遂に「PG3人体制」となった琉球ゴールデンキングス、劇的に“課題”が改善して西首位堅持 今後の伸びしろは…
西地区首位をキープした琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 Bリーグ1部・西地区1位の琉球ゴールデンキングスは12月28、29の両日、同地区の京都ハンナリーズと沖縄アリーナで2連戦を行い、93ー71、90ー80でいずれも勝利した。連勝を3に伸ばし、通算成績は19勝7敗。同地区2位の島根スサノオマジックと2ゲーム差で首位を堅持している。

 今シーズンが開幕してから3カ月。ケガ人や体調不良が相次ぎ、満身創痍の状態で戦ってきた琉球にとっては、フルメンバーで戦うのは開幕戦以来のこととなった。

 京都戦で見えた選手層に厚みが増したことによる変化、そして今後の伸びしろとは…。

セカンドユニットで流れ掴む 荒川颯が3Pシュート連発

 初戦は京都に先行を許し、開始約6分で7点差をつけられた。しかし荒川颯伊藤達哉ケヴェ・アルマアレックス・カークらセカンドユニットがコートに入ると、流れを変わる。高い強度のディフェンスで攻勢に転じ、第1Q終盤で逆転すると、そこから徐々に点差を広げていった。

 後半はリードが最大25点まで拡大。最終盤にはユース育成特別枠でトップチームに帯同しているキングスU18キャプテンの佐取龍之介もレイアップでスコアし、快勝した。

 前半だけで3Pシュート3本を含む11得点を挙げ、追い上げをけん引した荒川は「試合前からディフェンスの強度を上げていこうと意識して試合に挑みました。勝負どころや序盤の攻守では結果を出せたと思います。シーズン序盤に経験したガードとしてのプレーが、自信を与えてくれただけでなく、プレーの幅も広げてくれました」と振り返った。

 2戦目も序盤から追い掛ける展開となったが、第1Qの終盤にセカンドユニットが入ると、またも勢いが増す。1戦目のデジャブを見るかのように激しいディフェンスでモメンタムをつかみ、荒川が2本の3Pシュートを沈めてリードした。後半に詰め寄られる時間帯こそあったが、最後までリバウンドの強みを生かし、追い付かれることなく勝ち切った。

 これで貯金を12とした琉球。開幕戦で新加入PGの伊藤がいきなり負傷して長期離脱となり、その後もヴィック・ローやアルマ、松脇圭志ら主力が負傷や体調不良で代わるがわる欠場した。12月に入って伊藤が復帰したが、今度はチームの大黒柱である岸本隆一平良彰吾のPG2人が離脱し、難しいやり繰りが続いた。

 その中で地区首位を走っていることは、地力の高さを証明していると言えるだろう。さらに振り返れば、オフには今村佳太牧隼利アレン・ダーラムら多くの主力が退団したことで戦力が不透明な部分もあったため、現状では大方の予想を覆す好成績とも言えるかもしれない。

 2024年最後の試合で、年内の振り返りを聞かれた桶谷大HC「あれだけケガ人がいて、みんなよくやってくれました。(フルメンバーであれば)自分の役割ではない役割をみんながマルチにやらないといけない中、西地区1位をキープできた。これはプラスに考えていいと思いますね」と語り、チームを高く評価した。

桶谷大HCはチームの現状に手ごたえを感じている©Basketball News 2for1

PGの厚み増し、荒川らが躍動 脇やローの負担減も

 「マルチな役割」をこなしてきた例として、最も分かりやすいのが荒川だ。

 これまでの全26試合に全て出場した選手は4人のみで、その一人である。ナチュラルポジションはSGだが、伊藤、岸本、平良のPG3人がいずれも欠場する時期があった中、ボールを運んだり、セットオフェンスでコールをしたりする役割も担ってきた。慣れない部分もあってターンオーバーも多かったが、厳しい期間にチームを支えた功労者だ。

 荒川本人も「試練」と口にしていた試行錯誤の時期を経て、最近の試合では躍動が続く。キャリアハイタイの11得点を決めた京都との1戦目はターンオーバーゼロ。「+/−」(その選手が出場している時間帯の得失点差)も「+20」に達した。得点を狙うこととハードなディフェンスという本来の役割により集中できているように見える。

 桶谷HCの評価も高い。

 「颯に関しては気持ちが楽になったのかなと思います。PGは自分でコールをして、状況が変わる重大な役割を担います。それをやってきた中で、今は2番(SG)で点を取りに行っていい状況になったので、落ち着いてプレーができているのではないでしょうか。(2戦目の)最後ではオフェンスリバウンドも取りに行きました。あれは颯の課題だったんです。でも、あそこで取れたことは、また一つ大きな収穫かなと思います」

 荒川と同じく、これまでフル出場で、ボール運びを担うこともあったルーキーの脇真大「達哉さんや隆一さんがケガをした時は僕もボールを運ばないといけない時がありました。それ自体は嫌ではありませんが、まだ得意な方ではないので、みんなが帰ってきてからはしっかり運んでくれます。ヴィックの負担も減らせるので、改めて素晴らしいガード陣だと思います」と語り、やりやすさを感じているようだった。実際、京都との2戦目は「+/−」がチームトップの「+15」となり、脇も安定感が増してきている。

