琉球ゴールデンキングス創設者・木村達郎氏が残したものは... 桶谷HCが語る球団”哲学”
記者の質問に答える琉球ゴールデンキングス桶谷大HC©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 今夏、琉球ゴールデンキングスが大きな転換期を迎えた。

 運営会社である沖縄バスケットボールの株式を情報提供サービス業のプロトソリューション (沖縄県宜野湾市)が取得し、それに伴い、2006年の創設時から社長を務め、チームをつくった 木村達郎氏が6月いっぱいで社長を退き、完全に球団を離れた。経営体制の変更は、さらなる事業 成長に向けて「5年先」を見据えた木村氏の判断だったという。

 bjリーグ4度の優勝、沖縄アリーナの完成、昨シーズンの初のファイナル進出。沖縄の地に深く 根を張り、多くの栄光を掴み取ってきた琉球は歴史の「第2章」へと歩みを進めるが、それで も変わらないものがある。桶谷大HCが語る「木村さんが残してくれたもの」とはー。

「沖縄をもっと元気に!」変わらないビジョン

 9月26日、沖縄アリーナ内のサブアリーナで開かれた新加入選手入団会見。同席した桶谷HCに聞いてみた。


 「木村前社長が退任されて、球団としても大きな変革期にあると思います。bjリーグ2シーズン目からキングスに携わってきた立場から、この変化をどのように感じていますか?」


 「沖縄をもっと元気に!」をスローガンに、創設時から地域貢献を球団の最優先事項に掲げていた木村氏。桶谷氏の口から「地域貢献」というワードは出なかったが、それを念頭に置いているであろう、こんな答えが返ってきた。


 「木村さんが残してくれたものは、球団の中長期プラン、ビジョンという部分でした。オーナー が変わったとしても、キングスが今まで大切にしてきたものは変わらないと思います。これは普遍的にやり続けないといけない。それが、沖縄におけるキングスのあるべき姿だと思います」

©Basketball News 2for1

「個でなく、チームが必ず上にある」

 また、木村氏はチームとしての在り方についても言及していたという。

 桶谷HCが続ける。

 「チームでバスケットボールを体現する。個が上にいくのではなくて、必ずチームが上にいく。 それは概念というか、哲学的なものです。それを残していってほしいということは、木村さんも ずっと言われていました」

 その上で、今後についても展望してくれた。

 「自分たちは誰が入ってこようが、人が変わろうが、バスケットボールのシステムが変わろう が、そこは変わっちゃいけないものだと考えています。今この瞬間にそれをやるだけではなくて、 常に前に進めながら、次の世代にしっかり残していけるようにしたいなと思っています」

 個の力に秀でた選手はこれまでも多く在籍し、HCも変わってきたが、入団したどの選手も時間 の経過と共にチームプレーを重んじるようになっていく印象だったキングスの選手たち。桶谷HC の言葉から垣間見えた木村氏の哲学に、その根源的な理由が集約されていた。

チームメイトに笑顔で話しかける岸本隆一 ©Basketball News 2for1

球団初のアジア枠 ジェイ・ワシントンお披露目

 記者会見の前には、新シーズンの開幕を目前に控え、報道陣に練習が公開された。目を引いたは、球団初のアジア枠選手となるジェイ・ワシントンだ。カメラの前に登場するのは、この日が初めて。9月22日にチームに合流したばかりであり、プレーの合間にコーチ陣や選手と会話をする場面も多く、チームに溶け込もうとする前向きな姿勢が終始うかがえた。

チーム練習に合流したジェイ・ワシントン(左)©Basketball News 2for1

 ワシントンはフィリピン出身。身長200センチのパワーフォワードで、40歳のベテランだ。 フィリピンリーグ(PBA)以外でプレーするには今回が自身初となる。

 チームや沖縄アリーナの印象について「素晴らしい施設、素晴らしいチームメートとプレー できることを非常にうれしく思っています」と語り、頬を緩めた。自身の強みについては 「シュート力と、ベテランとして若手選手を高めていけること、相手ビッグマンを抑えられることです。早くチームに溶け込めるようにしたいです」と意欲を見せた。

会見で質問に答えるワシントン(右) ©Basketball News 2for1

EASLで活躍期待 外国籍2人のレギュレーション

 また、今季初開催される東アジアスーパーリーグ(EASL)にも参戦する琉球。外国籍選手の枠がBリーグより1人少ない2人というレギュレーションになっていることから、桶谷HCは 「チームとしては3人目のビッグマンがどうしても欲しかった。ジェイがいてくれることで、ビッ グマンがローテーションできる。EASLで彼の存在意義が一番発揮されると思っています」と期待を寄せる。

 ワシントンは母国のチームと対戦する可能性もあるが、「日本のチームの一員として、長年キャリアを積んできたフィリピンのチームと戦えることは非常にうれしく思います。自分がどれだけ チームを変えることができるか、証明すべく、練習に励みたいです」と語り、EASLを楽しみにしているようだった。

 10月1、2の両日、沖縄アリーナに昨季ファイナルで敗れた宇都宮ブレックスを迎え、いよいよ2022-23シーズンの幕が開けるキングス。球団史における新たな1ページには、どのようなストーリーが書き加えられるのか。今季の琉球ゴールデンキングスも見どころ満載だ。

(長嶺真輝)

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【著者プロフィール】
長嶺真輝(ながみね・まき)…沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。元バスケ日本代表の渡邉拓馬選手に似てると言われたことがある。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

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