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レギュラーシーズンはB1最高勝率の49勝7敗
勝率8割7分5厘(49勝7敗)でB1歴代最高勝率を更新、B1最多連勝記録となる20連勝を達成ー。
記録ずくめのレギュラーシーズンを経て、満を持してチャンピオンシップ(CS)ファイナルに初進出した琉球ゴールデンキングス(西地区1位)。
ファイナルでは、お互い無傷の4連勝で頂上決戦まで勝ち上がってきた宇都宮ブレックス(東地区4位、ワイルドカード上位)と対峙した。結果はGame1が61-80、Game2が75-82でまさかの2連敗。悔しい最後で今季を終えたが、準優勝は過去最高位。クラブの新たな歴史の扉を開いた。
2016年のBリーグ開幕戦で旧bjリーグの代表としてアルバルク東京と「新時代の幕開け」を飾った時は、旧NBLのトップチームとの歴然としたレベルの違いを痛感したファンも多かったのではないだろうか。「エリート対雑草」というキャッチコピーは正に的を射ていた。
あれから6年。「雑草」は沖縄の地に力強く根を張り、”沖縄を元気に”という大義や”団結の力”を「養分」に、初のファイナル進出という「芽吹き」の時を迎えた。
Bリーグ制覇という「大輪の花」を咲かせる日は、そう遠くない。確かな進化をファンに実感させるには、十分な内容のシーズンだった。
並里不在ピンチも 東京に集った多くのキングスブースター
とはいえ、今季の優勝も十分に可能性はあった。CSクォーターファイナルでは秋田を寄せ付けず、島根との西の頂上決戦となったセミファイナルではGame2をドウェイン・エバンスの劇的なブザービーターで勝ち上がり、勢いに乗っていた。
しかし、ファイナルを目前に悲報が襲う。Game1前日に琉球、宇都宮の両チームに新型コロナウイルスのPCR検査で陽性者が確認された。試合直前、琉球は並里成、宇都宮は喜多川修平が「コンディション不良」で欠場することが発表された。
一方、会場には希望も見えた。
開催地は「中立地」の東京体育館。同じ関東圏内の宇都宮に対し、琉球の本拠地は1,500キロ以上離れた沖縄にも関わらず、会場には試合開始の数時間前から多くの琉球ブースターが詰めかけた。スタンドは2日とも、それぞれのチームカラーである琉球の白と宇都宮の黄色がほぼ半々となった。
琉球の選手が「団結の力」を体感するには、十分な光景だったことだろう。
Game1勝負を分けた第4Q 圧巻の「比江島タイム」
迎えたGame1。
堅守を武器とする両チームらしく、激しいプレッシャーを懸け合って序盤から一進一退の攻防が続く。存在感を発揮したのはジャック・クーリー。前半だけでオフェンスリバウンド5本を含むリバウンド10本、13得点と既にダブルダブルの活躍を見せた。
ただ、並里が不在でローテーション人数が限られていた琉球。バックコート陣のプレータイムを考慮し、「ペリメーターの選手のプレータイムが伸びると厳しいので、良くなくても3ビッグを使わないといけない時間があった」(桶谷大HC)と小寺ハミルトンゲイリー、エバンス、アレン・ダーラムの3ビッグを起用する時間が増える。
しかし、3ビッグの時にインサイドを強調し過ぎて相手の2-3ゾーンを崩せず、波に乗れない。ペイント内にボールが入った瞬間にマンツーに切り替えるマッチアップゾーンや、岸本に対するハードショーを使ったスリー封じなど、確かなスカウティングを背景とした宇都宮の自在なディフェンスに苦しむ場面も散見された。35-38で折り返した。
一方、第3Qは琉球に接戦を抜け出すチャンスが訪れる。
今村佳太と小野寺祥太のスリーで流れをつくり、残り約2分で6点リードを奪う。一気に2桁得点差に広げ、優位な状態で最終第4Qに向かいたかったが、チェイス・フィーラーにオフェンスリバウンドから得点を許すなど、結局56-54で第3Qを終えた。
「3Qの最後までいい形で自分達のバスケができたけど、最後の2、3ポゼッションでオフェンスリバウンド取られ出して、セカンドチャンス取られて流れを持ってこれなかった」と桶谷HC。この時間帯が敗因の一つとなった。
最終第4Qは圧巻の「比江島タイム」に見舞われる。このクオーターだけで11得点を挙げた宇都宮エースの比江島慎に序盤から立て続けにシュートを決められ、一気に突き放された。さらに、開始2分30秒でチームファウルは5つに達し、窮地に追い込まれる。
琉球は中盤から3ビッグで勝負を仕掛けるが、またも相手の2-3ゾーンやマッチアップゾーンに苦しみ、このクオーターは5-26と圧倒されて大事な初戦を落とした。