 バスケットボールにおいて、チームの司令塔を担うPGは最も頭を使うポジションと言っても過言ではない。攻撃の制限時間が24秒で、目まぐるしく攻守が入れ替わる競技性も相まって、相手のプレッシャーを受けながらゲームをコントロールするためには優れたスキルや経験が求められる。その「負担」が軽減されることで、より自身の役割に集中ができ、パフォーマンスが向上するというのは自然な流れだろう。

チームの中で成長を見せている荒川颯©Basketball News 2for1

ターンオーバーの激減と強度の向上

 ターンオーバーの多さについては荒川だけの課題だった訳ではない。

 琉球の平均ターンオーバー数はリーグで11番目に少ない12.3回。この数字自体は際立って多いというわけではないが、12月に入ってからは2試合で今シーズン最多の19回に達し、PG不足の影響が如実に表れていた。脇やアルマら若手も多い中、開幕前からチーム全体の課題にも挙げられていた。

 しかし、京都との連戦はボール運びやコントロールが安定したことで、目に見えて改善した。初戦は8回で10試合ぶりに一桁に抑え、さらに2戦目は今シーズン最少の7回のみ。流れが断絶することが減り、桶谷HCはオフェンスのリズムに変化が生まれていると見る。

 「PGが揃っていることで、ボールを運べる選手がちゃんといて、セットアップできるから流れがいいオフェンスができる。トランジションの中でもオフェンスを組み立てられるから、チームにいいリズムをもたらしています」

 もう一つ、フルメンバーになったことによる変化がある。

 指揮官が「体力を温存するプレーヤーが少なくなった」と言うように、全体のプレー強度が上がったことだ。平均得点が81.5点でリーグ6位につける京都を1戦目で70点に抑えたことは証左の一つだろう。2戦ともセカンドユニットが投入と同時に激しいディフェンスを仕掛け、流れを変えたことも厚みが増したことによる好影響がうかがえた。

 この強度の向上については、連戦前からの伏線があったようだ。12月25日にあった東アジアスーパーリーグ(EASL)のホーム戦後、試合のビデオを見ながら桶谷HCが「自分たちはこれくらいのインテンシティ(強度)でしかプレーできてないよ」と不足感を指摘したという。それを踏まえ、高評価と課題を口にした。

 「奮起する選手がいて、松脇などは一番理解してやってくれました。みんながヘルシー(健康)なので、外国人選手のところももっとできると思っています。例えばジャックはずっと休み無しでやってきたから『しょうがないな』と思う反面、ふわっとした瞬間が出てくるところがあります。その辺りをリフレッシュして、新年からインテンシティの高いバスケットできるようにしたいです」

チームの主力として活躍する脇真大(中央)©Basketball News 2for1

上位陣との対戦多い後半戦 桶谷HC「スタンダードを上げていく」

 指揮官のコメントにあった「ふわっとした」という部分。漠然とした言葉ではあるが、集中を欠いたプレーや遂行力の低さを表現しているのだろう。これはクーリーに限らず、琉球がリードを広げた時に散見される現象だ。中盤に二桁点差を付けても、終盤にかけてリードが溶けていく展開はよく見られる。

 京都との2戦目も第3Q中盤に最大22点をリードしながら、第4Q終盤には一時8点差まで詰め寄られた。平均リバウンド数が45.3本とリーグで飛び抜けて多いため(2位のアルバルク東京は40.0本)、この一戦のように最終盤の競り合いで逃げ切れることも多いが、いい流れのまま勝ち切りたいのが本音だろう。

 試合後、桶谷HCも「ディフェンスのボーンヘッド(判断の悪い)なミスが多く、コンテストのファウルでも『相手に何点あげてしまうんだ』という印象でした。自分たちで作ったいいリズムを、自ら相手に返してしまうようなプレーが多かったです。盤石の展開で勝てたはずなのに、自分たちで苦しい展開に持っていってしまった。2024年を象徴するようなゲームでした」と苦言を呈した。

 1月4、5の両日にホームで行われる茨城ロボッツ戦から新年の戦いが始まる。2位島根と2ゲーム差で首位を走るが、今後の対戦カードを見ると単純に優位と言える状況にはない。

 現状でチャンピオンシップ(CS)進出が有力な各地区の上位3チームとの対戦成績は、琉球が7試合で3勝4敗なのに対し、島根は既に11試合をこなし、5勝6敗で乗り切っている。琉球はEASLの海外アウェー戦もこなしながらの戦いとなるため、引き続きコンディション維持のハードルも高い。

 これらを念頭に、桶谷HCは「島根さんは強豪チームとの対戦がほとんど終わった中での2ゲーム差なので、自分たちはこれからもう一つ、二つステップアップし、スタンダードを上げていきたい。上位チームに勝つために課題をクリアしていきたいです」とさらなる成長を求める。それこそ強豪相手となれば、リードをしている時の一瞬の油断が流れを一気に持っていかれるリスクになる可能性はより高まるため、改善が必要だろう。

 フルメンバーが揃い、攻守にチーム力が底上げされたものの、まだ伸びしろも多い琉球。今後の進化に注目したい。

(長嶺 真輝)

試合後、京都ハンナリーズの古川孝敏と抱擁する岸本隆一(中央右)©Basketball News 2for1

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