決勝の「残り9.2秒」に凝縮された広島ドラゴンフライズ・浦伸嘉社長の完璧な“予言” EASL&Bリーグを制覇したチームの作り方
EASLで優勝した広島ドラゴンフライズ©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 東アジアスーパーリーグ(EASL)のプレーオフ「ファイナル4」は9日、マカオのスタジオシティ・イベントセンターで決勝を行い、Bリーグ広島ドラゴンフライズ桃園パウイアンパイロッツ(チャイニーズタイペイ)に72ー68で競り勝ち、初優勝を飾った。優勝賞金は100万ドルで、日本円に換算すると約1億5000万円に上る。

 B2スタートで2016年のBリーグ開幕を迎えた広島。B1に昇格した2020-21シーズン以降は一貫して西地区に所属しているが、B1での地区優勝は一度もない。にも関わらず、昨シーズンのBリーグ初制覇を合わせて、短期間で国内外のタイトル2つをかっさらってしまった。

 この勢いを生む要因は何か。ファイナル4での戦いぶり、そして、決勝前日に記者会見場で行われた日本人ファン向けトークイベントでの浦伸嘉・球団社長の言葉から読み解いていく。

渡部流の値千金スティールで決着「うまく取れた」

 度重なるリードチェンジを経て、勝負の際が訪れた。

 第4Q残り9.2秒、広島が70ー68と2点リード。タイムアウトが明け、選手がコートに入ってくる。姿を見せたのはドウェイン・エバンスケリー・ブラックシアー・ジュニア中村拓人渡部琉三谷桂司朗の5人。渡部はベテランの山崎稜との交代だった。結果、日本人3人はまだ経験が深いとは言えない23〜24歳の若手で構成された。

 プレー再開。桃園がバックコートからボールを入れ、ハンドラーが運んでいく。マークに付いたのは渡部だ。この時点でチームファウルがまだ三つだったため、時間を削るためにファウルを狙っていたという。

 しかし次の瞬間、多くの桃園ファンの来場によりアウェーのような雰囲気となった会場に、驚きの歓声と悲鳴が響くことになる。

 相手ハンドラーがドリブルをしながらセンターラインに差し掛かろうとした時だった。スクリーンをかいくぐった渡部が横から素早く左手を伸ばし、ボールを弾く。ファウルコールはない。諦めたように動きの固まった桃園選手を後目に、転々としたボールを拾い、笑みを浮かべた渡部が悠々とレイアップシュートを沈め、優勝を決定付けた。

 銀テープが舞う派手な優勝セレモニーを終え、少し優勝の興奮が落ち着いてきた様子の渡部が記者の待つミックスゾーンに姿を現し、値千金のスティールを振り返った。

 「ディフェンスをやってこいという形で出されて、スティールを狙いに行った中でファウルをしようと思っていたので、そこがたまたま、うまく取れて良かったです。自分のキャリアの中でも(スティールで試合を決めたことは)ありません。Bリーグでプレータイムを得られない時期も長らくあり、『どうにかしないといけない』と毎日考えながら取り組んできました。それが報われた感じがして、うれしいです」

 クロージングの時間帯に共にコートに立った中村と三谷も、重要な場面でアシストや3Pシュートを決め切った。二人とも出場時間が20分を超え、その選手が出ている時間帯の得失点差を示す「+/−」は、中村がチームトップの「+17」、三谷はそれに次ぐ「+13」という数字だった。

 ファイナル4の2試合を通し、持ち味の3Pシュートが9分のゼロとオフェンスで苦しんだ山崎は、試合後の記者会見でこう語った。

 「優勝はすごくうれしいですし、ファイナル4に来る前から若手がしっかりとステップアップし、すごく成長が見えました。なかなか自分がうまくいかない時こそ、こうしてベンチメンバーが入ってきて活躍してくれるのは本当にチームの助けになります。みんなが活躍して優勝できたことはすごくうれしく思います」

 準決勝で10分10秒の出場ながら5得点3リバウンド2スティールの活躍を見せた22歳のロバーツケインも含め、若手が生んだ勢いがチームを頂点まで押し上げた側面は極めて大きい。

