琉球ゴールデンキングスー群馬クレインサンダーズ戦の取材に行ったのは、沖縄でも秋の肌寒さが感じられるようになってきた11月中旬だった。
西地区首位の琉球とB1昇格1年目にして堂々たる戦いぶりを見せる群馬のマッチアップにも惹かれたが、このカードを見に行った大きな理由は他にある。
沖縄アリーナだ。
目次
バスケのために作られた沖縄アリーナ
今年の春にお披露目となった沖縄アリーナは、バスケットボールの試合を見るために設計された超最先端のアリーナだ。
最大で1万人(バスケットボールでは約8000人)を収容可能で、中央のコートを囲むように360度ぎっしり観客席が設置されている。
他のBリーグチームの多くが地域の多目的アリーナをホームコートとしていることを考えると、バスケ専用の沖縄アリーナはまさに“夢のアリーナ”と呼ぶにふさわしい。
一バスケファンとして、このアリーナを訪れないわけにはいかないと思い、今回の取材を敢行した。
テンションが上がるアリーナショップ
会場に到着してまず目に入るのがアリーナショップ。
アリーナの正面1階に独立したショップとして設置されているこのエリアは、会場に近づくにつれ存在感を増し、ファンの目を引く。
試合の前についついショップに立ち寄りたくなるほどかっこいい。
まず、この時点でテンションが上がる。
店内に入ると琉球のマスコットキャラクター・ゴーディーがお出迎え。こどもたちが一緒に写真を撮るなど、人気のスポットになっている。
柱には選手の写真がプリントされていたりと、「映える」仕掛けが各所に施されている。
グッズの種類も豊富で、Tシャツやタオル、レプリカユニフォームといった定番のものから、かりゆしシャツのような琉球独自のものまで幅広く用意されている。
おしゃれで普段使いできるようなファッションアイテムも多く、この日も数多くのファンがパーカーやトレーナーなどを購入していた。
ショップ内は非常に混雑していたが、アリーナ内での決済はすべてキャッシュレスということで、購入時の待ち時間も少なく非常にスムーズ。
こういった細かな部分でも「最先端」を感じることができる。
大型ビジョンと美しいコート
アリーナ内に足を踏み入れると、まず最初に目に入ってくるのが天井からつるされている大型ビジョンだ。
全長510インチの「メガビジョン」は写真や映像で見ていた以上に迫力がすごい。
また、アリーナ内の天井や壁、座席は基本的に黒系統の色で統一されているので、メガビジョンの映像が非常に見やすい。
背景と映像との明暗の差があるので写真映えもする。一度席に着いたら必ずカメラを向けたくなる代物だ。
中央にヤシの木が描かれた沖縄らしさあふれるコートも美しい。
通常、多目的アリーナはバスケットボール以外にもさまざまなスポーツで使用されるので、コートにはたくさんのラインが入っている。
Bリーグのチームでも、試合の時にはバスケットボール用以外のラインをテープで隠しているチームも少なくない。
沖縄アリーナのコートはバスケ専用のため、そのような作業は一切必要ない。
スポットライトに照らされ、白く輝くコートを思う存分堪能できるのだ。
多くのバスケファンが沖縄アリーナの写真や映像をSNSに投稿したくなるのも頷ける。
便利さとホスピタリティ
試合開始まで少し時間があったので、アリーナ内を散策してみる。
まず驚かされるのがその大きさだ。
全体面積は約2万7千平方㍍。
昨シーズンまでホームアリーナとして使用されていた沖縄市体育館の倍以上の大きさである。
客席は1階から5階まであり、目的地にたどり着くだけでも一苦労だ。
アリーナ内を回っているうちに気付くのが、その設備の充実ぶり。
トイレは各階の至る所にあるので混むことはないし、子供が遊べる「ファミリーコンコース」やスマホの充電などができる「チャージングステーション」なる場所まである。
余計な心配をする必要がなくなり、バスケットボールだけに熱中する環境が整っている。
1階にはバスケットコートをあしらったラウンジルームがあり、バスケットボールが埋め込まれたおしゃれなテーブルで一息つけるスペースもある。
2階観客席に戻るときには入り口でカーテンを開ける仕様にされているなど、至る所にエンターテインメント性が盛り込まれており、歩いているだけでもわくわくさせられる。
