ロン・ジェイ・アバリエントスが見せた確かな成長 信州ブレイブウォリアーズが開幕節以来の2連勝
信州ブレイブウォリアーズのロン・ジェイ・アバリエントス©Basketball News 2for1
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 Bリーグ1部(B1)は11月3日から5日にかけて各地でレギュラーシーズンの第6節が行われ、信州ブレイブウォリアーズはホームのホワイトリング(長野市)で同じ中地区の富山グラウジーズと対戦。第5節終了時点で信州は7連敗、富山は開幕から9連敗と、どちらのチームにとっても負けられない対戦となった。

 6日に行われた第1戦を86-79で勝利し連敗を止めた信州は、翌7日に行われた第2戦を83-79で制し2連勝。負けられない隣県対決を制し、第6節終了時点で中地区6位に浮上した。

 連敗を乗り越えてチームとして大きな連勝をつかんだ信州ブレイブウォリアーズの成長を確かめる。

新メンバー多い中ケガ人も続出 苦しい7連敗を経験

 今オフシーズンは主力の多くがチームを去り、新たに8人の新加入選手を加えて新たなチームとなった信州。大黒柱ウェイン・マーシャルも大怪我から復帰し、開幕節では2連勝と好スタートを切ったかのように思えたが、そこから勝利をつかめず7連敗。10月26日には右ひざを負傷していたマーシャルが昨年に続き再びインジュアリーリストに登録された。また、主力として活躍していたエリエット・ドンリーマシュー・アキノもケガで戦線を離れることとなり、シーズン序盤から負傷者に悩まされている。

 もうひとつの壁は「チームの完成度」という部分。勝久マイケルヘッドコーチ(HC)はデイフェンスを何より重視するスタイルのためチーム内で多くの決まりごとがあり、ディフェンスの立ち位置はもちろん、オフェンスでボールをもらう位置など一歩のずれまでにもこだわる。のため新加入選手はチームルールなどを一からすべて学ばないといけない。「我々のディフェンスの問題は本当に深刻だと思う。ファンダメンタル(基本的な部分)よい習慣をつける。このプロセスや、ルールを覚えること、チームディフェンスを覚えることに時間がかかっていると感じている」と4日の富山戦後に勝久HCが語ったように、チームとしての仕上がりはまだまだ満足できるものではない。

 スタッツで見てみると、昨季の平均失点数が73.4(リーグ3位)、ディフェンシブレーティング(DRtg:100ポゼッションでの平均失点数)が103.0(同2位)に対して、第6節終了時点の平均失点数が84.4(同20位)、DRtgが112.7(同19位)と信州の目指す「ディフェンスから組み立てるスタイル」には程遠い。またゴールを守る最後の砦とも言えるブロックショットの数も、昨季の平均3.6本に対して今季は2.4本と1.2本減少していることが分かる。

 オフェンス面でも、よいリズムでシュートを打てている場面もあるが、ショットクロックぎりぎりでタフショットを放つ場面も多く見受けられるのが現状だ。このほかにも勝久HCは「40分間やるべきことを継続できるかどうか」といったメンタル面での成長も課題に挙げている。さまざまな要因が連敗につながっていたが、そんな中でも「チームの雰囲気は悪くなかった」と指揮官は語る。

仙台89ERS戦後、ハドルを組む信州ブレイブウォリアーズ©Basketball News 2for1

オファー受けたその日にフライト デイヴィッド・サイモンの献身性

 苦しい状況の中でも「日々成長」の目標のもと、チームは少しずつ前進していた。秋田ノーザンハピネッツから移籍してきたスタントン・キッドは開幕節から先発に名を連ね、リーグ4位の平均20.4得点と大活躍。8日の茨城戦でチームを救う3Pショットを沈めた際には「That’s why you brougt me here!(だから俺をここに連れてきたんだろ!)」と名言を放ち、チームを引っ張る”ゴー・トゥ・ガイ”(頼りになる人)として存在感を見せている。