笑顔でハイタッチをする渡部琉(左)とドウェイン・エバンス©Basketball News 2for1

浦社長「方向性として成果が出ている」

 最終盤の勝負所で中村、渡部、三谷の3人がコートに立った時、ゴール裏で写真を撮りながら取材をしていた筆者の脳裏には、ある人の話がよぎっていた。

 前日の正午ごろ、広島と琉球ゴールデンキングスの日本人ファン向けに開かれたトークイベント。琉球の安永淳一GMと共にゲストとして登壇した、広島の浦伸嘉・球団社長の言葉である。決勝での若手の躍動を“予言”するかのように、こう言っていた。

 「(準決勝は)ファウルトラブルもありましたが、その中で若手が堂々としていて、どんどん伸びてきている印象があります。そのおかげで、勢いが生まれる。昨シーズンのBリーグファイナルも若手中心だったから優勝できたと分析しています。決勝も若さが十二分に発揮できるような展開になれば、チャンスはあると思います」

 この若手主体のメンバー構成については「何年か前から若手をどんどん獲得しています」と言い、クラブとして意図的に進めている。「勢いを生む」という狙いこそあれど、長期視点でのチーム作りとも言えるため、この段階でBリーグ、EASLの2タイトルを獲得したことはチーム的にも予想を上回る結果だろう。

 ただ偶然かというと、そうでもない。今シーズンから指揮官に就いた朝山正悟HCとも、若手を育成するという認識はしっかりと共有している。

 「準決勝で活躍した渡部やケインについては、朝山HCが前半戦で苦しい中でも積極的に起用してくれました。だからこそ、こういった大きな大会でもぱっと活躍ができる。それはBリーグの試合がタフだから、ということもあると思います。方向性としては、今すごく成果が出てると思います」

 実際に渡部、中村、三谷、ロバーツの4人は今シーズン、B1でのキャリアにおいて最多の平均プレータイムを記録している。広島はこれまで外国籍選手の怪我が多かったことも要因の一つではあろうが、彼らにとって成長の糧になったことは間違いない。

優勝へと導いた朝山正悟HC(中央)©Basketball News 2for1

「大会MVP」ドウェイン・エバンスが見せる背中

 当事者である三谷と渡部にも「なぜ広島はここまで若手が活躍できるんですか?」と直球の質問をぶつけてみた。すると、別々に取材したにも関わらず、二人とも同じチームメートの名前を挙げてその要因を語ってくれた。

三谷「『コートに立った以上、年齢は関係ない』という話はよく出ますし、ドウェインとかベテラン選手も『常にアグレッシブにやれ』と鼓舞し続けてくれます。そういう環境もあって、決勝の舞台でも消極的になることなく、自分たちの持ち味を出し切れたのだと思います」

渡部「チームの雰囲気がいいのもありますし、アサさん(朝山HC)も『臆せずに自分のやるべきことをやってこい』とシーズン前から言ってくれていました。試合にもずっと使ってくれています。その積み重ねがあって、(クロージングで)若手3人が出られたのだと思います。あと、ドウェインを見ていると勝負に向けた気持ちの入れ方、勝ち切るメンタルについて勉強になる部分もあります」

 琉球に所属していた2021-22シーズンには、Bリーグのレギュラーシーズンベスト5に輝いたエバンス。今回のEASLでは準決勝、決勝ともにダブルダブルを記録し、大会MVPを獲得した。

 大舞台でも変わらない安定した活躍ぶりは、準決勝の翌日、琉球の桶谷大HCに「ドウェイン・エバンスを見てください。ずっと変わらない。あんなにタフな状況でも(自分の役割を)やり続けた。ああいう選手が勝つんです」と言わしめるほどだった。

 「勝者のメンタリティ」を備えた頼れるリーダーの背中を見て、大一番の試合でも生き生きと、堂々とプレーする広島の若手選手たち。Bリーグでは現在、18勝22敗の西地区5位でチャンピオンシップ(CS)進出圏外と厳しい戦いが続くが、彼らの成長と共にチーム力がさらに伸びていけば、昨シーズンのような“下剋上ストーリー”が再び見られるかもしれない。

優勝後に記念撮影をする広島ドラゴンフライズの関係者©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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