「ちゃんとプロレスやろうぜ」 Bリーグ随一のエンターテイナー・篠山竜青が語るオールスター論
インタビューに答える川崎ブレイブサンダースの篠山竜青©Basketball News 2for1
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 「ちゃんと“プロレス”をやろうぜ、っていうのはすごく思っていました。僕らはプロのスポーツ選手としてエンタメを見せているわけですから、もう少し意識を高く持ってもいいんじゃないかって」

 1月13日、14日と2日間の日程で行われたBリーグオールスターを振り返って、川崎ブレイブサンダースの人気選手、篠山竜青はバスケットボールニュース2for1とのインタビューでそう振り返った。

3年ぶりの球宴 水戸黄門でMVP

 新型コロナウイルスまん延の影響で、有観客では3年ぶりの開催となった同オールスターにはリーグを代表する選手たちが一同に会した。そのなかで、選手紹介の際に開催地・茨城県水戸市にちなんで「水戸黄門」の格好で入場し、試合でも激しいディフェンスなどで笑いも誘うなど、終始、訪れたファンの目を釘付けにしたのが篠山だった。

 結果、篠山は本戦のMVPに選ばれた。自身は3得点のみだったにもかかわらずだ。同賞の選出方法がSNS上でのファン投票であったためにこのような形となり、篠山本人も結果が出るとしばらく苦笑いだった。

入場時は開催地にちなんだ水戸黄門の衣装で登場©Basketball News 2for1

 たしかに、この選出方法に対しては少なからず賛否があるはずだ。篠山自身もMIP(もっとも印象に残った選手に与えられる賞。今回は千葉ジェッツの富樫勇樹が受賞)やSNS賞といった形ならばこの方法でも良かったが、と言う(篠山はいまや外国籍選手の活躍なくして語れないリーグなのだから彼らのことも評価すべきだと付け加えている)。

 しかし、もっとも目立ったのが篠山だったのだから、ファンが彼に投票した気持ちもわからなくはない。富山開催だった2019年のオールスター出場となった篠山自身も、選ばれたからには楽しもうというよりも、プロとして見る者にいいものを提供しようという明確な意図を持って今回のオールスターに臨んだ。

 「今年は3年ぶりの開催で、Bリーグは年々、見てくれるお客さんが増えている状況で今年、初めてオールスターというものに触れる、ファン歴の浅い人もけっこういたと思うので、やっぱりいい『商品』を、いいエンターテイメントをお見せしたいなというのはありました」

文化祭のときの、女子の学級委員長みたいな気持ち

 真剣勝負の公式戦とは違いともすれば弛緩した雰囲気となってしまうオールスターというイベントは、難しい。少年期には、国内リーグのオールスターなどを見ることにさほど関心を持てなかったと篠山は回顧するが、その思いは自身がトップリーグ入りして「出る側」になってからも「物足りないな」と大きくは変わらなかった。

 しかし、選手によってはオールスターにおいても味方にハッパをかけるなど高い意識で臨んでいた選手はいたという。篠山はBリーグの前身のひとつであるNBLのオールスターでの川村卓也氏(前西宮ストークス)などは率先して気合を入れ直す言葉などをチームに投げかけていたと記憶している。そうした先輩選手たちの姿にも影響を受けてか「最低限のディフェンスの強度とか、ダラダラしない」という意識でオールスターという「祭典」に臨んできた。

「文化祭のときの、女子の学級委員長みたいな気持ちですよね。『ちゃんとやろうよ』みたいな(笑)」

 いつ話を聞いてもわかりやすいたとえ話などを交える篠山だが、今回のインタビューでもっとも秀逸だったのが冒頭に記した「プロレス」のアナロジーだ。具体的には、篠山はオールスターでは「プロレス」をする気持ちで臨んでいると話す。

 どういうことか。

 普段の真剣勝負の公式戦が「オリンピック競技のレスリング」ならば、オールスターはより観客を楽しませることに注力する「プロレス」だと使い分けを説明する。

 「なぜプロレスを見るかといったら真剣にやっているからじゃないですか。相手の良さを引き出すためにあえて技を受けるというところもあるし。そのやり合いの、いいところの出し合いというのがプロレス。僕らが普段やっているのはオリンピックのレスリングですけど、オールスターはやっぱりプロレスをやらなきゃいけないと思うので」

©Basketball News 2for1

 オールスター本戦。篠山はチームメートの河村勇輝(横浜ビー・コルセア―ズ)と2人で富樫に対してサイドライン際で、多少おおげさな守りかたでダブルチームをしかけ、富樫からターンオーバーを誘発。また、富樫のフリースローの際にはジャンプで音を立てて邪魔をして、スタンドから笑いを誘った。

 「ぼくと河村くんでダブルチームに行って、富樫があれわざとなのか本当にひっかかったのかはわからないじゃないですか。フリースローにしたって本当にびっくりしたのか、彼が外すことで盛り上げようとしたのか。それって富樫にしかわからないし、僕もわからないですが、そういうのはもっとあってもいいのかなって」