 同じく今季から加入したデオン・トンプソンは世界を渡り歩いてきた35歳のビッグマン。サイズを生かし、平均8.7リバウンドといった活躍やゴールから少し離れたミドルショットや3ポイントショットの確率も高く、強さと器用さを兼ね揃えた選手だ。5日の富山戦では終盤に勝利を手繰り寄せる大きな3Pも沈めるなど、勝負強さも光る。

 そしてマーシャルがインジュアリーリストに入ったことにより、第5節からチームに加入したデイヴィッド・サイモン。京都ハンナリーズで2018-22シーズンの4年間プレーし、全ての試合にスターティングメンバーとして出場。平均得点が21.8点とまさにチームの大黒柱としてチームを支え続けてきた。そんなサイモンは勝久HCからオファーを受けたその日に飛行機に乗って日本に来たという。

チーム合流後、すぐに活躍を見せているデイヴィッド・サイモン©Basketball News 2for1

 4日の富山戦後、勝久HCはサイモンについてこう語っている。

 「オファーしたその日に、お子さんもいるのに飛行機に乗ってくれるという、本当に聞いたことがないようなことをしてくれた。そして先週も、もちろんほぼ練習もしていない状態でチームを助けようとやってくれて、ウォークスルーでもビデオミーティングでも練習でも、彼の目を見ていると本当に集中して色々吸収しようとしている。すぐにでも色々覚えてチームを助けようという気持ちが見える。これは本当に彼に感謝ですし、本当に素晴らしい方だなと初めて一緒に働いて思っている。また急な話にも関わらず彼を送り出してくれた家族、特にデイヴィッドの奥さんに感謝したいと思う」

 プレーについても手薄なインサイドで大きく貢献しており、「今日、出だしからインサイドを攻められたときに、1対1でリングを守ってくれた。それを今まで出来ていたのがウェイン(マーシャル)だけなので、そういうゴール下での強さ、リングを守ることができるという強さを見せてくれた。何より嬉しいのは彼の姿勢、メンタリティー、人として、プロフェッショナルとしての部分」と信頼を寄せる。

 信州からオファーを受けたことについてサイモンは「すぐに(マイケルHCから)連絡が来て、早い段階で決断したが、まずびっくりしたという感情。しかし、こういうオファーがあったからこそ早く来たかったので、そういう(その日のうちに飛行機に乗る)判断をした。本当にここに来れて嬉しい」とチーム加入の経緯について語る。

 「前回信州には対戦相手として来たが、そのときからマイケルHCとも何回かお話しをさせていただいて、今回こういうチャンスをもらえたので本当に嬉しいという気持ちでいっぱいです」

 感謝の思いを胸に、チーム加入後すぐの仙台89ERS戦から試合に出場したサイモン。ユニフォームの準備が間に合わず、微妙に黄色が違う「9」のシートを貼り付けた即席ユニフォームを着用しながらインサイドを支えた。仙台戦後は1週間チーム練習に参加できたこともあり、パフォーマンスも向上。4日は16得点5リバウンド2スティール、5日は15得点6リバウンド1スティールを記録するなど、2連勝に大きな貢献を見せた。

4日の試合後、会見で話すサイモン©Basketball News 2for1

5日の富山戦で逆転3P 新たなスーパースター誕生の予感

 最後に、富山戦での2連勝を語るうえで欠かせないのが「RJ」の愛称で親しまれるロン・ジェイ・アバリエントスだ。フィリピン出身の若きポイントガードは、4日の第1戦では約14分の出場ながら6得点にチーム最多の6アシストを記録。出場している時間帯でのチームの得失点差を示す「+/₋」(プラスマイナス)でもチーム最高となる+10を記録した。翌5日の第2戦では今シーズン最長の21分プレーし、キャリアハイとなる24得点(3P6/9)を記録。キッドが負傷し後半出場できないという危機的状況の中で、1点ビハインドの第4クォーター残り28秒にはコートに倒れこみながら決勝点となる3Pを沈め、文字通りチームを勝利に導いた。

