東アジアスーパーリーグ(EASL)が主催する初開催の「EASL Champions Week」は大会最終日の5日、沖縄アリーナでファイナルと3位決定戦を行った。ファイナルは韓国KBL同士の対戦となり、安養KGC(KBL2位)がソウルSKナイツ(同1位)を90-84で破り、初代王者となった。3位決定戦に挑んだ琉球ゴールデンキングス(Bリーグ2位)は、今大会に向けて結成された中華圏を代表するベイエリアドラゴンズに70-90で敗れ、4位だった。
宇都宮ブレックス(Bリーグ1位)は大会第3日の予選グループBの第2戦でベイエリアドラゴンズに90-96で競り負け、対戦成績1勝1敗で予選突破はならなかった。
Bリーグ、韓国KBL、フィリピンPBAの昨シーズン優勝、準優勝チーム、台湾P.Leagueの優勝チーム、ベイエリアドラゴンズの計8チームで初開催された今大会は、コロナ禍の影響で当初のホーム&アウェー方式を断念し、日本での5日間集中開催となった。大会方式の急きょの変更や、EASLの人手不足もあり、大会中には関係者から「まだまだ体制が脆弱」など課題を指摘する声も多く聞かれた。
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決勝は好ゲームに KGCのスペルマン躍動
ファイナルは序盤から点の取り合いとなったが、第2QでKGCが抜け出す。激しい守備に加え、グループリーグ第2戦で一人でスリー12本を含む53得点を挙げた203cm、120kgの点取り屋、スペルマン・オマリ・ラスララを中心に得点を重ねて前半を12点リードで折り返した。
後半に入ると、スピードに定評のある韓国代表のキム・ソニョンらの活躍でSKナイツに追い上げられ、5点差で最終第4Qへ。その後も競り合いが続いたが、最後は残り36.9秒の場面でスペルマンが差を7点に広げるスリーを沈め、逃げ切った。昨シーズンのKBLファイナルで1勝4敗でSKナイツに敗れたKGCにとっては、雪辱を果たした形となった。
19得点、11リバウンドと活躍したスペルマンは「勝ったことは本当にうれしい。チームメートとつかんだ勝利だと思います。SKナイツはすごいいいチームで、簡単な試合ではなかったです。初めて日本も楽しんでいます」と優勝を喜んだ。
琉球 予選無敗も得失点差でファイナル進出逃す
3位決定戦の内容を紹介する前に、予選グループAの2試合が沖縄アリーナで行われた大会第4日について触れておきたい。
1試合目でKGCがサンミゲルビアメン(フィリピンPBA1位)に142対87で大勝し、対戦成績を2勝0敗とした。それを受け、2試合目で台北富邦ブレーブス(P.League1位)と対戦する琉球がファイナルに進出するためには、53点差以上で勝利することが必須条件となった。琉球とKGCは直接対決がなく、2勝0敗で並んだ場合は得失点差で順位が決まるためだ。
難しいモチベーションでの試合を強いられた琉球は序盤から攻め急ぎ、試合を通して22ものターンオーバーを記録。後半からいつもの落ち着きを取り戻したものの、83-78での辛勝となった。予選リーグ成績は2勝0敗で無敗だったが、得失点差でKGCを下回り、3位決定戦に回ることが決まった。
試合後、岸本隆一は翌日の3位決定戦に向けて「応援してくれる方々のためにしっかりプレーできればと思います」と語ったが、明確な優劣が付けづらい大会形式に対して「正直、ちょっと収まりがつかない気持ちはあります」と本音も吐露した。
大会前から天皇杯、Bリーグを含めた3冠を狙うことを公言していた桶谷大HCは「ファイナルに行けなかったことは率直に悔しいです。試合前に53点差以上でないとファイナルにいけないという条件付きで始まって、日頃にはないプレッシャーと、必要のないものがインプレットされてしまった。ただ勝つと負けるでは全然違う。後半は自分たちのバスケをすると切り替え、それができたことは良かったと思います」と前向きに語った。
個の能力の高さに屈する 3位決定戦
迎えたベイエリアドラゴンズとの3位決定戦。前日に比べて落ち着いて試合に入った琉球だが、相手のエースガードで、ハンドリングやシュート力に秀でたマイルス・ブレイク・パウエルに序盤から度々得点を許す。第1Qは2点ビハインドで耐えたものの、第2Qで一気に突き放され、16点差で前半を折り返した。
後半は牧隼利のスリーやアレン・ダーラムの個人技などで追いすがったが、この試合両チーム最多の29得点を挙げたパウエルを最後まで止められず、他の選手に要所でスリーも決められた。身体能力の高い選手が揃ったドラゴンズに対し、パスカットやドリブル中のスティールも度々許し、追い上げのきっかけを最後までつかめなかった。
外国籍選手の登録が2人までの中、チームを支えるセンターのジャック・クーリーがベンチを外れたため、強みであるリバウンドで優位に立てなかったことも大差の敗北につながった。
桶谷HC「スタンダードを上げるうえでいい経験」”2冠”へ切り替え
不本意な形で3位決定戦に回り、モチベーションのつくり方が難しい中での完敗となったが、コーチや選手からは前向きな言葉が多く出た。その最大の要因は、ドラゴンズのレベルの高さだ。以下は桶谷HCの言葉である。