桶谷HCは「ボールムーブがない中でインサイドにアタックし続けてしまい、無理にこじ開けようとしてしまった。相手の守備が収縮してる状況でもインサイドでパスしてターンオーバーを犯すこともあった」と反省点を挙げた。
普段は速攻から流れをつくる場面が多い琉球だが、この日はファーストブレイクポイントがわずか6点。ガードとしてパスやドリブルでプッシュする並里不在の影響はここにも表れた。
ただ、今村は次戦に向けて力強い言葉を残した。
「苦しいスタートではあるんですけど、自分達は誰も成し遂げられなかった第2戦、第3戦を勝っての優勝にチャレンジできるのはとても楽しみ。もう一回、宇都宮にチャレンジしたい」
粘りを見せたGame2 終盤の猛追も及ばず
絶対に負けられないGame2だが、試合開始から0-9のランを許す。前日の反省からインサイドアウトで何度もフリーのスリーを演出するが、ことごとくリングに弾かれた。それでもクーリーのゴール下やダーラム、岸本のドライブでなんとか食らい付く。
ただ、守備では宇都宮の鵤誠司や比江島に、岸本、フリッピンとの高さや幅のミスマッチを的確に突かれ、1対1で度々優位な状況をつくられる。第2Q終了間際に今村がスリーを決めてなんとか1桁得点差に縮めたが、30-38と劣勢で前半を折り返した。
ハーフタイム。桶谷HCが出した指示はこうだ。「前半の終わりくらいに隆一がいいドライブをして、そこから流れができてきていた。回りの選手がそこから合わせよう」。ドライブで宇都宮の硬い守備にズレをつくり、そこから突破口を見出そうとした。
先陣を切ったのはエバンス。個で打開したほか、岸本やフリッピンのドライブに合わせて何度もゴールを射抜き、このクオーターだけで12得点。第3Qの残り1分29秒で琉球が初のリードを奪う原動力となった。
結局、第3Q終了時点で54-55。Game1同様に、僅差で第4Qに入った。
ここで、またも開始直後に比江島に連続得点を許し、流れを持っていかれる。さらに渡邉裕規のスリーやミドルで差を広げられ、残り約4分で58-68と2桁得点差に広げられた。
それでもブースターの応援を背にした選手たちは諦めない。「こんなとこで終わりたくなかった。勝ちたい気持ちの一心だった」(今村)
岸本のスリー、クーリーのブロック、ダーラムのバスケットカウントワンスローで連続8得点。残り2分22秒で2点差まで詰め寄る。比江島と鵤が冷静に得点を決めて6点差と引き離されるが、フリッピン、今村が連続でスリーを決め、残り59秒で72-74とまたも2点差となった。
しかし、再び比江島が立ちはだかる。ここからゴール下やフリースローでチームの8得点を全て1人で挙げ、宇都宮を牽引。対する琉球は今村のフリースローで追いすがったが、土壇場でフリッピンのターンオーバーやエバンスのスリーがフィーラーにブロックされるなど決め手を欠き、逆転には至らなかった。
「経験の差」痛感 ターンオーバー数に大差
無情にも試合終了のブザーが響いた後、ベンチで下を向き、涙を流す選手も。その中でも、優勝セレモニーをじっと見詰める選手がいた。今村だ。
「今シーズン、あの景色を自分達が勝ち取ると思ってやってきたので、しっかり目に焼き付けておきたいと思って見てました」
この試合、チーム最多の18点。セミファイナルでも連日20点超えとエースとしての地位を不動にした今村は、この悔しさを糧にさらに大きく成長してくれそうだ。
セレモニーでは、宇都宮の安齋竜三HCも琉球に最大の賛辞を送った。「今季、琉球はレギュラーシーズンから本当に強くて、最高で、最強のチームだと思っていた。僕たちがどのくらいやれば倒せるかという勝負だった。琉球がそういうチームだったから、自分達の力以上のものが発揮できた」。
一方の桶谷HCは、リーグの初代王者で、昨季も準優勝でファイナルを経験した宇都宮との確かな差を痛感したようだ。
「一つ違った点があるとすれば、経験の差もあったかなと思います。僕たちが勢いを付けて勝つことが必要だったけど、勢いに乗せないように、乗せないようにやられた。その差はすごくあった」
2試合を通して、常に攻守でチームのコンセプトを貫いた宇都宮に対し、勝負所でのミスも目立った琉球。その差は数字にも表れた。
ターンオーバーの数はGame1が琉球12に対し、宇都宮は8、Game2は琉球11に対し、宇都宮はわずか5にとどまった。しかも宇都宮は、優勝の懸かるGame2の入りとなる前半はターンオーバーがゼロで、いかに平常心を保ってプレーをしていたかが分かる。
もともと負傷者の多い中、やはり並里の不在も大きく響いた。Game2終了後、桶谷HCは「タラレバ」としながも「成は今季ずっといろんな面でチームを支えてくれた。スタートもバックアップも経験して、今までにないシーズンだったと思う。プレーメーカーが何人かいる中で黒子役に回り、チームをファイナルに連れてきてくれた。彼がいなかったことですごく厳しい試合になった」と本音を覗かせた。
