「愛情の裏返しだと…」名古屋ダイヤモンドドルフィンズの今村佳太を迎えた笑顔溢れる“特大ブーイング”と岸本隆一の“壁” 沖縄アリーナ
沖縄アリーナに帰ってきた名古屋ダイヤモンドドルフィンズの今村佳太(左)©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 Bリーグ西地区の琉球ゴールデンキングスは7、8の両日、沖縄アリーナに中地区の名古屋ダイヤモンドドルフィンズを迎え、86ー68、92ー82でいずれも勝利した。2試合とも琉球がリバウンド数で上回り、インサイドで優位に立ったことが勝敗を分ける最大の要因となった。

 琉球の通算成績は13勝5敗。首位の島根スサノオマジックと勝率で並び、西地区2位につける。

 一方、バイウィーク明けの連勝で勝率を5割に戻し、琉球との連戦に臨んだ名古屋Dは8勝10敗となり、再び借金生活に。昨シーズンは西地区で初優勝を果たしたものの、中地区に移った今シーズンは新戦力との融合に苦しみ、厳しい戦いが続く。中地区は特に強豪が揃っていることもあり、5位に沈む。

 第1戦はレギュラーシーズンにおける琉球のクラブ主幹試合として歴代最多となる8,627人が来場し、第2戦も8,535人が詰めかけた。ホームの琉球にとっては主力のヴィック・ロー伊藤達哉が怪我から復帰するなど見どころは多かったが、これだけの人数が足を運んだ理由は明らかだ。

 昨シーズンまで琉球に4シーズン所属し、日本人エースとしてチームをけん引していた今村佳太の凱旋である。

 2022-23シーズンには琉球が初優勝を果たす原動力となり、ファンから「いまむー」の愛称で深く愛された。しかし、今年のオフシーズンに2025-26シーズンまでの3年契約を1年で途中解除し、名古屋Dに電撃移籍。昨シーズン、西地区7連覇を逃した琉球に対して4戦全勝だった“天敵”への移籍だっただけに、琉球ファンの中には複雑な感情を抱いた人も多かったはずだ。

 だからこそ、沖縄アリーナがどのようにして今村を迎えるのかは、勝敗とは別の大きな注目点だった。

「感謝しかない」似顔絵付きボード、盛大な拍手も…

 沖縄アリーナが今季一番の特大ブーイングに包まれた。

 7日に行われた第1戦の第4Q終盤。しゃがんで両手をコートに付き、フリースロー前のルーティンに入っていた今村に向けられたものである。ゴールの向こう側では「おかえり Boo!!」と書かれた自身の似顔絵付きボードを多くの観客が掲げ、揺らしている。目に入った今村に、自然と笑みがこぼれる。

 「めっちゃおもしろかったですね(笑)。最初は気付いてなかったんですけど、フリースローの時に分かって。本来だったら桶さん(琉球・桶谷大HC)の顔だったと思うんですけど、そこが全部自分に変わっていたので。『あ、こういうやり方があるんだ』って感じでした(笑)」

 立ち上がった今村が、ゴールを見据え、ボールを構え、シュートを放つ。甲高い指笛の音も入り混じったブーイングの大きさは、経過に合わせてさらに膨れ上がった。ただ、今村と同様に、観客の表情にも笑顔が溢れている。殺伐とした空気はない。

 1本目を冷静に決めた今村が両手を3回振り上げて煽ると、8千人超の観客もそれに応え、さらにボルテージを上げた。2本目を決めた直後、今村が交代でベンチに下がっていくと、鳴り止んだブーイングの代わりに、今度は盛大な拍手が降り注いだ。

 これまでも琉球から移籍した多くの選手が沖縄アリーナに凱旋したが、ここまでの“歓待”は例がない。今村は噛み締めるように振り返った。

 「ああいう愛の溢れるブーイングをしてもらって、すごく嬉しかったです。(1本目の後のアクションは)もっと欲しいなと思って欲張っちゃいました(笑)。特別大きなブーイングをもらえることは愛情の裏返しだと思うので、すごく幸せなことだと感じます」

