「2つの悪夢」を晴らし、初の天皇杯優勝を成し遂げた琉球 復活した“大型ルーキー”と“シンデレラボーイ”が原動力に
天皇杯で初優勝を果たした琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 第100回の節目となる天皇杯全日本選手権は3月15日、東京の国立代々木競技場第一体育館で決勝を行い、琉球ゴールデンキングスが60ー49でアルバルク東京を破り、初優勝を飾った。ロースコアながら、リバウンド争いとディフェンスで激しいぶつかり合いとなった頂上決戦は、詰め掛けた10,009人の観衆を大いに沸かせた。

 3年連続での決勝進出となった琉球は、昨年まで2年連続で千葉ジェッツに敗れていただけに、遂に大願成就となった。1921年に始まり、日本バスケの歴史と伝統が詰め込まれた天皇杯が初めて海を越え、沖縄へ渡る。

 大会MVPには10得点15リバウンド2スティール1ブロックを記録したジャック・クーリーが輝いた。ベスト5は琉球からクーリー、アレックス・カーク脇真大、A東京からテーブス海安藤周人が選出された。5人とも初受賞となる。

「ツインタワー」でリバウンド圧倒 昨年の“大敗”乗り越える

 見事に「三度目の正直」を果たした。

 ハーフコートを越えたあたりで、ボールを持つ岸本隆一がふっとドリブルに込める力を抜いた。後方ではヴィック・ローが両手を突き上げてピョンピョンと飛び跳ね、ジャック・クーリーが吠えながら抱き付いている。

 客席の半分をホワイト&ゴールドに埋め尽くしたファンは総立ちとなり、沖縄を象徴する指笛を鳴らしたり、「GOGOキングス!」コールを叫んだり。数々の名勝負が繰り広げられてきた国立代々木競技場第一体育館に「琉球の風」が吹き荒れた。

 直後のインタビューで、憑き物が落ちたような柔らかい表情を浮かべた桶谷大HCが、こう言った。

 「ほっとしてますよ。去年はここで惨敗してしまったので。1年越しであの悪夢が晴れて、ほっとしています」

インタビューに答える桶谷大HC©Basketball News 2for1

 昨年の決勝では千葉Jを相手にディフェンスが崩壊し、69ー117で歴史的な大敗を喫した琉球。最大の武器であるリバウンドでも大きく上回られ、第3Q途中で試合が決するような展開に。試合後会見で、桶谷HCが怒気を込めて「めちゃくちゃ恥ずかしいです」と口にしたほど、正に悪夢のような40分間だった。

 しかし、今回は全く違った。

 スタートからクーリーとカークという重量級のツインタワーがコートに立つと、同じくリバウンドに強みを持つA東京を相手にインサイドを制圧。前半だけで32本対19本という大差を付け、点数にもその差がそのまま反映されたように31ー24とリードして折り返した。

 第3Q終盤には、オフェンスが停滞して一時1点差まで詰め寄られたが、制空権は譲らず。試合を通し、カークとクーリーが二人合わせて25本ものリバウンドを掴んだほか、他の日本人選手も飛び込む意識を維持し、ポゼッションを増やして最後まで逆転を許さなかった。

 センター2人が共にコートに立つ「ツインタワー」のラインナップは当然スペーシングが難しくなるため、これまでオフェンスが停滞することも多かった。しかし、今回はハイローでゴール下を突いたり、逆に外に出たカークがミドルジャンパーを沈めたりと、お互いのストロングポイントを強調し合えていた印象だ。クリアアウトにより、ローがドライブする道筋も作れていた。

 連係の出来を問うと、2人とも好感触を口にした。

クーリー「成功の鍵の一つは、コーチが私とアレックスを信用して一緒に使ってくれたことだと思います。アレックスは万能なので、ピック&ロールもシュートもできる。バラエティーに富んだコンビネーションが2人でできることは、相手にとっても非常に脅威になったと思います」

カーク「対戦相手によっては、私達のプレースタイルに対してスローダウンさせて攻守にリバウンドを取り、優勢に戦おうとします。しかし、ジャックと一緒にリバウンドをしっかり勝ち取ることによってそれを逆手に取れました。とても良い戦い方ができたと思っています」

 空中戦を制して相手のポゼッションを減らしたほか、最後までディフェンスの強度が落ちることはなく、失点はわずか49点。A東京のお家芸とも言えるピック&ロールからのボールムーブに対し、シュートチェックに行く度合いのメリハリを付けて対応した。

 相手こそ違えど、昨年の屈辱を存分に晴らす結果となった。

笑顔を見せるジャック・クーリー©Basketball News 2for1

記者の質問に答えるアレックス・カーク©Basketball News 2for1

「我慢」と「ハッスル」が生んだ小野寺の3Pシュート

 琉球にとっての「悪夢」は、直近の1週間でもあった。東アジアスーパーリーグ(EASL)・ファイナル4での2連敗と、3日前の島根スサノオマジック戦での敗北だ。特にEASLの3位決定戦では6点をリードしていた第4Q残り1分31秒から劇的な逆転負け。さらに島根戦でも5点を先行していた第4Q残り1分38秒から追い付かれて延長戦に持ち込まれ、競り負けた。

 いずれもクロージングの時間帯にオフェンスが停滞し、その間にビッグショットを決められる、という流れだった。この日の決勝も終盤にじわじわと追い上げられ、第4Q残り1分50秒で4点差まで詰め寄られた。「またか…」と不安が脳裏をよぎった人もいただろう。

