Bリーグ2024-25シーズンが開幕し、2部・東地区の福井ブローウィンズは5日と6日にホームのセーレン・ドリームアリーナで同地区の信州ブレイブウォリアーズと対戦。5日の第1戦では延長戦までもつれた試合を80-73で勝ちきりB2昇格後、初勝利をつかむ。翌6日の第2戦では、激しいディフェンスからボールを奪ってイージーバスケットに繋げたり、ハーフコートでは内角や外角からリズム良く得点を重ねるなど、攻守で本領発揮。91-76と大勝し、開幕2連勝を飾った。
チーム創立2年目となる福井は今オフ、B3優勝メンバーのほとんどが残り、B1での経験が豊富なライアン・ケリー、西野曜、木村圭吾を獲得。過去4シーズンをB1で過ごしてきた信州に連勝するなど、しっかりと存在感を見せつけた開幕戦となった。
また、B2での初のホームゲーム開催となった会場には、両日で7,326人のファンが集まり、地元チームの連勝を後押し。かつて“バスケ不毛の地”と呼ばれた福井には、しっかりとバスケットボール文化が根付き始めている。
勝負どころで3P連発 新加入・木村圭吾の躍動
勝利した第1戦。福井は細谷将司、渡辺竜之介、満田丈太郎、ペリー・エリス、ベンジャミン・ローソンの5人でスタート。立ち上がりから一進一退の攻防を繰り広げるも、第2クォーターからは信州の石川海斗の激しいディフェンスで司令塔・細谷がリズムを崩すと、32-42と10点ビハインドで前半を折り返す。
後半、リバウンドから流れを取り戻した福井が11-0のランを成功させ、逆転に成功。4Qも互いに譲らない展開が続き、勝負は延長戦へと突入した。
5分間のオーバータイムで活躍を見せたのが新加入の木村圭吾だった。70-68と2点リードの延長残り3分25秒、左サイドでパスを受けた木村は3Pシュートを沈めると、残り1分50秒にはフリースローライン付近からジャンパーを沈め、75-68とリードを広げる。さらに、残り1分11秒にはゴール下に切り込んでレイアップを沈めるなど、延長での福井の12得点のうち8得点を一人で決める大活躍。多彩な得点力でB2初勝利の立役者となった。
この試合のMVPに選出された木村は自身の活躍をこう振り返る。
「昨季はB1でも強いチーム(群馬クレインサンダーズ)でプレーさせてもらっていましたが、正直、自分が思っているようなプレータイムでは決してありませんでした。ただ、ベンチでぼーっと見ていたわけではなく、トップの選手たちと毎日練習して、欠かさずやってきた。いつもだったらベンチに座って見ていて終わったと思うが、前の練習のときにムーさん(伊佐勉ヘッドコーチ)から『大事なときに出てもらう』というようなことを言っていただいたので、いつ出ても良いように準備をしてきた。ミスもあってまだまだですが、ちょっとは成長したのかなと思います」
プレータイムが少ない時期でも、腐らずに準備を続けてきた成果が出た瞬間だった。
伊佐HCも「木村にはああいう姿を期待して(チームに)来てもらったので、今日(第1戦)は期待通り素晴らしい活躍をしたんじゃないかなと思います。今日だけですよ」とユーモアを交えながら、木村の活躍に目を細めた。
勝負どころで指揮官からの信頼を勝ち取った木村は、第2戦でも全クォーターのラストポゼッションでボールを託され、3Pシュートを4本中3本で沈めるなど、14得点の活躍。飛躍を感じさせる2日間となった。
徹底した遂行力 満田丈太郎「選手一人ひとりのレベルが高い」
開幕2連勝スタートを切った福井。2日間を通して際立ったのは、その遂行力の高さだ。第2戦に関しては、福井が全てのクォーターの最後のポゼッションでクオリティの高いオフェンスを展開し、木村が9得点を記録している。偶然なのか、意図的にコントロールしたのかは定かではないが、試合全体を通して「ゲームプラン通りだった」と伊佐HCは口にする。
オフェンスだけではなく、ディフェンスでも信州を76得点に抑え、3P成功率もわずか23.8%に抑え込んだ。それは、徹底したゲームプランの遂行による成果だった。以下は指揮官による第2戦後の言葉だ。
「ディフェンスの部分は、3Pを栗原(ルイス)くんに4本やられましたけど、そこは(ゲームプランとして)ケアをしていたので反省点かなと思います。他は、ほぼほぼプラン通りできて、やられ方も僕の想定通りでしたので、選手の遂行レベルはとても素晴らしかったなと思います」
