ブースターからの「おかえり」に涙 タッカー・ヘイモンド「思わず感情的に」 信州ブレイブウォリアーズ“2年越しの初出場”で連勝貢献
信州ブレイブウォリアーズに加入したタッカー・ヘイモンド(中央)©Basketball News 2for1
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 Bリーグ2部(B2)は4日と5日の両日、各地でレギュラーシーズンの第16節が行われ、東地区・信州ブレイブウォリアーズはホームのホワイトリングで同地区の福島ファイヤーボンズと対戦。第1戦を99-72、第2戦を93-76で勝利し、2025年最初の対戦を連勝で終えた。

 信州は主力のペリン・ビュフォード石川海斗生原秀将を欠く中、練習生から契約をつかんだ山崎玲緒や2年目のエリエット・ドンリーらの活躍で連勝を伸ばしており、チーム全体の成長を感じさせる。

 福島戦は既存選手の活躍に加え、今月3日に契約したばかりの新加入選手であるタッカー・ヘイモンドの活躍が光った。

主力不在の緊急事態で白羽の矢 2戦で33得点12アシスト

 アメリカ出身のヘイモンドは、195センチ97キロのガード兼フォワードであり、日本ではB3豊田合成スコーピオンズでキャリアをスタートさせた。B3ヴィアティン三重に所属した2022-23シーズンには得点王を獲得したほか、2023-24シーズンにはB2愛媛オレンジバイキングスで平均18.8得点を記録しており、スコアラーとしての能力は折り紙つきだ。

 今季は3x3(3人制プロバスケ)の品川CCワイルドキャッツに所属しながら、2024年8月から10月まで熊本ヴォルターズの練習生として活動していたヘイモンド。その後はアメリカに帰国し、プレーする場所を探していた。信州はB1に所属していた2023-24シーズンの3月にヘイモンドと契約を結んだが、当時は契約後すぐにインジュアリーリスト入りが発表され、シーズン中にコートに立つことはなかった。

そこからおよそ10か月が経過した2025年1月。ペリン・ビュフォードのインジュアリーリスト入りに伴い、ヘイモンドに再び白羽の矢が立った。

 ヘイモンド獲得について勝久マイケルヘッドコーチ(HC)は、「短期の契約で来て、いきなり自分のプレーができるかもそうですけど、チームの勝利に貢献できるか。彼はすぐにチームのためにやってくれると信じていましたし、今怪我をしていない選手たちのポジションを埋めるためには、やっぱりポイントガードができる選手が欲しかった。そういういろんな面でパーフェクトだと思った」と経緯を説明する。

 実は2023-24シーズンに信州と契約した際にも、勝久HCはヘイモンドに「出場機会があるかどうかわからない」と話していたという。それでもヘイモンドは「B1でプレーできる可能性があるなら」と信州入りを決意し、コート外でチームを支えていた。そういった姿を見ていた指揮官だからこそ、ヘイモンドを信頼し、起用に至ったのだろう。

試合前にウォームアップするヘイモンド©Basketball News 2for1

 勝久HCからの信頼に、いきなり応えてみせる。第1戦、急造のユニフォームに身を通したヘイモンドは、22分の出場で17得点5リバウンド5アシストを記録。第2戦でも23分の出場で16得点5リバウンド7アシストと素晴らしいパフォーマンスを披露し、2連勝に大きく貢献した。

 Bリーグのコートに立つのは約1年ぶりで、なおかつ1月1日にチームに合流したばかりながら、圧巻のプレーを披露したヘイモンド。初出場からすぐに活躍できた理由については、昨季の信州での経験が生きていたという。ヘイモンドは話す。

 「チームメイトが本当に自分のことを理解してくれて、そしてコーチとチームメイト、スタッフ全員がプレーしやすい環境をつくってくれたと思っています。昨季、ここにいたので覚えていることも多かったですし、信州スタイルのバスケットボールをすごく楽しんでいます。このチームに来られて、そしてこのプレーをできたことを嬉しく思っています」

