「しゃー!」
試合終了のブザーと同時に、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(名古屋D)の齋藤拓実が持っていたボールを上へ放り投げ、体の前で両腕にぐっと力を入れながら吠えた。歩み寄ってきたキャプテンの須田侑太郎とハイタッチを交わし、強く抱き合う。この連戦に懸けていた想いの強さを象徴するシーンだった。
Bリーグ西地区2位の名古屋Dは28日、ホームのドルフィンズアリーナに同地区首位の琉球ゴールデンキングスを迎え、86ー79で勝利。レギュラーシーズン(RS)最終盤での地区頂上決戦を2連勝で締めくくり、通算成績は39勝19敗となった。琉球の地区優勝マジックは「2」のまま。名古屋Dは最終節のRS2試合を残して琉球とのゲーム差を遂に「1」まで縮め、西地区の逆転優勝に大きく前進した。
西地区6連覇中で、昨シーズンのリーグ王者の琉球に対し、今シーズンは4戦全勝。Bリーグが開幕して以降で初めて対琉球で勝ち越し、勝敗数で並んだ場合は名古屋Dが上の順位になることが決まった。直近では前節の島根スサノオマジック(西地区4位)戦から4連勝となり、チャンピオンシップ(CS)を目前に目に見えてチームが仕上がってきている。
28日の試合から、完成度の高さを示す“三つのポイント”を紹介する。
“開始2分半”で示した「高いスタンダード」
一つ目は開始から約2分半の時間帯だ。序盤から1対1における高い強度でタフショットを打たせ、スコット・エサトンのドライブで先制。さらに齋藤とエサトンのP&R、オフェンスリバウンドからのセカンドチャンスポイントで6ー0のランを見せ、琉球に早速一つ目のタイムアウトを取らせた。
実力が拮抗した上位チーム同士の連戦では、1試合目を落としたチームが2戦目でプレーの強度を上げ、出だしから抜け出すパターンが多い。しかし、この日の名古屋Dは前日から高い強度を維持し、早くもチームのトーンをセットした。齋藤が振り返る。
「試合の入りで相手に先手を取られることが多かったんですけど、今日は初めから自分たちらしいバスケットで入れました。失点をゼロに抑えた状態で、相手にタイムアウトを取らせた。同一カードの1試合目で勝った後、2試合目でそれはなかなかできないことだと思うので、チームとしてかなり良かったと思います」
前日もショーン・デニスHCや須田が「自分たちらしく」「高いスタンダード」という言葉を繰り返して使っていたが、正にそれを体現するスタートだった。
「ORとFT」に現れた最終盤の高い集中力
二つ目は最終盤での高い集中力だ。
リードチェンジが15回に達する激戦となったこの試合。一進一退という状況のまま第4Qに突入し、残り4分57秒でオフィシャルタイムアウトに入る際も69ー70と僅差だった。プレーが再開すると、ティム・ソアレスの3Pですぐにひっくり返す。齋藤も3Pで続き、残り約3分で5点をリードした。
圧巻だったのは、ここからだ。
名古屋Dは須田が3Pを外すが、ソアレスがオフェンスリバウンド(OR)を奪取。続くオフェンスでもソアレスのフックシュートが落ちたが、ジョシュア・スミスがORに絡んでポゼッションを継続した。3点差に縮められた後のオフェンスでもスミスが3人に囲まれながら体を張ってORをもぎ取り、追加点につなげた。
最終盤でORを連発し、相手の攻撃回数を減らしたことが勝利を大きく引き寄せたことは間違いない。デニスHCもスミスのリバウンドを最大の勝因に挙げた。
「特にスミス選手の第4Qオフィシャルタイムアウト後のリバウンドは素晴らしかったです。それのおかげでスコット選手を休ませることができ、残り2分くらいでまたコートに戻せた。それが勝ちにつながったと思っています」
チーム全体での集中力の高さは、フリースロー成功率にも現れた。これが三つ目のポイントである。試合を通しても24本中22本(91.7%)と高確率で決めたが、第4Qに限っては14本中14本を全て成功。スタートとクロージングという試合の大きな勝負所で高い遂行力を継続し、シーソーゲームをものにした。
「チャンピオンチームの琉球に立ち向かい、諦めず、相手の流れになりそうな時もそれを押しのけて勝てたことが本当に誇り高いです」とデニスHC。齋藤のコメントにもチームに対する手応えの大きさが滲んだ。
「2試合を通して自分たちの気持ちが強かった、いい準備ができてたということを胸を張って言えると思います。試合を通してうまくいかない時間帯はありますが、そういう時でも自分たちにフォーカスを当て、どういうバスケットをするかを考えてしっかり踏ん張れた。自分たちが本当にCSにふさわしいチームになってきてるんだということをすごく感じた試合でした。リーグ戦の終盤で、こういった試合展開をできるというのは本当にいいことだと思います」
直近2シーズンに比べ良好な健康状態「リベンジしたい」
58試合を終えたRSの最終盤でチームの完成度が高まってきている要因の一つに、選手たちの良好な健康状態が挙げられる。
名古屋Dは2019ー20シーズンから2季は若干低迷したが、デニスHCが就任した2021-22シーズンから現在のようなアグレッシブなディフェンスとハイペースなオフェンススタイルが定着し、2季連続でCSに進出している。しかし、いずれのシーズンもCS時点で主力となる外国籍選手らが怪我で離脱しており、クォーターファイナル(QF)で一勝も出来ずに敗退した。
それに対し、今シーズンはほとんどの主力が高いパフォーマンスを維持しており、デニスHCの展望も明るい。
「本当にCSが楽しみです。過去2シーズンは怪我人が多かった中でも、いろいろな逆風を乗り越えたからこそ今の粘り強さがあると思います。そこで戦い続けたからこそ、力が付いた。CSに向かって健康でいることを願っています。ベンチが元気であれば、それだけ相手にプレッシャーを与えられる。(島根戦を含めた)直近の2週間のようなバスケットをやり続けられたら、(勝ち上がる)チャンスはあると思います」
所属4シーズン目となる齋藤も「率直に今の状態であればすごく嬉しいなと思います」と笑みを浮かべる。今季は過去2シーズンの反省も生かし、選手のロード・マネジメント(負担管理)もチームとして質を高めてきたという。その上で、決意を述べた。
「メンバーがいなかったとはいえ、過去2シーズンのCSも本気で勝ちに行っていました。昨シーズンのQFは琉球に負けましたけど、その時に流した涙も本気で取りに行っていたからこそだと思います。QFで負けたことに対するリベンジしか考えていないです」
CS前のRS最終節、名古屋Dは5月5、6の両日に西地区5位の佐賀バルーナーズとアウェーで対戦する。琉球が広島ドラゴンフライズに1敗以上することが前提条件となるが、最終節で琉球をまくる可能性は十分にある。
「琉球の結果が気になる部分もあるかもしれませんが、ごちゃごちゃ考えるよりかは、目の前の試合を絶対に勝つということにフォーカスして1週間練習していきたいと思います」とかぶとの緒を締める齋藤。CSでの“リベンジ”に向けて大きな力となるQFのホーム開催権を獲得すべく、負けられない戦いが続く。
(長嶺 真輝)