
2シーズンぶりにBリーグ西地区を制し、3月の天皇杯初優勝以降は無敗と上げ潮に乗る琉球ゴールデンキングスに最大の試練が訪れた。
4月21日、生え抜き選手で琉球の象徴とも言える岸本隆一が「左第5中足骨骨折」の怪我を負い、近日中に出術することが発表された。全治期間は8〜12週間。5月に行われるチャンピオンシップ(CS)への出場はほぼ絶望的となった。
衝撃の報から2日後の23日に沖縄サントリーアリーナで行われた広島ドラゴンフライズとのホーム戦。前半こそ点を取り合う展開になったが、琉球は後半にディフェンス強度を上げ、モメンタムを作って103ー83で快勝した。
連勝を「15」に伸ばし、通算成績は43勝13敗。圧巻の勝負強さと豊富な経験を持つ司令塔の岸本が不在の中、出場した12人中11人が得点する全員バスケで勝利したことは、チーム、ファンの双方にとって意義のある白星となったはずだ。
中でも、3月に加入したばかりである19歳の崎濱秀斗はプロ初スタメンにも関わらず「新人らしからぬ」(桶谷大ヘッドコーチ)落ち着いたプレーでチーム最長の21分19秒コートに立ち、攻守で持ち味を発揮した。主にメンターの役割を担うのは脇真大。試合中に助言を送る場面も多かった。
気鋭のルーキー2人が、試練の渦中にあるチームにポジティブなエネルギーを注入する存在になっている。

目次
19歳・崎濱が初スタメンで躍動「隆一さんの分まで」
地鳴りのような歓声が沖縄サントリーアリーナを包んだ。
琉球の入場シーン。スポットライトに照らされた花道に、少し強張った表情の崎濱が姿を現すと、7,880人が詰め掛けた観客席がどっと沸いた。岸本と同じ沖縄出身PG。ファンの反応は、地元が生んだ未来のスターに対する期待感の大きさを示していた。
崎濱は福岡第一高校3年の時、岸本と同じ症状の怪我に苦しんだ。「背負ってるものは全然違いますが、怪我をしている時の気持ちは分かります」と話す。前日にスタメン出場が発表された時は「時が一瞬止まりました」と一気に緊張が増したという。それでも、強い決意でコートへ歩を進めた。
「岸本選手の分もやってやろうという気持ちでした」
初めのハイライトは第3Qの序盤だ。トップの位置からの鋭いドライブで守備網を切り裂き、ジャック・クーリーがクリアアウトしている間にレイアップシュートで初得点を決めた。それまで自らゴールを狙う場面が少なかった崎濱。ハーフタイムで脇から「アグレッシブにアタックに行け」と助言を受け、すぐに結果につなげた。
第4Q中盤には持ち味であるディフェンスで魅せる。ボールマンの寺嶋良に対して高い位置から激しいプレッシャーをかけ、後方からスティール。速攻につなげてケヴェ・アルマのダンクを演出した。
試合を通したスタッツは2得点4アシスト1リバウンド1スティール。際立って高い数字ではないが、安定したボール運びやパス捌きでゲームをコントロールし、出場している時間帯の得失点差を示す「+/−」は「+7」だった。
プロデビューから9試合目の出場で大役を任されたことを考えれば、及第点の活躍だろう。しかし、当の本人が最も強く意識したのは三つを記録したターンオーバーだ。
「イージーなターンオーバー三つはガードとして絶対にやってはいけないミスでした。『ルーキーだから』とか『試合慣れしてないから』とか、言い訳は探せばたくさん出てくると思いますが、そんなのは関係ありません。CSとかの大切な試合でやったら絶対に負けにつながるミスだったので、重く受け止めています」
試合後には、佐々宜央アソシエイトヘッドコーチとサブアリーナでワークアウトに汗を流した。反省点を洗い出して成長につなげるため、習慣になっているという。
「Bリーグを支配できるようなガードになりたい」「自分が学ぼうとしないとダメ。現状には全く満足していません」。どこまでも自らに厳しい19歳。貪欲に成長を求める姿勢からは、CSの舞台でもチームの力になるという覚悟の強さがうかがえた。

