“下剋上ストーリー”は終わらない 広島ドラゴンフライズ、堅守と3Pで崖っぷちから1勝1敗のタイに戻す
広島ドラゴンフライズの山崎稜©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 下剋上ストーリーは終わらないーーー。

 第3Qの残り7分39秒。この試合最大となる11点ビハインドを背負った広島ドラゴンフライズが、タイムアウトを取った。

 琉球ゴールデンキングスに0ー7のランを許し、第2Qから続く勢いが止められない。前日に先勝されて迎えたBリーグチャンピオンシップ(CS)ファイナル第2戦。広島は、ここで踏ん張れなければシーズンが終わりかねないという正念場を迎えていた。

 「ディフェンスを激しくしないといけないということと、ボールを大切にしてターンオーバーをしないこと。チームが後半に強いのは自分たちも分かっているので、流れがつかめると思っていました」(山崎稜)

 オレンジ色に染まった広島側観客席からの熱い応援にも背中を押され、シーズン終盤で何度も見せてきた”逆転の広島”が目を覚ます。

盛りあがる広島ベンチとブースター©Basketball News 2for1

“Xファクター”上澤の連続ポイントで勢い

 試合再開。エースのドウェイン・エバンスが3Pで反撃の狼煙を上げると、琉球がターンオーバーや連続ファウルで流れを失う。その隙を見逃さずにフリースローや山崎の3Pなどで追撃し、14ー0のランをやり返して一気に逆転した。

 48ー47の1点リードで入った第4Qは、帰化選手の河田チリジを含めて3BIGで入り、高い強度のスイッチディフェンスで簡単に得点を許さない。すると開始から約2分半、立て続けにビッグショットが生まれる。放ったのは、第1戦で無得点だった上澤俊喜だ。

 ドライブを仕掛けたケリー・ブラックシアー・ジュニアからのキックアウトを受け、右コーナーから3Pをヒット。さらにアレン・ダーラムのチェックを受けながら、エルボー付近からプルアップのミドルジャンパーを沈め、リードを7点に広げてタイムアウトを取らせた。

 「シュートを打つことは僕の仕事なので、そこはぶれずに、打てる場面ではどんどん打っていこうと常に思っています。消極的にならずにいったからこその得点だったと思います」と振り返る上澤。“Xファクター”の活躍で広島はさらに勢いを増し、その後も各選手が内外でバランス良く加点して最後までモメンタムを維持した。

 結果は72ー63。勝敗数を1勝1敗のタイに戻し、優勝に逆王手を掛けた。

1勝1敗のタイに戻し、逆王手をかけた広島ドラゴンフライズ©Basketball News 2for1

スタートから“3BIG” スイッチDFが効果発揮

 第1戦はエバンスとメイヨの2BIGで入り、琉球に先手を取られたが、第2戦はエバンス、河田、ブラックシアー・ジュニアの3BIGでスタート。前日はファウルトラブルに陥った河田のプレータイムをコントロールしながら、要所で3BIGを使って駆け引きを制した。

 カイル・ミリングHCは先発の顔ぶれについて、第1戦の後半にビッグラインナップが琉球に効いていたことを参考に決めたという。「今日は本当にいい出だしをしないといけないと思っていました」という思惑は的中し、スイッチディフェンスで琉球に簡単にインサイドへ進入させず、タフな3Pを多く打たせて第1Qから21ー14と前に出た。

 第2Qからは岸本隆一らにドリブルでペイントエリアに入られ、ディフェンスを崩されて逆転されたが、後半は再び堅守が復活した。ミリングHCは「ディフェンスは常に改善しなければいけない」とした上で、チームの身上を語った。

 「ピック&ロールのディフェンスも今日はしっかりやって、さらに良くしなければいけない。ビッグラインナップの時のスイッチディフェンスももっと良くしていける部分はあると思います。僕ら全体の目標は、ディフェンスのミスをどれだけ少なくできるかということです」

 琉球の3BIGに対してインサイド陣が体を張る中、他の選手も積極的にゴール下に飛び込んだ。「琉球はベストなリバウンドチームで第1戦はかなりやられてしまいましたが、ガード陣がアグレッシブにリバウンドを取ってくれました。特に(アイザイア)マーフィーのリバウンドは素晴らしかったです。それを第3戦はしっかりやらなければいけないと思います」と続けた。

記者の質問に答えるカイル・ミリングHC©Basketball News 2for1

インサイド崩しが奏功 3P成功率61.6%

 オフェンスでは、序盤から積極的にドライブを仕掛けていたエバンスが「チリジがいる時はスペーシングが大事になってくると思います。相手がスイッチしてくる中、アグレッシブにクーリーやカークにアタックすることを心掛け、出だしから意識してしてやりました」と言うように、第1戦に比べて全体としてペイントアタックの回数が格段に増えた。

 結果、琉球のディフェンスが収縮し、キックアウトからフリーの3Pを打つ場面が増加。3P成功率は驚異の61.1%に達した。本数にして18本中11本。観ている側からすると「打てば入る」というような印象を持つ数字だ。前日は琉球に33本中15本の3Pを決められて敗因の一つとなったが、それを上回る成功率でやり返した。

 中でも5本中4本の3Pを沈めた山崎は圧巻だった。「CSに入ってから本当に調子が良くて、もう入る自信しかない。琉球のマークはきついですけど、第3戦ももっと打っていきたいです」と気持ちがいい程の自信に満ちあふれている。キャッチ&シュートで打つことが多く、チームメートへの信頼も厚い。

 「チームのオフェンスシステムの中で、自分の打てる形ではないプレーコールもあると思うんですけど、そういった中で無理に動いてもうまくはいかない。ただそういう流れの時だからこそ、ちょっとした隙が空くのを待っています。ビッグマン3人はパスが上手い選手が揃っているので、そこは本当によく見てくれています」

5本中4本の3Pを決めた山崎稜©Basketball News 2for1

“広島プライド”で初優勝をつかめるか

 攻守ともにチーム全員で戦い、逆転する展開が多い広島だが、「後半の強さの秘密」を問われた山崎は「秘密にはしてないですけど…」と少しおどけた後、頼もしい言葉を続けた。

 「僕たちには『広島プライド』という最後まで諦めない気持ちあります。どんなことがあっても屈しない魂が選手全員に備わってます。『広島プライド』という言葉はあまり知られてないと思うんですけど…(笑)。その諦めない気持ちが要因かなと思います」

 Bリーグ2023-24シーズンの最後を飾る運命の第3戦は、28日午後7時5分、横浜アリーナでティップオフする。

 エースガードの寺嶋良が3月上旬に負傷離脱した後、メインのガードとして頼もしい活躍を見せている中村拓人は「スタートになったからといって僕の中では大きく変わることはありません。100%のパフォーマンスをすることだけに集中しています。最後の第3戦でゲームは終わりますけど、その気持ちは強く持ってやりたいなと思います」と意気込む。

 レギュラーシーズンの最終盤で接戦を勝ち切る粘り強さを身に付け、熾烈なワイルドカード(WC)争いを制してWC1位でCS進出を果たした広島。クォーターファイナルで中地区1位の三遠ネオフェニックスを倒し、セミファイナルでは西地区1位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズを破った。さらにファイナルという大舞台で2連覇を狙う王者・琉球をも撃破し、クラブ初優勝という最高の結果で下剋上ストーリーを完遂できるか。

 屈強な“広島プライド”を宿した選手たち。奇跡を起こす準備はできている。

(長嶺 真輝)

盛り上がりを見せる広島ドラゴンフライズブースター©Basketball News 2for1

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