宇都宮ブレックスがBリーグファイナルで琉球ゴールデンキングスを破り、同リーグ創設初年度の2016-17シーズン以来の優勝を飾った。
ファイナルの舞台に立つのはこれが3度目。それでも、今年の快進撃はあまりに鮮烈だった。
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ロシター、ギブスら昨季中心選手が退団もCS全勝
ライアン・ロシター(現・アルバルク東京)、ジェフ・ギブス(現・長崎ヴェルカ)ら前年、ファイナル進出の原動力となった一部の中心選手が抜けた今シーズン。新戦力が加わったことでチームが十全に機能するまでに時間がかかり、レギュラーシーズンの順位は東地区の4位に沈んだ。
チャンピオンシップ(CS)ではワイルドカードとして進出。下馬評の低いなか、クォーターファイナルで前年王者の千葉ジェッツを、セミファイナルで川崎ブレイブサンダースをいずれもアウェイで下すと、先般終了したファイナルでは今季B1最高勝率の琉球ゴールデンキングスを退けて、頂点に立った。しかも、1度も負けずに。文句のつけようのない、完璧なまでの優勝だった。
「挑戦者」として挑んだCS ワイルドカードから快進撃
レギュラーシーズンでは苦戦した宇都宮はなぜ、CSで勝てたのか。ポストシーズンが迫るなかでチームのケミストリーが高まり、ピークをうまくそこに持っていけたというのはあったが、ブレックスがこれまで年月をかけて築いてきた「勝つための文化」という土台があってこそ成せたのではないか。
愚直に、自分たちのゲームの遂行に固執しながら、相手の勢いという波にけっして飲み込まれないようにする我慢強さを持ち続けられたことが、何よりも大きかった。己を滅してチームに献身する姿勢はしばし「ブレックス・メンタリティ」という言葉で形容されるが、能力の高い選手を集めて好き勝手にやるのではなく、チームとして戦うことこそが肝要なのだと理解したチームだからこそ、リーグ史に刻まれる快進撃が可能となった。
また、何も失うもののないワイルドカードというポジションからのポストシーズン入りで、精神状態は、あるいはどのチームよりも充実していたのではないか。CSの期間中、安齋竜三ヘッドコーチは自分たちが「チャレンジャー」であり、ぶつかっていくことこそが大事なのだと、幾度となく――しつこいほどに――強調した。
川崎とのセミファイナルの際、比江島慎は「元々、僕らのチームは“やんちゃ”じゃないですけど、アウェイで開き直れるメンタルのある選手も揃っている」と話した。キャプテンの田臥勇太や渡邉裕規、遠藤祐亮といったBリーグ以前からチームに在籍し、優勝の味もプレーオフの戦いかたもわかっているベテランが多いのも、精神的な支えとなったはずだ。
もちろん、勢いや開き直りだけで勝てるわけではない。
Bリーグ以前、以後も含めれば数度、優勝を果たし、CSには毎年出場してきた。安齋HCはプレーオフになると毎年のように「レギュラーシーズンとCSは違う」と強調してきた。ポストシーズンにはポストシーズンの戦い方があるだろうが、それをもっともよく知るチームが宇都宮だと言えるだろう。
王者・千葉をスイープ 勢いに乗ったクォーターファイナル
クォーターファイナルの千葉とのシリーズで、前年王者をスイープで撃破したことで快進撃という「劇」は幕を開けたが、戦いぶりが印象的だった。
初戦。宇都宮は、戦前の不利の声をよそに試合開始直後から9-0とリードを広げた。しかも、この9得点もセカンドチャンス(オフェンスリバウンド等による再度の攻撃)、相手のターンオーバー直後、そしてファストブレイクと、宇都宮らしい形によるもので、先制パンチを見舞うことに成功した。翌日の第2戦でも同様の得点方法で、試合開始直後から15−7とリードを取った。下位シードチームがアウェイで勝利を狙うのに出だしで相手をやり込めるのは定石ではあるが、試合開始後のオフェンスが重くなる課題のあったジェッツの傾向も見越して、最初にディフェンスで激しく当たり、イニシアチブを取るということは、戦前から考えていたことに違いない。
CSでの宇都宮の戦いぶりでもう一つ、際立ったのが「相手を乗らせない」ことだった。