「ただ者じゃない」と評価する桶谷大HC
CSを目前にしたタイミングで岸本が離脱した中、誰が先発のポイントガードを務めるかは大きな注目ポイントの一つだった。チームに合流してからまだ1カ月ほどのルーキーを抜擢した理由は何だったのか。桶谷大HCに聞いた。
「(伊藤)達哉と(荒川)颯をスタートにしてもいいとは思いますが、達哉はゲームチェンジャーになれるし、ヴィック(ロー)がファーストユニットにいる中で、颯はセカンドユニットにいた方がいいという部分もありました。なので、秀斗がスタートに入った方がローテーションが回りやすくなるという考えでした」
岸本が離脱してから1試合目となった3日前の長崎ヴェルカ戦では荒川がメインのPGとしてスターティング5に名を連ねた。が、本職がシューティングガードである荒川はオフェンスで好調を維持しており、同じく得点を取る役割を担うローとは別のユニットで起用した方が互いの持ち味を発揮しやすい面はあるだろう。
長崎戦でベンチスタートだった崎濱が「+11」と安定したプレーを見せたことも、意思決定の要因になったという。
「チーム内の序列や信頼関係もある中で、前回の試合は必要なプロセスの一つだったと思っています。秀斗もそれなりにプレーができるという事をみんなが分かった中での今日だったので、昨日メンバーを発表した時は、みんなが『秀斗、大丈夫か』と彼をバックアップしようという雰囲気になってくれました」
広島のボールマンプレッシャーの強度がそこまで高くはなかったとはいえ、崎濱のパフォーマンスに対しては「天皇杯の後に入ってきて、スタートで出てチームのリズムを崩さずにプレーできるというのは『ただ者じゃない』と思います」と高く評価した。

脇「若い2人で沖縄バスケを盛り上げたい」
指揮官のコメントにあった崎濱の「バックアップ」という部分で、試合中に最も大きな存在感を示した選手が、同じくルーキーの脇だった。コート上で頻繁に声を掛け、助言を送っていた。
「秀斗もファンの皆さんの声援を最初から浴びるという経験はなかったので、メンタルの部分を僕がケアできたらと思っていました」と語り、こう続けた。
「仮にプレーセットを間違えたとしても止まると良くないので、その時は『次のセットに入っていい』という事を伝えました。最初の方は全然シュートを狙ってなかったので、後半に入る前に『どんどんアタックに行け』ということも言いました。僕が最初の頃は怖いもの知らずでやっていたので、秀斗もそうやってほしいと思っています」
若い力でチームを活気付けるべく、強い決意も示した。
「僕もまだ23歳ですけど、19歳の秀斗がこうやってプロの舞台で頑張っています。若い2人で、一緒に沖縄のバスケを盛り上げたいと思っています。僕もちょっとは経験があるので、そこはしっかり秀斗に伝えていきたいです」

「団結の力」でCSへ…役割を全うすることで“穴”を埋める
若手が躍動する一方で、平均で11.1得点3.5アシストを記録していた岸本が離脱した影響が大きいことに変わりはない。勝負を決めるクラッチシュートや安定したゲームメイクでチームをけん引していたため、試合のスタートやクロージング、苦しい時間帯にコートに立つ精神的支柱でもあった。
桶谷大HCは「隆一がいなくて、みんな少なからず『無念やな』という気持ちは持っていると思います」と選手たちの心中を推しはかる。ただ、チームが掲げる全員で戦う姿勢を変わらずに貫いたこの日の試合内容を念頭に、一体感の高まりも感じているようだ。
「だからこそ、『みんなで頑張ろうぜ』『隆一さんがいなくても自分たちが結果を残そうぜ』という雰囲気があります。本当に頼もしいなと思っています」
開幕時から岸本と一緒に先発でコートに立つことが多かった脇も、負傷の一報を聞いた時は「本当にショックでした」と振り返る。共にコートでCSを戦えない無念さ、悔しさ、歯痒さを力に変える。
「僕たちは『隆一さんのために絶対勝つんだ』という気持ちが高まっています。起こったことは仕方がない。最後は隆一さんも笑顔で終わってくれるようにしたいので、死に物狂いでCSのタイトルを獲りに行きたいなと思っています」
プレー面では岸本離脱による“穴”を埋めるというよりも、これまでと変わらずにそれぞれの役割を全うしていくという意識が強い。「隆一さんの穴は本当に大きいので、そこを誰かが埋めるのは難しい。ただ、一人ひとりが自分の役割に集中し、遂行できれば、おのずと隆一さんの穴は埋まってくると思います」と見通す。
広島戦では、琉球のベンチ裏の1階客席から「背番号14」が記された岸本のユニフォームがズラリと掲げられた。レギュラーシーズンは残り4試合。熱いファンと共に「団結の力」を強め、勢いを衰えさせることなくCSに突入していきたい。

(長嶺真輝)