琉球が3年連続で天皇杯ファイナルへ、Bリーグ首位の三遠を撃破 勝因は8,000人超の強烈“ディフェンス”と負け越した「直近5試合」にあり
三遠ネオフェニックス戦でプレーする琉球ゴールデンキングスの岸本隆一(左)©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 第100回天皇杯全日本選手権は2月5日、セミファイナル2試合を行った。

 琉球ゴールデンキングス三遠ネオフェニックスは沖縄アリーナで行われ、ホームの大声援を背に戦った琉球が最大13点差を跳ね返し、80ー67で勝利した。桶谷大HCは体調不良で不在だったが、佐々宜央アソシエイトヘッドコーチ(AHC)を中心にコーチ陣がチームを鼓舞した。琉球は3年連続のファイナル進出となり、悲願の初優勝を目指す。

 アルバルク東京広島ドラゴンフライズは広島県のエフピコアリーナふくやまで実施。広島の5点リードで前半を折り返したが、第3クォーターの失点をわずか10点に抑えたA東京が後半で流れをつかみ、85ー75で制した。3Pシュート5本を沈めた安藤周人を筆頭に、チーム全体の3Pシュート成功率が52.4%(21本中11本成功)に達した。A東京のファイナル進出は2014年以来、11年ぶりとなる。

 ファイナルは3月15日午後3時から、東京の国立競技場第一体育館で行われる。

 セミファイナルは2戦とも激戦必死だったが、特にBリーグで西地区首位の琉球と中地区首位の三遠のカードは、“頂上決戦”ということもあり注目の一戦だった。

 目下15連勝中で30勝4敗の三遠は現在、Bリーグ全体で勝率トップ。消化試合が1試合少ないのにも関わらず、唯一30勝の大台に乗っている。一方の琉球は25勝10敗で、オールスターゲームブレイク明けの5試合は2勝3敗と負け越していた。

 三遠に分があると予想した人も多かったのではないか。琉球が勝ち切った要因は何だったのか…。

沖縄アリーナが“特大ブーイング”で後押し 三遠のFT成功率61.1%

 第3Qの残り約3分、37ー50。三遠がこの試合最大のリードを奪った。

 タイムアウト明け、ケヴェ・アルマが3Pシュートを決めて10点差とすると、沖縄アリーナを埋めた8,000人超による声援の“火力”が一気に上がった。コートが凄まじい音量のディフェンスコールに包まれる中、三遠の3Pシュートがリングに弾かれる。ディフェンスリバウンドを掴んだヴィック・ローが駆け上がり、そのままミドルジャンパーを沈めて一桁点差とすると、またも大歓声が湧き起こった。

 追い上げムードの中、ディフェンスの強度をさらに上げた琉球。オフェンスでは、スコアリングモードに入ったローを中心を得点を重ねていく。このクォーターの残り1分37秒、左コーナーからローが3Pシュートを決め、56ー55と遂に逆転に成功した。

 この直後の三遠のポゼッションで、ホームの琉球ファンが再び大きな存在感を示す。

 ゴール下でファウルをもらったヤンテ・メイテンがフリースローラインに立つ。すると、耳をつんざくような特大ブーイングがメイテンに降り注いだ。ゴール裏では、この日不在だった桶谷HCの似顔絵が描かれたボードを激しく揺らす。結果、メイテンは2本とも失敗。第4Qでも、三遠は勝負どころのフリースローを外す場面があり、琉球が終盤で引き離す要因の一つとなった。

 三遠は、Bリーグにおけるフリースロー成功率が24チーム中最下位の67.5%と、もともと得意ではない。が、この日は61.1%(18本中11本)とそれをさらに下回った。沖縄アリーナが誇る8,000人超の強烈な“ディフェンス”が「落とさせた」という側面は間違いなくあるだろう。

 桶谷HCに代わり、試合後の記者会見に出席した佐々AHCは「やっぱり第3クォーターの沖縄アリーナの応援が凄かったです。完全に三遠を飲み込んでいた。ファンを含め、キングスファミリーが一丸で掴み取れた一勝だと思っています」とホームの声援に感謝を示した。

 三遠の大野篤史HCのコメントからも、沖縄アリーナの大歓声がいかに勝負に大きな影響を与えたかが分かる。

 「直近のゲームからしっかりゲームプランを作りましたが、ホームコートアドバンテージがかなり効いていたと思います。それは選手に聞かないと分かりませんが、自分は見ててそう感じました。本当に素晴らしいアリーナだという空気感がありました。こういうゲームでも、勝ち行く姿勢をもっと見せられるようなチームをつくっていかないといけないと思っています」

