
1月17日、Bリーグ東地区首位の宇都宮ブレックスに激震が走った。
今シーズンからチームの指揮を執っているケビン・ブラスウェルヘッドコーチ(HC)が緊急搬送され、心臓に疾患があることが判明。急きょ手術を行い、それ自体は成功したものの、合併症を起こして当面入院することになった。
それから約1週間。チームは25、26の両日、沖縄アリーナで西地区首位の琉球ゴールデンキングスとの2連戦に臨んだ。
高いエナジーで臨んだ初日は、リーグトップの平均リバウンド数を誇る琉球のお株を奪い、リバウンド数で41本対29本と圧倒。攻撃回数を増やし、さらに3Pシュートを47.4%(38本中18本)の高確率で沈め、今シーズン最多得点を記録して105ー86で完勝した。
2日目はスタートから高い成功率でシュートを決め合い、第1Qを30ー33とハイスコアで入った。しかし、守備やリバウンドへの意識、戦術を前日から修正した琉球にじわじわと引き離され始める。遠藤祐亮がファウルを受けながら3Pシュートを決めて4点プレーを完成させるなど、最後まで粘りを見せたが、88ー97で敗れた。
連勝は「8」でストップし、通算成績は26勝6敗。東地区2位の群馬クレインサンダーズとのゲーム差は「3」となっている。ブラスウェルHC不在という厳しい状況の中、アウェーで行われた東西トップ同士の“頂上決戦”を1勝1敗で終えたことは、チームが一丸となって戦えた結果と言えるだろう。
中でも、HC代行として急きょチームの指揮を取ったジーコ・コロネルアシスタントコーチ(AC)が果たした役割は極めて大きかった。2日間での記者会見での受け答えからは、人間味にあふれた人柄がうかがえた。
付き合い10年以上「大事にしていた部分を失いたくなかった」
エナジー全開で戦う選手たちの気迫のこもったプレーと、連日8,000人超に及んだ観客の大歓声で、チャンピオンシップ(CS)さながらの熱気に包まれた沖縄アリーナ。宇都宮にとっては「他のアウェーを含めても、一番やりにくい独特の雰囲気」(遠藤)のある場所だが、自軍ベンチ裏の客席を黄色に染めたファンが力強く背中を押した。
個々の選手のほか、ブラスウェルHCの名前や顔写真を刺繍した約20枚のタオルも掲げられた。闘病中の指揮官に対し、「共に戦っている」という意思を示す意味もあったのだろう。
初戦後の記者会見で、コロネル氏が感謝の言葉を口にした。
「自分たちもベンチに彼のシャツを掲げましたが、ファンの皆さんも彼のタオルを掲げてくれたりして、温かいサポートをしてくれました。チェアマンからコメントを頂き、Bリーグを含めた世界中のコーチが『ブラスウェルコーチのために何かできることはないか』とサポートを表明してくれて、本当にありがたい気持ちです」
コロネル氏とブラスウェル氏の付き合いは10年以上に及ぶ。ウェリントンセインツ(ニュージーランド)やニュージーランドブレイカーズ(オーストラリア)で互いにコーチとしてチームを率い、今シーズンから再び宇都宮で共闘し始めた。ブレイカーズ時代には、コロネル氏がブラスウェル氏の家に1年間住まわせてもらい、当時幼かったブラスウェル氏の娘に本の読み聞かせをすることもあったという。
苦楽を共にし、深い関係性が築いてきたからこそ、ブラスウェル氏が大事にしていたバスケットボールに臨むマインドを受け継いでいきたかった。
「彼はバスケットボールに対しての愛、楽しむということを重要視しているコーチで、毎日の練習からお互いにハグしたり、ハイファイブしたりすることを大事にしていました。そういう部分を今回のことでチームから失いたくなかった。それをしっかり継続していく意識を持って、この試合に臨みました」
みんなでバスケを楽しみ、互いへの信頼を積み重ね、高め合うことでチームが一丸となれる。勝っている時も、負けている時も、ハードに戦い続けたこの2連戦の宇都宮の姿は、ブラスウェル氏が臨むチームとしての在り方を体現していたのではないか。
1戦目で17得点6アシスト2ブロックを記録し、「+/−」(その選手が出ている時間帯の得失点差)でチームトップの「+31」を叩き出した比江島慎は胸を張った。
「最初から切り替えられたわけではありませんが、いつまでも落ち込んでることはケビンも望んでいないと思います。ケビンはずっと『僕たちは優勝に値するチームだ』『リバウンドだったりの習慣をやっていければ間違いなく優勝できる』と言い続け、自分たちに自信を与えてくれていました。それをもう一回思い出し、ケビンが見ても恥じないプレーができたと思います」

遠藤「声を掛けてくれて、本当に頼りになる存在」
ブラスウェル氏が病に倒れた17日は金曜日。土日のオールスターゲームを挟み、週末に琉球との連戦を控える1週間に入る際、コロネル氏は選手たちを強く鼓舞したという。
「難しい状況がある中で、何とか乗り越えていかないといけない」
「難局を乗り越えるためには、自分たちにはベストなメンバーが揃っているじゃないか」
結果、チームは初戦でリーグトップのリバウンド力を誇る琉球との空中戦を制し、今シーズンの最多得点を記録。コロネル氏は気力の充実した戦いぶりを高く評価した。
「攻守で分けて考えると、オフェンスリバウンドがすごく良かったのに対し、ディフェンスリバウンドはそこまで良くはありませんでした。それでも、リバウンドは琉球と対戦するに当たって最も強調した部分です。みんながそれぞれのベストを持ち寄って、しっかりやってくれたと思います」
会見で一つ一つの質問に丁寧に答え、たびたび琉球に対して称賛のコメントを送ったり、快活な笑顔を見せたりすることもあったコロネル氏。言葉の端々や豊かな表情からは、温かみのある人間性が垣間見えた。
2戦目の後、会見に姿を見せた遠藤にコロネル氏の印象を聞いてみた。
「ケビンがいた時はあまり口数の多いアシスタントコーチではなかったんですけど、この2日間で彼の素晴らしさをすごく感じました。どんな状況でも冷静に対応していたし、試合前も自分たちに声を掛けてすごい盛り上げてくれました」
さらに言葉をつなぐ…。
「彼はケビンの一番近くにいたので、一番きついんじゃないかと思いますが、それを見せずに、この1週間チームのためを思って声掛けをしてくれる人です。本当に頼りになる存在です。コーチとプレーヤーが支え合いながら、もっと一丸となって、前に進んでいければなと思います」
1月29日にある次戦はホームに東地区3位の千葉ジェッツを迎え、強豪とのカードが続く宇都宮。千葉Jとのゲーム差は「5」で大きく離れているわけではなく、CSで優勝争いを繰り広げる可能性もある相手なだけに、負けられない同地区対決となる。
沖縄での2連戦を終え、コロネル氏が歯切れ良く、堂々と言った。
「気持ちを切り替える上で、選手たちは本当に難しい状況の中、しっかりと試合に向き合い、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。もちろん今日も勝てれば良かったんですけれど、この負けで頭を下げるのではなく、しっかりと胸を張って次の試合に向かっていきたいです」
今こそ選手、コーチ、ファンら「BREX NATION」全員が一丸となり、一戦一戦を全力で戦っていく。その姿勢を貫くことこそが、ブラスウェルHCに病と戦う勇気と力を与えるはずだ。

(長嶺真輝)