新生琉球ゴールデンキングスが、ついにお目見えした。
琉球は9月10、11の両日、今季からB1に昇格した仙台89ERSと沖縄アリーナでプレシーズンゲームを行い、96ー77、98ー90で連勝。3週間後に新シーズンの開幕が迫る中、両軍とも100%の強度ではなかったが、随所に激しいフィジカルのぶつかり合いを見せた。今季の琉球にとって初陣となった初日には、6,751人のファンがアリーナに詰め掛けた。
琉球はドウェイン・エバンス(現・広島ドラゴンフライズ)、並里成(現・群馬クレインサンダーズ)、帰化選手の小寺ハミルトンゲイリー(現・仙台)ら主力が抜け、誰がボール運びや前線へプッシュする役割を担うのかや、昨季の琉球にとって大きな武器だった「3ビッグ」に代わる強みをどこで見出すかなど、注目ポイントが多数あった中で行われたプレシーズン。取材に足を運んだ10日の試合を中心に振り返る。
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チームの支柱”24番” 「終盤で必要とされる選手に」
第1クォーター(Q)開始から約5分。すり鉢状のアリーナから降り注ぐ盛大な拍手に迎えら れ、背番号24がコートに入った。学生時代から憧れの選手だったというNBAの故コービー・ブライアントが現役時代の後期に背負ったそのナンバーを付けるのは、チームの”支柱”、田代直希主将だ。
昨年11月に大けがを負って以来、コートに立つのは実に10カ月ぶり。序盤は「久しぶりのプレーをすごく楽しみにしていたけど、復帰してファンの皆さんをがっかりさせたくないという気持ちが強くて、緊張してふわふわした気持ちでプレーしていました」と言うが、穏やかな表情でこう続けた。
「ただ、それはしょうがないかなと。一つ、目指していたゴールを達成できたのが嬉しいです」。
まだ「頭と体が結び付いてない感覚」と言い、攻守ともに調整段階ではあるが、得意とする緩急を付けたドライブやスリーは随所で威力を発揮した。以前にも大怪我をした際、ボールハンドリングや相手との駆け引きを磨き、身体能力に頼らないプレーを習得していたが、今回も「相手をいなすためにも、今年はもっとドリブルを多く付いていきたい」とさらなる向上を見据える。
昨季、琉球にとって球団初のファイナルの舞台をベンチで過ごした田代。「優勝したかったし、その舞台に立てず正直悔しかった。チームがbjリーグで優勝する姿を裏から見ていたこともあって、あれが2度目の経験でした。力になれない悔しさを痛感していました」と率直な気持ちを振り返る。その上で「ゆっくりコンディションを上げて、最後の最後にチームに必要とされる選手になっていればいいかなと思います」と語り、1戦ごとの価値がより増していくシーズン終盤を見据えて状態を上げていく考えを示した。
ジョシュ・ダンカン加入で強烈インサイド陣を形成
田代の復活に加え、もう一つの大きな注目ポイントだったのは新加入選手だ。
まずは千葉ジェッツから移籍したPFジョシュ・ダンカン。琉球が千葉に1勝2敗で敗れた一昨期のセミファイナルなど、これまで宿敵として何度も琉球を苦しめてきた選手だ。そんな経緯もあってか、田代が「たまに遊びで『誰と一緒にプレーしてみたい?』みたいな話をするんですけど、僕はずっとダンカンと言っていたので、加入はすごく嬉しかった」と語り、チームから厚い敬意をもって迎えられた。
力強いリバウンドと精度の高いスリーは健在。強度の高い守備と力強いリバウンド、ボール ムーブを重んじるオフェンスなどはチームのカラーにフィットする印象で、10日はいきなりチーム2番目に多い16得点を挙げた。
過去に2度リバウンド王に輝いたジャック・クーリー、その強靭な肉体から「ハルク」の異名を持つアレン・ダーラムが揃うインサイド陣にダンカンを加えたキングス。選手層の厚い中、ダンカンは「チームで戦う中で、バランスを取る潤滑油のような存在になりたい」と自らの役割を見つめる。
千葉に在籍していた頃から、琉球に対して「選手同士のケミストリーが高いチーム」という印象を持っていたという。「4年間千葉でプレーして、すごく変な感じがするけど、今はキングスの選手。勝てるように精一杯やりたい」と堅実な性格をのぞかせた。
