Bリーグ1部(B1)は11月12日までに8節を終え、現在は約3週間のバイウィーク(休止期間)に入っている。チームが大きく入れ替わった信州ブレイブウォリアーズは、序盤戦から怪我人を多く抱え、4勝10敗で中地区7位と低迷。そんな中でも11月12日の京都ハンナリーズ戦で山本楓己が自己最多の27得点を記録するなど、若手の活躍が収穫だった前半戦ともいえる。11月30日から再開するリーグ戦を前に、苦しむチームの中で光明となった山本に話を聞いた。
苦しいチーム事情も京都戦で自己最多27得点
2年間の無所属期間を経て昨シーズンは琉球ゴールデンキングスの練習生として活動した山本は、今オフシーズンに信州ブレイブウォリアーズの練習生としてチームに加わった。琉球から「とてもよい選手で特にディフェンス面で良かった。人間性もよい」と太鼓判を押されていたという山本。実際にオフシーズンの動きを見ていた勝久マイケルヘッドコーチ(HC)も「やれているな」という印象を受けたと話す。ロン・ジェイ・アバリエントスの合流が遅れたことや、生原秀将のリハビリの経過を鑑みて、練習生から晴れて選手契約に至った。
10月14日の千葉ジェッツ戦でプロデビューをを果たし、ここまで10試合に出場した山本。シーズンの約4分の1を終えて「たくさんの成功体験を掴みつつ、今後の課題もとても見えた。具体的にはペイントエリアへアタックする回数だったり、そこからチャンスメイクする部分は恐怖心もあったが、京都戦やその前の試合も含めて、少しずつ成功体験をできたことによって、ちょっとずつチームに貢献できてきたと思う」と振り返る。
「成功体験」を積み重ねた山本の活躍がスタッツにも表れたのが11月12日の京都戦だった。石川海斗やスタントン・キッド、ウェイン・マーシャルら主力選手を欠く中、30分28秒の出場で3ポイントショット5本を含む27得点、5アシストとチームをけん引。出場した時間帯の得失点差を表す「+/-」では+4とチームで唯一のプラスであり、出場時間や得点、アシストはいずれもキャリアハイの数字だった。勝利にこそあと一歩届かなかったが、ケガ人が続出する苦しいチーム事情の中で見せた活躍は多くのファンやブースターに希望を与えるものだったに違いない。
試合後、会見に現れた勝久HCは山本の活躍について「誇らしくてしょうがないし、チーム全体がそう思っている」と賛辞を惜しまなかったが、当の本人は「毎日成長しようとか、準備することをやり続けることは絶対に負けちゃいけない。それがたまたま結果として現れたのが今日だった」といたって冷静だった。無所属や練習生の期間を経てプロになっている山本だからこそ、現状に満足せず常に成長を目指しているのだろう。
改めて京都戦について聞いてみると、以下の答えが返ってきた。
「個人的にはその試合(京都戦)で何かが変わったという感覚ではなくて、印象に残っているのは仙台(89ERS)戦の1戦目。10分弱出させてもらった。その辺りから『あ、できそうかも』という感覚が持てるようになってきた。(できるようになってきたことを試合で)試したいなと思っていた中で、(京都戦は)チャンスをいただけたので、あのタイミングで見えやすい結果として出たのかなと思っています」
積み重ねた経験からの自信を得ながらも現状の課題を冷静に改善点を分析し、それを実行に移す。まさにチームのアイデンティティである”日々成長”を体現している選手であるといえる。
Bリーグも特集「すごく僕にとって大きなこと」
京都戦での活躍は後日BリーグのSNSにも取り上げられ、多くの反響があったという。そのことについて山本に質問すると、笑顔で喜びを語ってくれた。
「これまであまりメディアに取り上げられることがなかった3年間だったので、ああいう形でBリーグというみんなに一番見ていただける媒体で発信してもらえたことはすごく僕にとって大きなこと。『ああ、楓己頑張っているんだ』という部分にもなるし、『楓己を応援してきてよかったな』という部分にもなる。例えば、琉球ブースターの方にも『楓己君頑張っているな、今度(琉球対信州の)ホーム戦観に行こう』と言ってもらえたりだとか、(これまでの)3年間で応援してきてくれた方に分かりやすい形で残せたのは個人的に嬉しかったです」
苦しい3年間を経て、選手契約を山本。自身のグッズを身につけて応援してくれるファンを見て、改めてプロになったことを実感しているという。
「すごく嬉しいです。特に試合会場とかでも山本楓己のタオルや服を着てくれている方がたくさんいて、僕自身も(グッズを身に着けて)アピールしていた側だったので、僕が手を振れる側になれたことがすごく嬉しいし、感慨深いです」
琉球との凱旋試合「沖縄アリーナでプレーできることは楽しみ」
バイウィーク期間を経てリーグ戦が再開するBリーグ。12月8日、9日には山本の“古巣”である琉球との対戦も予定されている。
「練習生だったので”凱旋”という感じではないかなと思っていましたが、SNSのおかげで待ちわびてくれている方が増えた感じはあります。あの沖縄アリーナで、実際にプレーヤーとしてプレーできることはすごく楽しみです。めちゃくちゃ楽しみです」と目を輝かせながら沖縄への思いを口にする山本。続けて「本当に沖縄の方は一体感しかないので、ウォリアーズコールに負けじとお願いします(笑)」と信州ファンに熱い後押しを呼びかけた。
チームのエースであるキッドが負傷の影響で契約解除となり、元千葉ジェッツのジャスティン・マッツが新たにチームに加入した信州。新たなメンバーも加わり、ケガ人も戻ってくる中で、チームとしてはタフな対戦相手が続く12月を迎える。重要な中盤戦に向けて山本も意気込みを口にする。
「僕としてはチームのテーマである”日々成長”という部分を一番考えることが僕にとっても、チームにとってもプラスになるということをすごく実感しているので、弱気になるとかではなくて、やるべきことや伸ばしていきたいことに、少し強気な気持ちでチャレンジしていくという姿勢だけは忘れたくないと思っている。そうすれば自ずと結果は付いてくると思うので、そういう気持ちでプレーしていきたいです」
無所属・練習生期間を経て、チームにとって欠かせない存在となった山本楓己。バイウィーク期間はチームとしてのレベルアップはもちろん、地元へ帰省するなど心身ともにリフレッシュもできたと話す。沖縄での古巣・琉球との対戦や強豪チームの対戦が続く12月。経験と自信を得た25歳のルーキーが、さらなる活躍で信州を導いてくれることを期待したい。
(芋川 史貴)