
「こうやって(自分たちが)ファイナルの舞台に来るということを、どれだけの人が予想したんだろうと思いますし、ファイナルで戦えたことは誇りに思います」
5月27日に横浜アリーナで行われた2024-25シーズン・Bリーグチャンピオンシップ(CS)ファイナルの最終第3戦を終え、琉球ゴールデンキングスの松脇圭志が直後の記者会見で発したコメントである。
1勝1敗で迎えた第3戦、琉球は71ー73で宇都宮ブレックスに惜敗。2シーズンぶりの戴冠にあと一歩届かなかった。それでも史上最多となる4シーズン連続のファイナル進出は紛れもない偉業であり、先勝されながらも優勝に限りなく近付いた戦いぶりは“西の強豪”という称号に違わぬものだった。
ただ、松脇が「どれだけの人が…」と言ったように、今季の琉球は決して前評判が高かった訳ではない。
今村佳太や牧隼利、田代直希ら主力が抜け、開幕時のロスターは異例の少なさだった11人のみ。岸本隆一、ジャック・クーリー、ヴィック・ローという核となる選手は残留したが、ルーキーの脇真大や練習生から契約を勝ち取った荒川颯、シーズン途中にB3から期限付き移籍した平良彰吾など経験の浅い選手も多く、優勝候補に挙げられることはほぼ皆無だった。
CS進出も難しいという評価や、「育成年」との見方もあったほどだ。
しかし、蓋を開けてみれば東アジアスーパーリーグ(EASL)4位、天皇杯初優勝、2季ぶりに西地区王者に返り咲いてのBリーグ準優勝。例年通り、もしくはそれ以上とも言えるような結果を残した。CSに至っては、エースガードの岸本が負傷離脱していたにも関わらず、である。
なぜ周囲の予想を上回る成績を記録することができたのかーー。

“最適解プラン”で修正も…「危機感が足りなかった」
史上初となる天皇杯との2冠達成は、目前まで迫っていた。
ファイナル第3戦。堅いディフェンスで流れをつかみ、前半を40-28と二桁リードで折り返した。第3クォーターからターンオーバーが増え、第4Q中盤には大黒柱のジャック・クーリーが退場したものの、62ー57とリードを保ったままオフィシャルタイムアウトを迎えた。その後も僅差で前を走り続けた。
しかし、残り約1分で悪夢が訪れる。
それまで3ポイントシュートの成功をそれぞれ1本ずつに抑えていた宇都宮の二大エース、D.J・ニュービルと比江島慎に連続で長距離砲を沈められ、土壇場で一転、追う立場に。最後は3点差の残り0.6秒でケヴェ・アルマが3本のフリースローを獲得したが、2本目を外し、わざとリングに当てた3本目もリバウンドからの得点にはつながらなかった。
12得点に加え、ディフェンスでの貢献も目立った松脇は悔しさを滲ませた。
「相手に流れが行った時にハドルを組むとか、そういう細かい部分で差が出てしまったと思います。『たられば』ですけど、もう少しあそこで声掛けをしていれば、こうしていれば、という悔いが残っています」

第1戦からリバウンドに強みを持つクーリーとアレックス・カークを含めた3ビッグのラインナップを多用し、最も警戒すべきニュービルには主にローがマッチアップしていた。ただ、第1戦でニュービルを起点としたボールムーブからの3ポイントシュートを抑えられなかったことを受け、第2戦からは松脇や小野寺祥太という日本人選手がつき、後半からはビッグマンが2人のみの時間帯を増やした。
機動力を重視したことで宇都宮の3ポイントシュートに対してローテーションが速くなり、オフェンスのスペーシングも改善。伊藤達哉も「ニュービル選手に日本人選手がつくことで相手も嫌がっていたので、うまくいく時間は多かったです」と振り返り、修正する上では最適解と言えるプランだっただろう。
それだけに、選手たちからは「勝ちゲームだった」(脇真大)という無念のコメントが多く聞かれた。第3戦の後半はターンオーバーが相手より二つ多い八つ。宇都宮もオフェンスをインサイド主体に切り替えて修正を図った中、最後まで耐え切ることができなかった。
ローとダブルキャプテンを務める小野寺は「3ポイントシュートをやられてはいけない中で、最後にビッグショットを決められてしまいました。コミュニケーションなどの部分で、チームとして少し危機感が足りなかったと感じています」と心境を吐露。「このチームで優勝したかったです」と繰り返した。