上がり続ける演出ハードル リーグからアイデア提供も

 こうして改めて取材をしても、篠山という選手のサービス精神がうかがえる。Bリーグができて7シーズン目だが、その点で彼を上回る者はいまだ見受けられない。

 だが一方で、篠山がそういう選手だとファンの多くが認知しているからこそ、それに応えたいという彼の、ある種の苦心がある。

 水戸黄門に扮しての選手紹介は見る者を驚かせたが、こうしたアイディアの考案にあたっては、結果的に延期となってしまった昨年の沖縄アリーナでのオールスターの際からリーグの協力をあおいでいたそうだ。

 「(2021年に)水戸のオールスターが中止になって、次の開催が沖縄でだったんですよね。お客さんの期待のハードルもちょっとずつ上乗せされていましたし、沖縄の新アリーナの入場となったときに自分が沖縄の名産品を持って入場、というのだけではハードルを超えられないなとなってきて。ならばリーグの人たちを巻き込んじゃえと、なったのが最初でした」

 こうしてリーグ関係者たちと打ち合わせるなかで、水戸で披露した神輿が使えるということがわかり、そこからどのような登場にするかの具体的なイメージを固めていったという。水戸黄門の衣装を脱ぐと漫画「スラムダンク」の登場人物である宮城リョータのユニフォームを着ているという2つめのネタもまたリーグからの提案だった。

 果たして、篠山の入場は会場を大いに温め、大成功となった。しかし当人は「細かい反省点はいろいろあります」と自身に手厳しい。

 「たとえば、うちの家族とかも来ていたんですけど、みんなステージのほうを見ちゃっていた。で、ぼくがアナウンスを受けて注目したらもう(コート内)に着いていた、できれば運ばれてくるところから見たかった、と。そこのすり合わせの質を(今後)上げられれば」

©Basketball News 2for1

真剣勝負の後半戦「セイムページ」で悲願へ挑む

 篠山竜青ここにあり、を大いに印象づけた水戸でのオールスターとなったが、その余韻が残るなかで、篠山もすぐに真剣勝負であるシーズン戦に戻っている。

 ここからの後半戦は悲願のリーグ優勝へ向けてのより熾烈な戦いとなる。が、マット・ジャニングら主力に故障者が出たこともあって、なかなか波に乗れず、2試合のシリーズを連勝で終えたのはここまで2度しかない。ここまでの戦績は20勝14敗で、B1・中地区での首位の座も横浜BCに譲ってしまっている。

 川崎にはインサイドからもアウトサイドからも得点できる多彩な武器があるものの、しかし、だからこそ「セイムページ」(篠山)、つまりチーム全体が意識共有を持つことがいまひとつできていないと、篠山は話す。

 「誰が(コートに)出ていて、誰の強みを出す時間なのか、どうしなきゃいけないのかっていうのが、コート上の5人もそうだし、チームの12人もそうだし、コーチングスタッフも含めてちょっと噛み合ってないような感じがしています。だからなかなかギアが噛み合って、大きな歯車になっていかないというか」

 この先、3月上旬まで水曜日開催の試合がないことと、2月後半は日本代表活動のためにB1のリーグ戦が中断になることから、より腰を据えて練習をする時間ができる。

 篠山はこの期間が「チームにとってめちゃめちゃ大事になる」としたが、反対にそこで彼の言う歯車を噛み合わせる作業が難航すれば、悲願のリーグ優勝達成も絵に描いた餅になってしまうと危機感を示した。

 「チャンピオンシップまでに優勝までぐっと成長曲線を上向かせていくということを考えると、間に合わなくなってしまいます。だからこそこの水曜ゲームがないここからの2週と(日本代表活動期間中の)バイウィークはチームにとってめちゃめちゃ大事になると思っています」

後半戦への意気込みを語る篠山©Basketball News 2for1

 危機感はあるものの、極端に悲観しているわけではない。繰り返しになるが肝要なのはチームとして「セイムページ」を描きながら、試合の瞬間、瞬間でなにが必要なのかを選手たちが理解することだ。

 それはたとえば、相手の弱みをついていくことや、自分たちのファールをどれだけ有効に使うか、どの選手がシュートを打つのが効果的なのかといったことだ。そうした「スマートさ」や「質の高さ」が求められると篠山は強調する。

 それでも「個々の持っている力とかチーム力とか爆発力とか、このチームには絶対あると思っています」と、自信は崩さない。今年の川崎は全選手がキャプテンとしているが、2020−21シーズンまで7年連続でキャプテンを務めたベテラン・篠山のリーダーシップもより必要となってくるだろう。

 “真剣にふざけるプロレスモード”から優勝へ向けての“オリンピック・レスリングモード”に切り替わった男は後半戦、コートでどれだけ暴れるだろうか。

(永塚 和志)

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