 しかし、ここでも今回の琉球は違った。

 タイムアウト明けでプレー再開。ディフェンスを崩し切れていない中でヴィック・ローがエルボージャンパーを放つが、エアボールに。しかし、カークがダイブしてボールを残すと、左コーナーでボールを受けた小野寺祥太が迷わず3Pシュートを放ち、ショットクロックぎりぎりでゴールを射抜いた。

 「無我夢中だった」と振り返る小野寺。続く言葉に「らしさ」が見えた。

 「これは僕の考えですが、バスケットの流れは誰かがハッスルした時に点数につながると思っています。アレックスがボールを残してくれて、思い切って打ったことがいい結果になったと思います」

 続くオフェンスでも岸本がテーブス海との1対1からスクープレイアップをねじ込み、勝負を決定付けた。

 最近の試合でうまくクロージングができないことに対し、悔しさを滲ませることもあった桶谷HCは、勝ち切れた要因に「我慢」を挙げる。

 「どう転んでもおかしくないゲームでしたが、選手たちがやるべきことやり続けてくれました。だからこそ、風が吹いた時に自分たちがいいリズムになる。(第3Qの最後の)ヴィックの3Pシュートだったり、祥太の最後のコーナー3Pシュートだったり、ああいうビッグショットが入るのは、みんなが我慢強くやってくれたからそこにつなげられたのだと思います」

ビッグショットを決めた小野寺祥太©Basketball News 2for1

“シンデレラボーイ”平良彰吾「信じられないことが…」

 もう一つ、勝因として見逃せないのが「Xファクター」の活躍だ。

 まずは今シーズン序盤にB3横浜エクセレンスから期限付き移籍した平良彰吾だ。どちらも激しいディフェンスを仕掛けてロースコアの重たい展開が続く中、第2Qに3Pシュートを決め、さらにミドルジャンパーも一本ヒット。11分22秒の出場でターンオーバーはゼロという安定したゲームコントロールで、見事に岸本のバックアップガードを務めた。

 B3からチャンスを掴み、日本一の座まで駆け上がってしまった“シンデレラボーイ”は、自身も驚いたような表情で優勝の受け止めを語った。

 「これまでもずっと言っていますが、信じられないことが起きていて、本当にありがたいと思っています。ありがたいチャンスをもらえて、その中で優勝という形で終えることができました。本当に、本当にうれしいです」

 最大の持ち味であるディフェンスでもハードワークを続け、終盤には足が攣(つ)っていたという。それでも自らの役割を全うし、自身のプレーに及第点を付ける。

 「チームのためにいいプレーをして、いい流れが持ってこられるように、自分がやんなきゃいけないと毎日思っています。その中で、ちょっとはいい流れを作れたかなと思っているので、良かったです」

 それでも「もっと改善しないといけない。満足しちゃいけないと思っています」と自らに言い聞かせる平良。今回の経験が自信となり、飛躍的な成長につながるはずだ。

Xファクターとなった平良彰吾©Basketball News 2for1

EASLの不調を吹き飛ばした脇真大「気持ちを作ってきた」

 活躍した選手として取り上げるもう一人は「Xファクター」というよりも、「復活した」と言う方が正しいだろうか。

 ルーキーながら、既に琉球の主力として定着している脇である。ベスト5に選出され、名前を呼ばれた瞬間は「『僕?』と思いました(笑)」と言うが、間違いなく存在感はあった。

 まだ3Pシュートの成功率が低いため、外でボールをもらった時は相手に距離を空けられることも多いが、ピックを使ったドライブやファストブレイクで持ち味を随所に発揮。琉球の日本人の中で最高身長(193cm)の選手として、ディフェンスでも体も張り続けた。

 これらのプレーは「いつもの」脇だが、EASLのファイナル4からはその持ち味が影を潜めていた。大一番での固さもあったのか、「自分もどうしたらいいのか分からない時期もありました」と吐露する。それでも悔しい経験を経て、本来の姿を取り戻した。

 「桶さん(桶谷HC)からは『アグレッシブにやれ』『いつもやっているプレーをしっかりやれば大丈夫』と言ってくれていたので、ディフェンスからのトランジションオフェンスとかにつなげることができました。僕も天皇杯に向けて気持ちを作ってきたので、こうやって勝利できて良かったです」

 23歳の若さで日本一の栄誉を勝ち取り、ベスト5まで獲得してしまったルーキーはこれまでに何人いたのだろうか。想像するに、多くはないだろう。平良と同様に、この成功体験が脇をさらに大きくすることは間違いない。

ゴールネットをカットする脇真大©Basketball News 2for1

「ゴールではない」苦しみと栄光を糧に、Bリーグへ

 EASLでの痛恨の2連敗から始まり、天皇杯初優勝で終わるジェットコースターのような怒とうの1週間を過ごした琉球。チーム状態としても天と地ほどの差を短期間で経験し、自分たちをコントロールする上での学びは多かったはずだ。

 Bリーグでは現在、28勝13敗で西地区首位につけるが、2位島根が1ゲーム差まで迫っており、予断を許さない。19日から再びハードなスケジュールに突入していくのを前に、キャプテンの一人である小野寺は言った。

 「僕たちは天皇杯で優勝しましたけど、ここはゴールではないので、またレギュラーシーズンで一丸となって戦っていけるように頑張っていきたいです」

 昨年の10月から三つの大会を並行して戦ってきたが、残すはBリーグのみ。EASLと天皇杯で苦しみと栄光を味わった琉球が、さらなる進化を遂げることができるのか。目が離せない。

優勝トロフィーを掲げる琉球の選手たち©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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