「次世代の日本プロバスケ像を体現」
最後は悔しい結果となったが、琉球は確かな進化を示したシーズンとなった。
体の強いダーラムや帰化選手の小寺、昨季千葉で優勝を経験したフリッピン、東京五輪日本代表の渡邉飛勇を獲得し、大型補強に成功。さらにbjリーグ時代に琉球を2度の優勝に導き、堅守や自己犠牲の精神を植え付けて「チームの礎を築いた」と称される桶谷HCを9年ぶりに招聘した。
開幕戦では、6年前のBリーグ開幕時と同じくA東京と対戦し、連勝を飾って強さを印象付けた。渡邉は開幕前に負傷して離脱したが、小寺が加わったことによる「3ビッグ」でインサイドの強さが増し、機動力の高いダーラムとエバンスの速攻はチーム最大の武器となった。
さらに主将の田代直希や牧隼利、今村というウイング陣は攻守に安定感を増し、岸本は持ち前のクラッチシューターの資質が完全に開花。今村、岸本は日本代表にも選出された。昨年11月に田代、今年2月に牧と主力のケガが相次ぎながらも、桶谷HCの掲げる自己犠牲やボールムーブによるオフェンスを貫き、B1の歴代最高勝率や最多連勝記録を更新したことは特筆に値する。
ファイナルのGame2終了後、クーリーは「キングスの仲間、スタッフと戦えたことを嬉しく思います。結果はもちろん悔しいし、直さないといけないところは修正して前進していきたい。ただ何より、このチームで戦えたことを嬉しく思います」と語り、強い信頼関係をうかがわせた。
レギュラーシーズンで一度も連敗がなかった修正力の高さ、精神面の強さも見事だった。これまで東地区、そして関東のチームしか立てなかったファイナルの舞台に、西地区で初めて進出したことは、全国各地にある地方のクラブにとっても大きな刺激になったことだろう。
また、今季は初めて沖縄アリーナで全ホームゲームを開催した。今年5月4日の千葉戦ではクラブ主管試合として歴代最多の8,263人を動員。さらにセミファイナルではGame1で8,020人、Game2では8,309人を集めた。ファイナルの集客数がGame1で6,654人、Game2で6,874人だったことから、いかに琉球の集客力が高いかが分かる。
バスケ観戦に特化した沖縄アリーナという国内最先端のエンターテインメント施設を有し、地方チームでこれだけの集客を達成したことは、Bリーグの将来の発展にとって、大きなインパクトを与えたことは間違いない。
琉球がホームページに掲載した「2021-22シーズン終了の報告と御礼」では、球団のプライドが垣間見える。
「『Bリーグ新時代の舞台は沖縄アリーナ』を掲げ、自チームの優勝を目指すことだけでなく、日本バスケットボール界を新しいステージへ飛躍させるという大義で挑みました。(中略)琉球ゴールデンキングスだけでなくBリーグ全体にとっても、次世代の日本プロバスケ像を体現することが出来たのではないでしょうか」
Bリーグ王者を目指して 再び大きな壁へ挑む
琉球が初めてbjリーグに参戦した07-08シーズンは西地区最下位。観客が数百人という試合も経験した。しかし、桶谷HCが就任した翌シーズンに初優勝を飾り、最終的にはbjリーグで最多4度のチャンピオンリングを手にした。
Bリーグが開幕した16-17シーズンはホーム最終戦で大阪に勝利し、土壇場でCS出場が決定。クォーターファイナルで三河に連敗して涙を飲んだ。17-18シーズンからは3シーズン続けてセミファイナルの壁に跳ね返され、今季ついにファイナルの舞台に立った。
そして今、Bリーグ王者という新たな壁がチームの前に立ちはだかった。苦境や悔しさを経験すればするほど、それを糧に強くなるのが琉球というチームだ。シリーズ終了後、生え抜き10年目の岸本が気丈に語った言葉が象徴している。
「チームメートのケガや、コート外でもいろんなことがあった中で、逆境を乗り越えてきました。最後は乗り越えられなかったのですが、そこに立ち向かっていくのがキングスが歩んできた歴史だと思う」
来季、また一から頂点への挑戦が始まる。選手、ファンが一体となり、団結の力で熱く、激しく戦いたい。真の”キング”になり、チャンピオンリングを掲げるその瞬間を信じて。
(長嶺真輝)
【著者プロフィール】
長嶺真輝(ながみね・まき)…沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。元バスケ日本代表の渡邉拓馬選手に似てると言われたことがある。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。