筆者は、相手がまったく得点を挙げない間にフィールドゴールを3本以上連続で決める場面に着目してみた。
千葉、川崎、琉球との6試合で宇都宮は計11度、その3連続FGを記録しており、対して相手に与えたのは計8度だった。とりわけ、千葉に対しては1度もそうした場面を許しておらず、上述のようにクォーターファイナルから宇都宮が勢いをつけられたというのはこういうところからも垣間見える。ちなみに同様の場面を、川崎と琉球にはそれぞれ計4度ずつ許したが、総じて完全に勢いを与えたと感じさせた試合はほぼなかった。
ファイナルで、多彩なディフェンスを駆使しながら琉球をわずか5得点に抑えた第1戦の最終クォーターも印象的だったが、川崎との初戦の第2クォーターも同様だった。同クォーターの終盤、宇都宮は相手のミスに乗じて9連続得点を収めて川崎ファンに悲鳴を上げさせるとともに、試合のペースを握ったのだった。常に相手のターンオーバーを狙うオポチュニスティックなディフェンスがこれ以上ないほどに機能した、「いかにも」宇都宮らしい戦いぶりだった。
「我慢」してやるべきことを徹底 比江島慎はMVP
CSでの宇都宮にとって最も重要なキーワードは「我慢」だった。
上述の通り、相手に流れが行きかけても焦らず、ディフェンスを中心としながら自分たちのすべきことに徹し、それを実行した。ファイナル終了後、琉球・桶谷大HCは「僕らは勢いをつけて勝つことが大事だったが、宇都宮さんには乗せないように、乗せないようにしてきた」とし、初めてBリーグファイナルに進出した自軍とそうでない相手との「経験の差」を指摘した。
ファイナル後には、比江島がCSの最優秀選手(MVP)に選ばれた。独特のステップからによるドライブインからのレイアップなど、個の技量を生かしながらファイナルでも試合終盤に得点を重ね、文句なしの同賞受賞だった。ただ「個」が目立つのは彼くらいで、宇都宮はそこにおいてジェッツや川崎、琉球と比べて相対的に劣っていたと言える。
宇都宮・佐々宜央アシスタントコーチは同軍のYouTubeでのインタビューで「うちにはゴー・トゥ・ガイ(個の能力が突出した選手)はいない」と述べていた。しかし、だからこそ、相手にペースを握らせないように「我慢して」自分たちのゲームを愚直に続ける必要があったのだ。
そして、それは見事なまでに奏功した。宇都宮のレギュラーシーズンでの平均失点は69.1だったが、CSでは攻撃力のあるチームばかりが相手(レギュラーシーズンの平均得点は川崎が1位、千葉が2位、琉球が5位)だったにもかかわらず、同69.8だった。また、レギュラーシーズンで10.9だった自らの創出ターンオーバー数は平均7.7に抑えた。相手からはミスを誘発しながら自分たちはなるべく失策をせずにゲームをコントロールした。その試合巧者ぶりは、数字を見ても明らかだった。
崩れない遂行力が昨季のリベンジにつながった
「宇都宮は自滅するようなチームではないから、自分たちが彼らを倒す必要がある。彼らは常にハードにプレーするし、ターンオーバーはしない。何というか、自分たちがこうすべきだという方法論みたいなものを確立しているんだ」
川崎のエース、ニック・ファジーカスはセミファイナル終了後、そのように語っている。
最終クォーターで5点に封じられ落としてファイナル初戦後、琉球のジャック・クーリーは「おそらく今年の最悪のゲームだった」と声を小さくして話した。宇都宮の「崩れなさ」と自軍が普段どおりの力を発揮できなかった――させてもらえなかった――悔しさがにじみ出ていた。
とにかく相手のゲームをさせない。自分たちは我慢しながら自分たちのゲームに徹する。宇都宮はそこを完遂し、ワイルドカードから無敗で勝ち上がるという予想外の形で、再び優勝トロフィーを手にし、昨シーズンのファイナルで敗れた悔しさを晴らした。
(永塚和志)
【著者プロフィール】
永塚和志(ながつか・かずし)…スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、20219ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。