
毎試合100点以上を狙う、超攻撃的スタイルで秋の関東大学リーグ戦(1部)を制覇した早稲田大学。優勝は57年ぶりで、しかも2部から1部に昇格して即優勝という快挙だった。「『早稲田のバスケは見ていて楽しい』と言われますが、やっている選手はもっと楽しい」と語る選手たち。磨き上げたラン&ガンで、間もなく開幕する全日本大学選手権(インカレ)でも優勝を目指す。
速さ、シュート力、体力を武器にしたスタイルで席巻
所属する12大学が2回総当たりする秋の関東リーグ戦1部。早稲田は20勝2敗と圧巻の成績を収めた。だが、ある大学のコーチが「早稲田はほぼノーマーク」と語るように、下馬評は高くなかった。留学生がいない、主力の最高身長は191センチで高さがない、選手層が薄く長丁場のリーグを戦えないというのが主な理由だった。
ただ、そうした状況下でも勝利すべく、早稲田は2月の新チーム結成時から「速さ、シュート力、体力を武器にしたスタイル」を掲げ、取り組んできた。もともと早稲田は速い展開を軸としていたが、それをより具体化した。
今季から早稲田の指揮を執る倉石平ヘッドコーチが経緯を明かす。
「オフェンスの軸を考える際に、『得点期待値(シュート1本あたりに期待できる得点)は低いけど成功率の高いゴール下のシュート』と、『得点期待値は高いけど成功率の低い3ポイントシュート』のどちらかを選択しなければならない。留学生のいる大学は前者を選択しています。このようなチームも外角シュートを放ちますが、留学生がリカバーするので、外れたシュートは彼へのパスになる。一方、うちには高さのある選手がいないので、彼らと同じバスケをしていたら勝ち目はない。だから後者を選択し、成功率を上げることに注力したのです」

高さがない分、スピードはあり、攻撃時に数的優位を作りやすい。あとは3Pシュートをどれだけ決められるか――。練習では必然的にシュートとランに重点が置かれた。通常のシュート練習に加え、ガードがディフェンスリバウンドを取った後、どのようにパスを出してくるのか。実戦形式で連携を深めていった。1試合の攻撃回数、3Pシュートの試投数、成功数などの目標値も念頭に置き、練習した。
「倉石さんからは毎試合120点取れと発破をかけられました。大学バスケは留学生が在籍する大学が多くなり、守備中心のロースコアゲームが主流ですが、速い展開にしてシュートをどんどん打ってハイスコアに持ち込めと。それを実行すべく、目標数値も意識しながら、全員ものすごい量のシューティングをしました」と堀陽稀副将(4年)は語る。
走り込みの量も、過去とは比較できないほどだったという。高田和幸(4年)が明かす。
「新チームスタートから毎日、信じられない量のランメニューやりました。セブンティーンという1分間にサイドライン間を往復するのを何本もやったり、30分間ダッシュとジョグを繰り返したり。トレーナーのかたが飽きないようにいろいろなメニューを考えてくれて、それをひたすらこなした感じです。ただ全員、体力はついたという実感はありました」
半年かけて大幅に向上した走力、シュート力、体力。春先から大きく変ぼうした早稲田は、秋の関東大学リーグ戦を高い勝率で制覇した。
マイボールになったら、全員がすぐさま敵陣に走る。自分のタイミングと判断したら、全員が迷わず3Pシュートを放つ。90点取られても100点取ればいい。大学バスケ界で滅多に見られないスタイルは、早稲田以外のファンも魅了した。
選手たちが重要なポイントだったと語る、2つの試合ある。1つは初戦の白鷗大戦だ。202センチの留学生がいる堅守のチームで、昨年のインカレでは大敗したが、堀田尚秀(4年)や高田らの活躍で92対74と勝利した。この試合、早稲田は38本の3点シュートを放ち18本成功。メンバーが薄く、疲れが出るはずの第4Qで21対9と突き放した。岩屋頼主将は「自分たちのバスケが通用するのか半信半疑でしたが、勝ちきれて自信になった。チームに勢いも出た」と語った。
もう1試合は、リーグ戦2巡目の10月25日に行われた東海大戦だ。試合前の時点で早稲田は16勝2敗、東海は15勝3敗。勝った方が優勝に近づく重要な一戦だった。東海も白鷗と同じく、留学生を軸とした堅守のチーム。だが開始直後から早稲田の長距離砲がさく裂し、110対90と勝利した。早稲田の3Pシュートは40本中20本成功。驚異の成功率5割だった。
試合後、東海の入野貴幸ヘッドコーチは「しっかり準備はしてきたが、相手の勢いに飲まれて空中分解してしまった」と肩を落とした。早稲田の司令塔の下山瑛司(3年)は「40分間、全員がシュートを打ち切れたことが大きい、ためらうと流れが止まってしまいますから。外を警戒されたときに、内に切れ込んで点を取るなどバランスも良かった」と語った。

「ディフェンスでも早稲田の強さを見せたい」
リーグ戦の早稲田の平均得点は、2位を10点以上引き離す91.8得点。当初、思い描いた通りのオフェンス力を発揮した。また、主力メンバー8人全員が高い得点能力を有していて、22試合中、選手4人が二けた得点をあげたのは9試合、5人が二けた得点だったのは5試合。さらに6人が二けた得点をあげた試合が3もあった。ここまで全員が点を取れるとなると、守るのは難しい。
「都の西北 早稲田の森に~♪」リーグ戦の最終盤、試合会場には多くの早稲田OB・OGが詰めかけ、試合後に伝統の校歌を斉唱する姿が見られた。長期低迷していた早稲田バスケ部の復活を、現役はもちろん、卒業生たちも心待ちにしていたことがわかるシーンだった。
57年前、秋のリーグ戦を優勝した早稲田大学は、勢いそのままにインカレも制覇した。当然、今のチームもその再現を狙う。
「リーグ優勝したけど、全員が変わらずチャレンジャーの気持ちで挑む」と岩屋主将。堀副将も「ディフェンスでも早稲田の強さを見せたい」と続ける。
秋のリーグ戦を経て一層鋭さを増したスタイルで、インカレでも旋風を巻き起こし、再び校歌を会場に響かせることはできるのか。早稲田の戦いから目が離せない。

(市原和之)