 信州でのプレーが叶わなかった昨季が終わってからは「毎日ハードにワークアウトをして、その後、試合に出ることはできなくても、常に準備をしてきた」という。「そういったことが謙虚な経験だったと思っています。それが自分のマインドセットにも影響を与えましたし、毎日が特別だということも、そういう感情的な経験を感じさせてくれました。その自分のマインドセットを変えてくれた経験は、今後一生変わらないものだと思っています。そして再びプレーできた最初の場所がこの信州だったことも、とてもパーフェクトだと思います」

福島との第1戦ではいきなり17得点を記録した©Basketball News 2for1

勝久HC「スマートな選手」  短期契約でもチームに好影響

 チーム編成も担う勝久HCによると、ヘイモンドとの契約はビュフォードがロスターに復帰するまでの短期契約であるとのこと。しかし、ヘイモンドの一時的な加入も信州の成長に間違いなくプラスに働くだろう。

 得点力やプレーメイキング能力はもちろんだが、特筆すべき点はディフェンスの遂行力だ。勝久HCのシステムは緻密であり、ポジショニングなど些細なズレも妥協しないことで有名で、その感覚を身につけるにはどんなベテランであろうと最初は苦労する。

 その点、ヘイモンドは昨季にも指揮官の下でプレーしており、選手の大半はともにプレーしたことがある。だからこそチームの頭脳であるPGの役割を担い、味方を生かすアシストやチームディフェンスを見事に遂行することができたのだ。

 勝久HCは「(福島戦までの)この3日間は、我々が今やろうとしていることを(ヘイモンドに)覚えさせることを中心にやってきました」とヘイモンド合流後のチームを振り返る。

 「合流前の電話では『いいバランスを取らないといけない』ということも話し、頭に詰め込み過ぎてもよくない。でも、短期間で覚えなきゃいけないことはある。本人がアグレッシブにクリアなマインドでプレーしながら、チームで動くために分かっていないといけないことを伝える。このバランスを3日間でお互い上手く取れたかなと思う」

 そのうえで、ヘイモンドの活躍には最大級の賛辞を送った。

 「元々スマートな選手だと思いますし、ファンダメンタルがありますし、プロフェッショナル。練習でもウォークスルーでも、ビデオミーティングでも一つひとつ集中してディテールを大事にして取り組む選手。そういうプロフェッショナルな選手だからこそこういう結果に繋がったと思う」

勝久マイケルHC(右)と話すヘイモンド ©Basketball News 2for1

5連勝で締めた前半戦 後半戦はチームの成長が鍵に

 第1戦で目覚ましい活躍を見せたヘイモンドは特別賞を受賞し、試合後にはブースターに向けてマイクを握った。

 「みなさんこんにちは。ただいま。今日は応援ありがとうございました。信州に帰って来れて嬉しく思います」

 会場からは「おかえり」の声がこだました。

 試合後の会見でその場面について聞かれたヘイモンドは、言葉を詰まらせながらファンへの感謝を口にした。

 「思わず感情的にもなりましたし、ウェルカムな雰囲気をファンの方たちがつくってくれたことに対して感謝しています。家族と一緒に日本で過ごす中で、初めて息子の前でプレーすることもできて、とても素晴らしい経験でした」

 1年間プレーできなかった悔しさや、それでも腐らずに努力を続けてきた真摯な姿勢。そして、チャンスをつかみ、見事に結果へと結びつけたヘイモンド。約20分の会見を終えてたとき、記者たちからは拍手が沸き起こった。

 主力選手を欠きながらも、ヘイモンドの活躍もあり、連勝を「5」に伸ばした信州ブレイブウォリアーズ。前半戦30試合を消化して、20勝10敗で東地区3位につけており、プレーオフ進出に向けては負けられない戦いが続く。ヘイモンドの加入を勢いに変え、勝利を重ねていくことができるか。勝負の後半戦でも、優勝にふさわしいチームへと日々成長を目指す。

第1戦後、特別賞を受賞したヘイモンド(中央)©Basketball News 2for1

(芋川史貴)

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