指揮官がシーズンを「大成功」と評する理由
一方で、桶谷HCは充実感も漂わせた。
「優勝するチームは一つしかないので悔しさはありますが、本当にシーズンを通して大成功だと思います。それぞれが持ち味を出して自分の役割を担い、みんなが成長してくれました。ここまで来れたのは、みんなのおかげです」
「脇はルーキーで、シーズン途中からは彰吾も入ってきました。今シーズンは怪我人が多い中でも若い選手たちが成長し、勝ちながらチームビルディングができたと思います。個だけが強くても、チームがまとまらないと力を発揮できないということをすごく感じさせられたシーズンでした。どのチームも、それをやりたくても簡単にはできない中、しっかりと体現したメンバーと一緒にバスケットができたことに感謝したいです」
できる限り多くの選手でローテーションし、経験の浅い選手にもチャンスを与えて成長を促す。選手の個性を生かしながらシーズン終盤で総合力の高いチームに仕上げる桶谷HCのコーチング哲学は、より成熟度を増してきたように見える。
ルーキーながらCSの全8試合で先発を務め、岸本不在の中で経験豊富とは言えないPGの大役を担った脇はCSで10.6得点3.8アシストを記録し、レギュラーシーズン新人賞を獲得。大舞台でも臆することなく、新たなチャレンジを続けられた要因に、支え合いながら全員で戦う琉球のチームカルチャーを挙げる。
「自分は若手で、ミスをしたら顔に出てしまうこともあったのですが、祥太さんやヴィックが『笑顔でやれ』『ヘッドダウンするな』といつも声を掛けてくれて、自分がやりやすいようにしてくれました。PGをやる上で不安もありましたが、隆一さんも細かくアドバイスをくれました。コーチ陣は選手一人ひとりの強みや、どうプレーしたいかを全部分かった上でチームの戦い方を作ってくれます」
CSを通してなかなか結果が出なかったが、ファイナルでもプレータイムをもらい、第2戦では3ポイントシュート3本を含む13得点を挙げて勝利の立役者となった荒川も感謝を口にした。
「(個々が成長できることは)もちろん選手それぞれが強いメンタリティーを持っていることもありますが、桶さんが作るチームは一人ひとりに役割があって、それを全員が全うすることで強くなっていきます。正しい準備をする者には、必ずチャンスを与えてくれる。だからこそ、みんなが自信を持ち、成長につながっていったのだと思います」

佐々宜央AHCの「入閣」でさらなる深み
一人ひとりがどのような個性を持ち、どんな選手像を描き、それらをいかに一つのチームとしてまとめ上げるか。選手たちのコメントからも分かるように、桶谷HCのコーチング、チーム作りは、選手とのコミュニケーションをどれだけ密にできるかが肝となる。
その意味で、選手、スタッフの双方と深いコミュニケーションを取ることができ、英語も堪能な佐々宜央アソシエイトヘッドコーチ(AHC)がコーチ陣に入閣したことは、今季の琉球にとって極めて大きな出来事だった。
盟友の桶谷HCは常々、「僕は、彼が世界一のアシスタントコーチだと思っています」と言う。ファイナル第3戦後の記者会見でも佐々AHCの名前を出し、チームにポジティブな影響を与えたことを明かした。
「今シーズンは選手たちの仲がすごく良かったです。佐々も来てくれたおかげで、それぞれのやることが明確になり、お互いを理解してくれるようになりました。いい形でコミュニケーションを取れるようになったことで、最後までいい雰囲気のまま、チームがバスケットをやり続けることができました」
これまで十人十色の様々なHCの元でACを担ってきた佐々AHCについて、桶谷HCはよく「出汁」と評する。若手の育成術やチーム内のコミュニケーションの活発化、豊富な戦術知識が凝縮された良質な出汁として、“桶谷味”にさらなる深みをもたらしたということか。
シーズン開幕前、佐々AHCは取材に対して「HCがやりやすい仕事環境を整えるのが僕らの仕事。桶さんが見たいバスケットボールの絵を見せてあげたいです」と強い決意を口にしていた。高いレベルで体現したと言っていいだろう。
その他にも、ACだけで森重貴裕、穂坂健祐、キース・リチャードソン、アンソニー・マクヘンリーの4氏が名を連ね、充実したスタッフ陣を揃えた琉球。選手を育成し、スカウティングの精度を高める上で大きな力になったはずだ。
連日13,000人超で埋め尽くされた横浜アリーナは、南国の離島県が本拠地にも関わらず、例年と同様に半分近くの客席を「ホワイト&ゴールド」が埋めた。選手、コーチ、そしてリーグ内でも屈指の熱狂ぶりで知られるファンを含めた「団結の力」は、年々増しているように見える。
どんなチームも、オフには選手の入れ替わりが付きものだ。それでも、強固なカルチャーに支えられた琉球の強さは、来シーズン以降も健在だろう。

(長嶺真輝)