「この大会に出たメリットは、Bリーグのレギュラーシーズン中にハイレベルな外国人選手の中でプレーできたことです。普段味わえないサイズ感で、日頃なら通っているパスが通らなかったり、手を上げてないとイージーショットに見えてしまったり。自分たちのスタンダードを上げるためにいい経験になりました。もう一回、自分たちの原点に戻ってレギュラーシーズンにつなげたいです」
今村佳太の話も興味深い内容だった。
「特にベイエリアは個の力が強いチームだったので、P&Rでずれができなくても個で打開されてしまったので、そこをどうチームで守るか。オフェンスでも自分たちのP&Rに対してスイッチされてしまうので、ボールムーブをしたい中でそれができないとなった時に、次はどうするのか。これはBリーグでも同じシチュエーションがあると思うので、改善しないといけないと思います」
確かにレギュラーシーズン中に横浜BCの河村勇輝や島根のペリン・ビュフォードなど個人技や得点能力に長けた選手を相手にすることを想定すれば、得難い経験になった事は間違いない。スイッチディフェンスに対する対応もボールシェアを掲げる琉球にとっては今後に向けた糧になりそうだ。
目指していた”3冠”は逃したが、天皇杯とBリーグにおける前人未到の”2冠”獲得の可能性は依然として残している琉球。EASLでは5日間で3試合を戦い、8日に西地区上位争いを続ける広島との対戦を挟んで12日に天皇杯決勝を迎える厳しい日程だが、EASLでは日本代表の渡邉飛勇やアジア枠のカール・タマヨも戦力として活躍し、プラス材料も得た。総力戦で”勝負の3月”を乗り切りたい。
島田チェアマン「運営体制が脆弱」
今回が初開催となったEASL。Bリーグが他国のリーグに比べてレギュラーシーズンの試合数が多いこともあり、集中開催に変更となった時点でBリーグが日本開催を主張し、今回の形に収まったという。ただ、EASL側の人手不足感は否めず、宇都宮と琉球のクラブへの負担が大きい印象だった。会場となった日環アリーナ栃木と沖縄アリーナには宇都宮と琉球のスタッフが多く見られ、Bリーグの職員も多数いた。
5日に沖縄アリーナでメディアの囲み取材に応じたBリーグの島田慎二チェアマンもこう語っていた。
「まだEASLは始まったばかりで運営体制は脆弱だと思います。ノウハウがまだまだ足りない中でこぼれ落ちるところもたくさんあり、クラブにかなり負担をかけてしまった。Bリーグからも相当スタッフが来ています。運営自体がもっとレベルアップしてもらわないといけないとは思っています」
大会初日から3日目までを行った日環アリーナ栃木では空席も目立った。初開催でまだ大会自体の価値が醸成していない中で致し方ない面もあるが、会場外には段幕やのぼりなど大会をPRする試みが一切なく、ここでも運営面の課題を露呈。島田チェアマンは「ビジネス面としては正直言って厳しかった」とした上で、以下のように話した。
「クラブはレギュラーシーズンの集客やPRで精一杯の中、EASLは人手が足りない。対戦相手のクラブの情報などもEASLから発信がなかったので、PRも後手に回ってしまいました。ただ今回1回大会はやってみたので、今後の大会方式がどうなるかは分かりませんが、同じ結果になる感じでもないのかなと思っています」
国ごとのプレーに”色” アジアビジネスに可能性
一方で、アジア各国の強豪クラブの対戦は純粋に魅力があった。代表クラスの選手が所属するチームも多く、個人技とチームプレーのどちらを強調するかなど、その国のバスケの”色”も見られた。会場にはフィリピンや韓国、台湾など海外からのファンも来場し、フィリピン代表歴のあるタマヨが出場した際には沖縄アリーナに「タマヨコール」が響くなど、国際大会ならでは雰囲気も漂った。
近年、Bリーグではアジア枠の選手も増えており、島田チェアマンも「アジアのチームや選手との交流、ビジネス面の絡みは元々重視しています。EASLはアジア枠で選手を招集している国とかぶっているので、参加国を中心にアジアの枠を広げていくなど、海外とのつながりは大事にしていきたい。日本の会場で外国の選手が出場し、その選手の国のファンから歓声が起こるというのは、見ていてめちゃめちゃ嬉しかったです。これが全国に広がればビジネス面でかなりの助けになる。その現象の最初だったと感じました」と語り、EASLがBリーグのアジアビジネスの後押しになることを期待した。
EASLはFIBAから10年間の公認が既に決定している。来年からは本来の形であるホーム&アウェー方式を採用するほか、今後はNBAの元スター選手も多く所属する中国CBAなどの参戦も模索していくという。今回の優勝賞金は25万米ドル(3千万円以上)だったが、当初は100万米ドル(1億3千万円以上)の予定だった。それだけ資金力は豊富と見られ、継続する可能性は高いだろう。
Bリーグ、天皇杯と並行して行われ、ホーム&アウェーとなれば来年以降は海外との行き来も増えるため出場クラブの負担は格段に増えるが、琉球の桶谷HCは「この大会があることによってメリットの方が大きいと思っているので、ぜひ続いてほしい。また出られたら盛り上げたいと思います」と語った。第1回がコロナ禍という難しい状況下での開催になったこともあり、多くの課題が露呈した形になったが、次回以降は参加国がレベル向上やビジネス面でのメリットをより感じられる大会になることを期待したい。
(長嶺 真輝)
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