
シンデレラボーイが帰ってきた。
今シーズン、B3横浜エクセレンスから途中移籍した琉球ゴールデンキングスの平良彰吾だ。
3月19日の京都ハンナリーズ戦で「左膝関節内側側副靱帯損傷」という全治6週間の怪我を負い、戦線を離脱していたが、レギュラーシーズン最終節初戦となった5月3日の佐賀バルーナーズ戦で復帰。短い出場時間ながら、代名詞であるエナジー全開のプレーでホームを沸かせた。
5月9日から12日にかけて島根スサノオマジックとのチャンピオンシップ・クォーターファイナル(CS・QF)を戦う。エースガードである岸本隆一のCS出場がほぼ絶望的となる中、3月の天皇杯決勝で結果を残した同じポイントガード(PG)の平良がこのタイミングで復活した意義は極めて大きい。
琉球が初優勝を飾った2022-23シーズンのCSでは、QFの時期に両親の故郷である沖縄にいたため、チケットを買って沖縄サントリーアリーナの客席から試合を観ていたという平良。あれから2年。キャリア初の大舞台に向け、決意を新たにしている。

120%のエナジー発揮した「7分4秒」
第1Qの残り4分13秒、背番号47がコートに足を踏み入れると、8,524人が詰め掛けたアリーナが大歓声で迎えた。
ルーキーの崎濱秀斗との交代で途中出場した平良。初めのポゼッション、キャッチ&シュートで右45度から3ポイントシュートを放つ。リングに弾かれはしたが、早速積極性を見せた。
ディフェンスでは佐賀でエースを張るレイナルド・ガルシアのドライブに対して体を張ったり、シューターの狩野祐介にオフボールの段階から激しくプレッシャーをかけたりした。
第2Qもオフィシャルタイムアウト明けにコートイン。佐賀がマッチアップゾーンを敷く中、左ローポストのジャック・クーリーから対角のパスを受けて3ポイントシュートを決め切った。
復帰初戦でプレータイムの制限がある中、出場時間は7分4秒のみ。その中で存在感を示し、試合後には「プレータイムは少なかったですが、試合の感覚を取り戻しながらチームのためにプレーできたことは良かったです」と安堵の表情を浮かべた。
桶谷大HCも「彰吾が時間制限がある中でもプレーできたことは本当に良かったです。試合に出ると常に120%。7分の中で『CSでも戦えるんじゃないか』という兆しを見せてくれました。それが一番良かったです」と話し、顔をほころばせた。

「隆一さんの分も背負ってプレーしたい」
伊藤達哉が開幕戦で負傷離脱したことを受け、昨年10月に途中加入して初めてB1の舞台に立った。高強度のディフェンスを武器にローテーションに定着し、3月の天皇杯決勝では5得点1アシストを記録。出場時間は、PGとしては岸本に次いで多い11分22秒だった。
今季の開幕をB3で迎えながら、その半年後には日本一を争う大舞台に立った。“シンデレラボーイ”という呼称がここまで似合う選手も多くはないだろう。CSでの活躍も期待された。
しかし、その天皇杯決勝から4日後のアウェー戦で戦線を離脱。診断結果を聞いた時はショックが大きかった。
「天皇杯でいい経験ができて、ここからもう一個ステップアップしていかないといけないというタイミングでストップがかかってしまいました。怪我をした当日は結構落ち込みました」
ただ、チームは天皇杯決勝を機に上げ潮に乗り、そこからBリーグで16連勝を記録。一人ひとりの役割が明確になり、多彩な個性が高いチーム力に昇華される中、刺激を受けながらベンチで闘志を燃やしていたという。
「誰が出ても、チームは40分間強いプレーができていました。それをコートの外で見ていて、自分が戻った時にどういうことをやらないといけないのか、CSに向けてどうやってチームに貢献していくべきかをずっと考えていました」
チームの一員として気持ちを切らすことなく、離脱中もベンチから声を出す姿が目立った平良。岸本が離脱した後のホーム戦では左腕に「14」と記し、尊敬する先輩と共に戦い続ける姿勢を示した。数字は脇真大に書いてもらったという。
「誰が欠けても、全員で戦うことがキングスにとって大事なことだと思います」と言い、気を引き締める。
「これまでスタートが隆一さんで、その後に達哉さんと自分が出てローテーションをしていました。秀斗も入ってきた中でプレータイムが変わってくると思うので、限られた時間でチームにいい流れを持ってこられるようにしたいです。隆一さんの分も背負って、これからプレーしていかないといけないと感じています」

2年で一変した立ち位置、自覚強める
目前に迫るCSについては、楽しみな気持ちと緊張が「半々くらい」だと言う。
琉球は2シーズンぶりに西地区を制したため、QFはホーム開催となる。自身がB3湘南ユナイテッドBCに所属していた2年前の2022-23シーズンのQF、琉球対名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦は観客の一人として沖縄サントリーアリーナにいた。
「B3はシーズンが早く終わるので、時間があったんです。日程がおじいちゃんの命日とかぶっていて、沖縄に来ていたこともあり、チケットを取りました。当時はCSを観に来ていた立場だったので、その舞台でプレーできることは本当に楽しみです」
当時、客席から眺めたスポットライトの当たるコートは、一人の選手として刺激を受けるには十分なものだった。
「(プロ選手として)バスケットボールをやっている身としては、ここでプレーすることが目標だと感じました。こんなに素晴らしいアリーナでプレーできることが『うらやましいな』と思っていたので、今の状況が本当にありがたいです」
CS初戦の相手となる島根は安藤誓哉や津山尚大ら好ガードが揃い、コートにいる間はマッチアップする時間帯が多いことが想定される。「相手が思い通りにプレーできないようにインテンシティを上げてプレッシャーをかけることが大事だと思っています。オフェンスでも味方が心地良くプレーできるようにやっていきたいです」と自覚を強める。
桶谷HCが「みんなのインテンシティの高さを、さらに超えてくるインテンシティを持っている選手」「まわりに影響を与えられる人間」と評する平良。負けられない戦いが続き、チームの結束力が試されるCSにおいて、重要な存在になることは間違いない。

(長嶺真輝)