遂行力と言葉にするのは簡単だが、チームの決まりごとや相手の特徴を頭に叩き込み、それを表現するのは決して容易なことではない。なぜここまで高い遂行力を発揮できたのだろうか。キャプテンの満田は分析する。
「今日(第2戦)に関しては、シュートや3Pシュートが得意な選手はしっかりと抑えよう、とできていました。普段の練習からいろんなシチュエーションをイメージしながらやっているので、今日は3Pシュートを打たせたくない選手には打たせないというのを、普段の練習のイメージ通りのまま試合でできたというのが遂行力の高さになっていると思います。みんなアジャスト力(がある)。多分1歩2歩の違いとかは出てくると思うんですけど、しっかりそこを早くアジャストして、ポジションもちょっとシューター寄りにしたりとか、この選手は少し中にいたりとか。選手一人ひとりのレベルが高いのは遂行力の高さに繋がっていると思います」
オフェンスでは、信州の大黒柱であるウェイン・マーシャルが欠場したことで、相手のウィークポイントであるインサイドを徹底的に攻め続けた。ペイントエリア内での得点は32得点を獲得し、第1戦でつかまった渡邉飛勇や狩野富成のブロックにはバックカットやハイローの合わせ、ドライブからのキックアウトなどで対応。ローソンの4アシストを筆頭に、ビッグマンのアシスト数が伸びているのもゲームプランを遂行できた結果に違いない。
両日で7000人強のブースターが選手を後押し 文化の根付きに手応え
新加入選手の活躍、ゲームプランの遂行に加え、福井ブースターが作り出す会場の雰囲気も、開幕2連勝を呼び込んだ理由の一つだった。
昨季のB3リーグ参入から、未だにホームでの負けを知らない福井。しかし、第1戦では昨季はあまり経験しなかった劣勢の時間も長かった。それでもブースター声援は決してたゆまず、選手たちを最後まで後押しする雰囲気が会場を包みこんでいた。その雰囲気はどこか、沖縄アリーナを熱狂の地へと変える琉球ゴールデンキングスのブースターのそれと似ていた。かつて琉球で指揮を執った経験もある伊佐HCに福井ブースターが作り出す雰囲気について尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「昨年、すごく良い成績でB2に上がれたのが相当大きいかなと思います。今日(第2戦)も含めてまだ福井で負けていないという事実が、福井県民のみなさんの応援に対する熱を手伝っているのではないかと思っています。昨年のプレーオフの前から応援の仕方に慣れてきて、本当にチームに勢いを与える応援をしてくれるなと昨年は感じていました。
今シーズンは、相手が信州さんだからということもあるかと思いますし、開幕戦ということもあるかと思いますが、クラブ、フロントスタッフの皆さんが両日で7000人強集めていただいて。昨日(第1戦)は、昨年見られなかったほぼ負けている状態から逆転した、あのようなゲームを見てもらえて、より応援に熱が入ったのではないかと思います。おっしゃるように、琉球のブースターが盛り上がって、選手がそれに反応する感覚というのは、ちょっとは似ているような感じはします」
かつては福井のようにプロスポーツ不毛の地として知られた沖縄だが、2007年に琉球ゴールデンキングスが誕生すると、バスケのカルチャーが一気に根付いた。昨夏には沖縄アリーナでワールドカップも開催され、いまや日本有数のバスケ熱を誇る地域になっている。
福井もチームができて2年目ではあるものの、会場の熱気はすでに他のチームにも劣らないほどになってきている。bjリーグ時代の2007年から10年間を琉球で過ごし、チームのカルチャーやプロバスケの土壌を0から築き上げてきた伊佐HCだからこそ、福井の状況がかつての琉球とリンクしているように感じられたのかもしれない。
北陸高校出身で高校時代を福井で過ごした満田にとっても、感慨深い開幕戦となったようだ。
「本当にやっていて楽しかったですし、第4Qは鳥肌が立ちました。土曜日(第1戦)の4Qのときとかは『すごいな、めちゃめちゃいい環境』だと思いました。本当に最高な環境で今バスケットができてありがたいと思いましたし、それに対して僕たちは結果で応えたいです」
開幕を連勝で終え、ホームでの無敗記録を伸ばした福井ブローウィンズ。2年目にしてチームもブースターもさらに上のカテゴリーを目指す気合いが伝わる。長いシーズンの中で、逆風が立ちはだかるときもあるだろう。しかし、それをはるかに凌ぐ青き旋風がB2を飲み込むかもしれない。
(芋川 史貴)