三遠のフリースロー時に督大ブーイングでディフェンスをする琉球ファン©Basketball News 2for1

強豪続きで「リバウンド」と「ディフェンス」の強度取り戻す

 プレー面で言えば、最も大きな勝因はリバウンドだろう。

 Bリーグにおいて、現在の平均リバウンド数は琉球が43.9本でトップ、三遠が40.6本でそれに続く。その意味でも“頂上決戦”だったが、この試合では56本対40本で琉球に軍配が上がった。速い展開でポゼッションを増やし、リーグNo.1の攻撃力を誇る三遠に対し、琉球は空中戦を制してオフェンスの流れを断絶した。

 リバウンドは琉球にとって最大の武器であることは周知のことだが、宇都宮ブレックスとのホーム2連戦、大阪エヴェッサとの水曜ゲーム、アルバルク東京とのアウェー2連戦という強豪とのカードが続いた直近の5試合では、宇都宮との1戦目と大阪戦はリバウンド数で相手を下回った。A東京との初戦も両チームが同数で、最近はなかなか優位性を発揮できないでいた。

 しかし、A東京との2戦目からはその強みは再び際立つようになっている。ジャック・クーリーやヴィック・ローを中心とした外国籍選手の活躍はもちろんだが、日本人選手のリバウンドに対する意識の高まりも影響しているようだ。

 A東京との2戦目、今回の三遠戦と、続けて6本のリバウンドを奪取した脇真大が言う。

 「大阪戦と、A東京との1戦目が終わった後に、コーチ陣から『日本人選手のリバウンドをもうちょっと頑張ってほしい』という話がありました。日本人選手の中では僕が一番大きい(193cm)ので、もっとファイトしないといけない。仮にボールが取れなくても、ボックスアウトを剥がしに行くことでチャンスが生まれます。ボールが転がってたら取りに行ける状態のところまでは行こうと思ってるので、リバウンドでもチャンスはずっと狙っています」

 強豪続きの中で、琉球が取り戻したもう一つの強みがディフェンスだ。

 現在、琉球の平均失点は76.7点。Bリーグで9番目に少ない数字だが、最近は失点が80〜100点に上る試合が多く、プレー強度の波がある状態が続いていた。ただ、直近のA東京との2戦目は序盤からエナジーが高く、相手ハンドラーにつくガード、フォワード陣、その後ろのビッグマンともにより高い位置でプレッシャーをかけることができ、今シーズン最少の58失点に抑えた。

 その3日後に行われた天皇杯準決勝にも好感触が残っていたに違いない。以下も脇のコメントである。

 「ディフェンスのインテンシティの高さは、絶対にぶらしたらだめなチームだと思っています。A東京との1戦目はそれができませんでしたが、2戦目でしっかり修正して、天皇杯で強い三遠に対してもしっかり戦えました。僕たち自身、A東京との2戦目からさらに自信が付いたと思っています」

 最近は、特に連戦の1戦目で強度を上げ切れない試合も多かったが、一発勝負の天皇杯において、Bリーグにおける平均得点が92.8点でトップの三遠をわずか67点に抑えた。懸念材料を払拭できた側面もあるだろう。

 ゲームハイの31得点に加え、11リバウンド2ブロックと攻守で躍動したキャプテンのローは、全員で課題を共有した上で改善に取り組んだことを明かす。

 「今シーズンの自分たちのテーマとして、強いチームと対戦する時、最初の試合でプレーが平坦になってしまうことがあります。それはA東京との連戦で顕著でした。チームで話し合い、より団結して戦う必要があることを確認しました。次のサンロッカーズ渋谷との連戦も、自分たちがファーストパンチを打てるか、いいテストになると思います。キングスは毎年チャンピオンシップに出場しているチームなので、どのチームも自分たちを倒すために全力を尽くしてきます。それに負けず、前向きに進み、次の試合でも全力を尽くしていきます」

 2月のバイウイークを終えた後、3月は7〜9日にマカオで東アジアスーパーリーグ(EASL)の「ファイナル4」を戦い、同15日には天皇杯決勝を迎える琉球。その合間や前後にはBリーグ西地区で上位を争う島根スサノオマジック広島ドラゴンフライズ京都ハンナリーズなどとの試合もある。強豪との大一番が続くハードなスケジュールに突入する前に、プレー強度のスタンダードを引き上げられことは、チームにとって大きな収穫になったはずだ。

3年連続で天皇杯決勝に進出した琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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