ビッグマン2人退場…第4Q“残り7分21秒”の攻防に見る広島ドラゴンフライズの「勝負強さ」の根源 初のEASLファイナル進出
広島ドラゴンフライズのドウェイン・エバンス(中央)©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 東アジアスーパーリーグEASL)のプレーオフ「ファイナル4」は7日、マカオのスタジオシティ・イベントセンターで準決勝2試合を行い、Bリーグ広島ドラゴンフライズがニュータイペイキングス(チャイニーズタイペイ)に81ー65で勝利した。初優勝を懸け、9日に桃園パウイアンパイロッツと決勝を行う。

 賞金は優勝が100万ドル(約1億5000万円)、準優勝は50万ドル(約7500万円)。

 広島は現在、Bリーグでは18勝22敗と負け越しており、西地区5位とチャンピオンシップ(CS)進出圏外につける。それでも、この大一番で底力を発揮し、Bリーグや天皇杯を上回る程の額の賞金獲得を確定させてしまった。

 振り返れば、昨シーズンのBリーグもレギュラーシーズンで苦しみながらも、最終盤で加速度的に白星を積み重ねてワイルドカード1位でCSに滑り込んだ。CSでは並み居る強豪を次々と撃破し、シーズン王者まで駆け上がる「下剋上」を果たした。

 より緊張感が増すプレーオフという大舞台で、自分たちの持てる力を発揮することは容易ではない。広島の勝負強さはどこからきているのか。ビッグマン2人が退場した最終盤の攻防に、その根源が垣間見えた。

EASL決勝進出が決まり、笑顔を見せる寺嶋良©Basketball News 2for1

「全員リバウンド」と「ディレイオフェンス」で逃げ切る

 広島に最大の試練が訪れた。

 第4クォーター(Q)残り7分21秒。このクオーターの序盤にファウルアウトした河田チリジに続き、ケリー・ブラックシアー・ジュニアもファウル5つ目で退場。EASLは外国籍選手の登録人数が2人までのため、ビッグマンが身長201cmのドウェイン・エバンスのみとなった。

 70ー60とリードを保ってはいたが、厳しい状況に変わりはない。しかし、ここからが圧巻だった。

 エバンスがオフェンスリバウンドをもぎ取ってゴール下シュートをねじ込むと、キャプテンの上澤俊喜が左コーナーからの3Pシュートで続く。さらにリードを広げ、相手にタイムアウトを取らせた。

 その後も5人が連動した運動量豊富なディフェンスと全員リバウンドで我慢を継続。エバンスの1対1を中心としたディレイオフェンスで時計の針を進め、ほぼ完璧と言えるほどのゲームクロージングで逃げ切った。上澤も好感触を口にした。

 「リバウンドをしっかり取ろうというところと、点差と時間の関係でゆっくり攻める部分は確認できていました。相手のプレスディフェンスをしっかりと交わしつつ、自分たちのクロージングができたと思います」

 全体のサイズが下がって以降も相手のドライブに対して2人目、3人目が素早く寄り、ミスマッチを突かれても体をぶつけて耐える。最後までディフェンス強度が落ちることはなかった。踏ん張りどころでコートに立ち、体を張り続けた三谷桂司朗は最終盤の守りをこう振り返る。

 「今までビッグマンに任せていた部分を自分たちで補わないといけないというとこで、ディフェンスの意識が強くなってより強度が上がったと思います。サイズはダウンしましたけど、足は動く。5人が常に繋がりながら、連動して守れたことが失点を抑えるところにつながったと思います」

泥臭いプレーでチームを支えた三谷桂司朗(右)©Basketball News 2for1

大舞台での一体感と攻め気…三谷「楽しんでやっている」

 ロスター入りした10人全員が二桁以上のプレータイムを得た広島。一人で16本を掴んだエバンスを筆頭に、全員がリバウンドを記録した。さらに上澤が14得点、24歳で伸び盛りの渡部琉が16得点を挙げるなど先発メンバー以外のスコアが目立ち、ベンチポイントで41対19と圧倒した。

 総力戦で大一番を勝ち切り、朝山正悟ヘッドコーチ(HC)は笑い皺を浮かべながら総括コメントを発した。

 「非常にタフなゲームを勝ち切れたのは良かったです。今日はファウルトラブルもありましたが、特に後半は自分たちのディフェンススタイルをしっかりとやり切れた。ベンチメンバーも自分たちの役割を遂行し、チームに活力を与えてくれました。チーム全員で戦えたことが勝利の大きな要因だと思っています」

 冒頭で触れた「大舞台での勝負強さ」は、この一体感も一つの要因だろう。緊張感の増す最終盤の攻防においても共通認識を持ってディレイオフェンスを遂行し、誰が出てもリバウンドとディフェンスに対して高い意識を持ち続けたことからも、全員が同じ方向を向いていることが分かる。

 この一体感の強さは、チームが持つそもそもの雰囲気も影響しているようだ。以下は、三谷に「広島の大舞台での強さはどこからきていると思いますか」と質問した際の答えだ。

 「こういう舞台でも全員が緊張せずに楽しみながらやれている印象があります。今日も全員が感情を出しながら楽しんでやっていました。勝利の瞬間に喜びが爆発したことも、楽しんでやっているからこそだと思います。みんながリラックスしてプレーできているのは、(勝負強さの)一つの理由かなと思います」

 大舞台でも気負わず、焦らず、普段通りの力を発揮する。言葉にする以上に難しいことである。しかも広島の場合は、いつも以上の遂行力、完成度を体現している印象だ。

 朝山HCは、自分たちを苦境に追い込んだファウルトラブルについても、大事な試合で勝ち切るためのメンタリティの表れだったと見ている。

 「ファウルトラブルになる中で、一発勝負を勝ち切るために、それは攻めの姿勢があるということでもあります。それが、そのまま守りにもつながった部分がかなりありました」

 三谷は、昨シーズンにBリーグチャンピオンを獲得したことが自信につながった部分も「間違いなくある」と言う。三谷も23歳と、渡部と同様に若手の一人だ。彼らが堂々とプレーしていることも勢いを生む要因だろう。

 9日にはさらに大きな舞台となる決勝が控える。国内のBリーグに続き、東アジア王者のタイトルを獲得することができるか。広島の「勝負強さ」を持ってすれば、実現可能性は高いはずだ。

朝山正悟HC(右)の話を聞く広島ドラゴンフライズのメンバー©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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