 琉球ファンに対する想いも語った。

 「キングスに所属させてもらった4年間は、一人の人間としても、バスケットボールプレーヤーとしても成長をさせてもらい、ファンの皆さんに育ててもらいました。ファンの皆さんには、本当に感謝の気持ちしかないです」

 琉球に在籍した4シーズン、いかに今村が沖縄のファンに愛されていたかが伝わる、濃密な数分間だった。

記者会見で笑顔を見せる今村©Basketball News 2for1

岸本「仲間という意識を持って試合をしている」

 元チームメートとのマッチアップも目を引いた。小野寺祥太、松脇圭志、ヴィック・ロー、脇真大…。個のディフェンス力が高いプレーヤーに変わる代わるつかれ、3Pやレイアップを決め切る場面もあれば、ターンオーバーを誘発される場面もあった。

 昨季まで3シーズン連続でファイナルに進出した仲間だっただけに、「いざコートに立って、彼らのディフェンスが『すごい嫌だな』『それに助けられていたんだな』ということを感じました。バスケットをしながら、いろんな感情にさせられた試合でした」と語り、感慨深い瞬間になったようだ。

 中でも、共に先頭に立って琉球をけん引した岸本隆一とのマッチアップは見ものだった。最も白熱したのは、1試合目の第4Q中盤だ。

 名古屋Dがゾーンディフェンスを敷く中、今村を前にした岸本が左45度からキャッチ&シュートで3Pをねじ込み、リードを15点に広げる。直後、今村もジャック・クーリーと小野寺の厳しいディフェンスを巧みなドリブルで交わし、左45度から3Pをヒット。今度はマンツーマンで岸本と今村の1対1となり、クーリーのスクリーンでディフェンスを剥がした岸本が高く浮かせたレイアップを華麗に決め切って不敵な笑みを浮かべた。

今村とのエピソードを笑顔で話す岸本隆一©Basketball News 2for1

 岸本が振り返る。

 「お互いにスコアしてからの佳太とのマッチアップでした。気持ち的にも乗りかけている部分があったし、ここで行けば、よりチームとして勢いに乗れるという感覚もありました。ゲームクローズのところで、より勝利に近付けるとも思ったので、しつこく佳太のところをアタックして、スコアにつながりました」

 笑顔を浮かべていたことについて、「やってやったぞ、みたいな感じがあったんですか?」と聞くと、相好を崩して「正直思いました」と続けた。

 コート上で顔を突き合わせた時、自然と笑みがこぼれる瞬間もあった2人。今村にも岸本とのマッチアップについて聞いた。

 「めっちゃ意識しました。結果、ちんちんに(手も足も出ないこと)やられちゃったんですけど、自分としては『やり返さないと』という気持ちもありました。そこは試合以上に、純粋にバスケットボールを楽しめた瞬間かなと思っています」

 琉球一筋13シーズン目の岸本は、チームメイトの移籍を常に見送る側だった。これまでも多くの別れを経験してきたが、2022-23シーズンのBリーグ初優勝を共に経験したメンバーは「特別な存在」「どこか仲間という意識を持って試合をしている」と言う。中でも、優勝したシーズンは、今村とは50試合以上に渡って共に先発としてコートに立った。

 「特に佳太に関して言えば、優勝したメンバーの中でもコート上で一番長く一緒にプレーした選手です。より特別な思いがある分、今日は負けられないという気持ちもありました。今日に関して言えば、そういう雰囲気の中で、いい勝ちにつなげられたかなと思います」

 この日、11得点3アシストだった今村に対し、岸本はそれを上回る17得点5アシスト。先輩の岸本が壁となって立ちはだかったが、今後もこの2人のマッチアップがアリーナを盛り上げることは間違いないだろう。

(長嶺 真輝)

今村(右)と笑顔でハイタッチをする岸本©Basketball News 2for1

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