ。


 島根は2戦のチーム合計得点135点のうち、実に9割近い118点を外国籍と帰化選手が占めた。一方の琉球は166点の内、約4割の67点にとどまる。島根の割合の大きさは、もちろん琉球の守備による影響もある。自分達の強みを強調することも戦術の一つではあるが、依存度があまりに高過ぎる感は否めない。


 得点が少数の選手に偏るチームは、その選手の調子に試合結果が左右されるケースがより多くなる。相手からしても対策は練りやすい。第2戦後、エバンスがCSに入ってからのチーム状況について触れた言葉が象徴的だった。


 「CSに入ってからチームが強くなってると感じている。秋田、島根のようなタフなチームに対しクロージングができているし、日本人選手が信じられないほどステップアップしている。自分やクーリー、ダーラムが不調の時でも、仲間が支えてくれていることが大きい」

島根スサノオマジックの躍進 リーグに衝撃与えた


 Bリーグが創設して6年目。これまで4回行われてきたCSで4強入りしたことがあるチームは、川崎、A東京、宇都宮、三河、千葉、琉球の6チームしかいない。ほぼ大都市圏に拠点を置くチームで、琉球は異質な存在だった。


 そんな中、2019年に経営権を獲得した有力企業の「バンダイナムコエンターテインメント」の影響もあり、今季大型補強を慣行した島根が躍進。勝利7割を超えて初のCS進出を果たした。準々決勝ではホームでA東京と連日熱戦を演じ、2勝1敗で競り勝って歴代7球団目となる4強チームの仲間入りを果たした。


 島根は琉球と同じく地方圏に拠点を置くチームであり、地元は全国でも人口が2番目に少ない県だ。今後、Bリーグが全国を巻き込んで発展していくためには、競技レベルにおいても、商業的な観点から見ても地方のチームが台頭することは必須条件の一つだろう。


 第2戦終了後、就任1年目のポール・ヘナレHCは島根の飛躍がリーグに与える影響の大きさを問われ、こう答えた。


 「地域に価値を見出して、エンターテインメントで地域を活性化させていくという新しいチャレンジは非常にインパクトがあると思う。僕らがこれを継続してパワーハウス(強豪)となり、全国に(球団や島根県のことを)とどろかせることには大きな意味がある。チームとしては残念な結果に終わったけど、良いスタートが切れたと思います」


 安藤や金丸、ニック・ケイという代表クラスの選手が加入してまだ1年目。各地の先進事例となるべく、来季に向けてさらなるチーム力の向上を図りたい。

大補強を経て初CSでセミファイナル進出と躍進を見せた島根スサノオマジック©Basketball News 2for1

西地区王者からリーグ王者へ 琉球が初代王者・宇都宮に挑む


 舞台を東京体育館に移し、琉球は5月28日から初のファイナルに挑む。西地区のチームが頂上決戦のステージに立つのは初めて。初代王者で、昨季準優勝の宇都宮が相手となる。両チームともCSを負け無しの4連勝で勝ち上がってきた。特に東4位の宇都宮は東1位の千葉、東2位の川崎を下剋上で破り、上昇気流に乗る。


 宇都宮はレギュラーシーズンの平均失点がリーグで最も少ない堅守のチーム。琉球も3番目に少なく、重たい展開が予想される。実際、レギュラーシーズンは宇都宮のホームで2試合を行い、琉球が連勝したが、いずれも66-65、65-62とロースコアで、どちらが勝ってもおかしくはない内容だった。リバウンドの多さも琉球1位、宇都宮4位と拮抗しており、激しいプレーの応酬が楽しめそうだ。

ファイナルでは安齋竜三HC率いる宇都宮ブレックスと対峙する©Basketball News 2for1


 宇都宮の安齋竜三HCは「リーグで一番仲が良いコーチ」という桶谷HC。CSに入ってからも毎日のように電話し、「最後にファイナルで会えたら最高だね」と話していたという。bjリーグで創設2シーズン目の琉球を初優勝に導き、今季9年ぶりに古巣に復帰してまたも頂点に王手を掛けた名将が、ファイナルへの意気込みを語った。


 「CSはかなりのストレスが掛かるが、宇都宮はそれにプラスアルファで守備でさらにストレスを掛けてくるチーム。何があっても仲間を信じ、自分達がやるべきことをやり通す。それをやり切る力があるか。選手たちには、そこにフォーカスをさせてあげたいと思います」


 生え抜き10年目で、三度セミファイナルで跳ね返され続けてきた岸本は、ファイナルへの挑戦権を手にしたことに対し「勝てたことはうれしいし、安堵感もある。いろんな感情が入り混じった不思議な気持ちです」と話した。頂上決戦に向けての意気込みは、遂行力や我慢を強調する指揮官と共通する部分が多い。

生え抜き10年目の岸本隆一は初のファイナルへ意気込む©Basketball News 2for1


 「じれったいゲームをいかに我慢して、自分達の空気感でやれるかというところが大きなポイントになる。観てる方にとっては爽快なプレーを期待されてるとは思うけど、神経をすり減らした先に勝利があると思う。良いプレーは何度も続かないというところを肝に銘じて、プレーできたらいい」


 bjリーグで最多4つのチャンピオンリングを獲得した琉球。西の雄が、国内全てのトップ選手たちが頂点を競うBリーグで真の”キング”となれるか。球団の新たな歴史を切り開くべく、さらなる高みへの挑戦が幕を開ける。

(長嶺真輝)

【著者プロフィール】
長嶺真輝(ながみね・まき)…沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。元バスケ日本代表の渡邉拓馬選手に似てると言われたことがある。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

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