「3ビッグ」を担ったエバンスと小寺は移籍したが、今後、渡邉飛勇の復帰や、球団初のアジア枠選手となるジェイ・ワシントンが合流すれば、昨季を超える強力なインサイドを形成できる可能性は十分にある。
”ガタイ”のある松脇 シュートだけでなくボール運びも
三遠ネオフェニックスから移籍した185センチ、88キロのSG松脇圭志も早速チームにフィットする可能性を見せてくれた。
10日はコー・フリッピンとガードコンビを組んでスタメンで出場。少しのプレッシャーではびくともしない幅のある体格を武器に安定したボール運びを見せたほか、インサイドを強みとするキングスにとって武器の一つであるボールムーブからのスリーも高確率で沈めた。「キングスはディフェンスのチーム。長く所属している選手が多いけど、劣らないようにまずはディフェンスから意識してやっていきたい」と語ったように、相手ガードにしつこくプレッシャーをかけ、優れた”ガタイ”の良さはディフェンスでも存分に生かしていた。
2連戦終了後、初めて沖縄アリーナでキングスブースターの前でプレーし「これまでアウェー会場として試合をする時は沖縄アリーナは嫌だったけど、ディフェンスで止めたり、シュートを決めたりする度に盛り上がりを感じました。これまで移籍してから練習しかしてなかったから実感が湧かなかったけど、実際にユニホームを着てすごくホームを感じられました」と満足げに振り返った。
今後に向けては「僕もダンカンもそうですけど、たまに流れの中で息が合っていない部分が出てくるので、そこは慣れるしかないと思っています。キングスならこういう動きをするな、とかを 読みながらプレーしたいと思っています」と述べ、チームへのより高いレベルでのフィットに意欲を見せた。
桶谷HC 理想は「ポジションレス」
新チームの初陣となった10日の試合後、桶谷大HCは「チームの仕上がり具合はまだまだという感じです」とした一方で、今季初の対外試合で「このタイミングで色々な課題が見えたことは非常に良かった」といい手応えを掴んだようだ。
少し驚きだったのは、ディフェンスでは今までほぼマンツーマンだった琉球がゾーンを使う場面があったこと。「今後開幕に向けて色々試していきたい」と語る指揮官は、手持ちの戦略を増やしていきたいようだ。また、昨季からアップグレードしたい部分を問われると「昨シーズンはオフェ ンスの得点効率があまり上がってなかったので、状況判断をより良くしていいシュートで終われるようにしたい。ボールピックだけでなく、ビッグマンもボールを触り、相手によりミスを起こさせたい」と攻撃面での進化を見据えた。
並里が抜けた後の日本人選手として松脇が加入したことで、ポイントガードのポジションは1人減ったが、大型な選手でもハンドリングに優れた選手が多い現代バスケの潮流を念頭に「理想はポジションレス」と言い切る。「今はメーンで岸本とコーがボール運びをやっているけど、松脇や今村、田代、牧がやったりすることも出てくると思う」と見通した。
今季はBリーグと並行し、東アジア各国の強豪チームが出場して初開催されるEASL(東アジアスーパーリーグ)にも参戦する琉球。ホーム&アウェー方式で海外での試合もこなす必要があるため、厳しいスケジュールにはなるが、桶谷HCは「キングスには当初から、中長期的な目標にアジア制覇がありました。日本一も目指しますが、アジアNo. 1も目指したいと思います」と力強く語った。
初のBリーグ制覇、そして東アジアの初代王者へ。球団創設16シーズン目。南国の小さな島、 沖縄から常に高みを見据えて戦い続ける琉球の挑戦から、今季も目が離せない。
(長嶺真輝)
【著者プロフィール】
長嶺真輝(ながみね・まき)…沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。元バスケ日本代表の渡邉拓馬選手に似てると言われたことがある。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。