 試合後には「勝てたことは非常に嬉しかったです。最初から最後までチームはいいエナジーを出して戦えたのもすごく良かったと思います」と語り、安堵の表情を見せた。

©Basketball News 2for1

 フィリピンでの代表経験や昨季KBLのチームで活躍し新人賞を受賞しているアバリエントスは得点力やゲームメイク力に長けた選手で、チームに加入して間もない状態で出場した天皇杯でもシュートやパスなど1プレー1プレーで会場を沸かせていた。勝久HCも天皇杯後の会見で「本当に見ていて楽しい」と語ったようにタレント性は抜群である。

 しかし、シーズンが開幕後は全てベンチからの出場となり、平均出場時間も12分21秒にとどまっている。才能があるにもかかわらず、出場時間が少ない理由。それは前述したチームルールの理解度によるものだという。指揮官は語る。

 「ミスは誰にでもあるので今から言うことは彼だけではないし、選手全員、自分自身みんなミスはあるが、点を取っている分、同じくらいのディフェンスミスだったり、周りがやりにくくなる遂行力のミスだったりというのがある。B1で勝っていくために、貢献していくために出来なければいけないことを身につけてほしい。具体的にはディフェンス面でチームルールを理解する。それをエナジーを持ってやる。主にピック・アンド・ロールディフェンスで毎回かなりのセパレーション(距離)をつくられているので簡単に剥がされないようにする。(チームルールの)理解と遂行力。理解した後はインテンシティを持ってやってほしい。このようなディテールひとつひとつを遂行できるようになっていかないとけない」

記者会見で話す勝久マイケルHC©Basketball News 2for1

 もっとも、チームへの合流が9月中旬になったことなどからアバリエントスにとって難しいシーズンになることは開幕前に勝久HCも予想していた部分だったという。開幕前に行ったインタビューで指揮官は次のように語っている。

 「残念ながらフィリピン人のビザというのは簡単ではなく(入国するのに)けっこう時間がかかってしまった。トレーニングキャンプにはほぼ居れなかったので、彼にとってチャレンジになると思う。タレントがあるので、ただプレイをさせたらある程度できると思うが、よいチームになるためにはやっぱり一つひとつ学んでいかないといけないというプロセスがある中で、このタイミングで合流なので正直けっこうなチャレンジだと思う

 こういった困難な状況でのプレーながらも日々成長し、ついにチームを勝利に導く大活躍を見せたアバリエントス。日を追うごとにコーチ陣との会話やチームメイトへの声がけなどのコミュニケーションが圧倒的に増えている。また、ディフェンスでのミスコミュニケーションなどは依然としてあるものの、改善する姿勢や積極的に学ぶ姿勢を見せている。自分の課題にしっかりと向き合い、成長しようとした姿勢がアバリエントス自身を最後までコートに立たせ、割れんばかり大歓声を起こした値千金の逆転弾にも繋がった。その姿はまさにスーパースターの誕生を予感させるものだった。

チームメイトへの声掛けをするアバリエントス©Basketball News 2for1

バイウィーク前残り3戦 勝ち星を伸ばせるか

 仙台戦後、三ツ井利也は「一つでも勝てばチームの状況は変わると思う」と語っていた。連敗が続く中でもチームは前を向いて成長を信じたことにより、大きな2連勝を飾った。「まだまだ成長しなければいけない部分はある」と指揮官が語るようにチームは発展途上にある。それでも今節の2連勝はチームの自信に繋がるはずだ。

 バイウィーク前のホームを勝利で守り切った信州ブレイブウォリアーズ。バイウィークに入れば練習する時間も確保でき、チームとしての完成度は高まっていくことだろう。次戦は「勝久兄弟対決」でも注目の集まる川崎ブレイブサンダース、週末には昨季まで所属していた岡田侑大が率いる京都ハンナリーズとの対戦が待っている。連勝を自信に変え、さらに勝ち星を伸ばしてバイウィークに入ることができるか。”新生”ウォリアーズの日々成長する姿に期待したい。

(芋川史貴)

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