手軽さがうれしいフードエリア
他のアリーナと一線を画すのがフードエリアだ。
一般的なBリーグチームのフードエリアは観客席の外に出店のような形で販売されているか、もしくはアリーナの外に屋台のような形で店舗が並んでいることが多い。
これは多目的アリーナを使用している都合上仕方のないことだが、コートの外へ出る必要があるため、どうしてもバスケットボールとの「関わり」が絶たれる瞬間が生まれてくる。
その点、沖縄アリーナのメインフードエリアはコートを囲むように3階に作られているので、アリーナグルメの購入待ちの時間にも一歩後ろを振り返れば試合を楽しむことができる。
ハーフタイムなどだけではなく、タイムアウトのちょっとしたインターバルの間にも気軽に買いに行くことができる。
一部の人気商品は2階の小さなフードエリアでも販売されているなど、混雑を避ける工夫もなされている。
試合への熱を途切れさせないアイデアが素晴らしい。
からあげ(通称キンから)やターキーレッグ、ホットドッグなど片手で食べられるようなメニューが多いのもユーザー視点のうれしい特徴だ。
フードはカップで提供されるものも多く、観客席には全席にドリンクホルダーがついているので、そこにドリンクやフードを置いておくことができる。
狭いアリーナではドリンクやフードの置き場所に困ることがよくあるが、沖縄アリーナでは気にすることなく試合を楽しむことができる。
最上階でもプレーがはっきり見られる
試合開始時間が近づいてきたので、5階のメディア席に戻ってくる。
ほぼ最上階に近いメディア席の位置からでもコートで起こっていることは肉眼ではっきりと見ることができる。
筆者はNBAのアリーナもいくつか訪れたことがあるが、NBAだと収容人数が2万人近いアリーナも多く、最上階だと大型ビジョンなしで選手の動きをすべて追うことは難しい。
沖縄アリーナは収容人数ではNBAの半分程度なので、どの席からでも無理なくプレーを楽しむことができる。
冒頭で触れた大型ビジョンだけではなく、壁面に360度設置されたリボンビジョンや縦長の電光得点モニターなど、あらゆる場所から試合の情報を得ることができる。
リアルタイムでモニターに得点数やファウル数を表示してくれるのは、メディアの人間にとっても非常にありがたかった。
窮地から逆転 雰囲気は最高潮に
11/13の試合。琉球はけが人続出の緊急事態で、出場した選手はわずか8人。群馬のアップテンポのスタイルについていけず前半で61失点を許し、11点ビハインドと劣勢に立たされていた。
第3クオーター残り7分にはその差が20点に広がり、「さすがの琉球でもこの状況は厳しいか」と群馬の勝利を想定して記事をまとめ始めた。
しかし、ここから琉球が強さを見せる。
ジャック・クーリーがいないインサイドではアレン・ダーラムが奮闘し、その活躍に呼応するように今村佳太やコー・フリッピンが得点を重ね始める。
琉球が得点を重ねるたび、点差を詰めるたびに、アリーナ内のボルテージは上がっていく。
そして、4クオーター残り5分27秒、岸本隆一が3ポイントシュートを沈め、琉球が83-82とついに逆転。
4152人が詰めかけた会場内の盛り上がりは最高潮に達し、割れんばかりの拍手が響き渡る。
コロナ禍で声は出せない状況だったが、それでも会場が揺れるほどのエネルギーが全身に伝わってきた。
沖縄とアメリカ 独自の文化が体験できる
結局、試合は94-100で琉球が敗北を喫したが、一番印象に残ったのは試合内容ではなく沖縄アリーナで見た風景だった。
大迫力のビジョンや、シーンごとに細かく調整されていた照明。
最上階で試合を観ながら食べたホットドッグ。
選手の活躍に飛び跳ねて喜びを表す子供たち。
試合後、満足そうな笑顔を浮かべながら会場を後にするファン。
全ての体験がこれまでの日本のバスケットボール界では味わえないものだった。
沖縄アリーナがある沖縄市のコザエリアは米軍基地が近くにあることもあり、多くの外国人が琉球の試合に訪れる。
「音楽の街」ともいわれるコザの商店街に行けば、昼からバンドサウンドが流れ、どこか異国情緒あふれる雰囲気を味わうことができる。
沖縄と外国のいいところが混ざり合って形成されたコザ独自の文化。
アメリカンな迫力とエンターテインメント性、日本の気遣いとおもてなしの心、そして沖縄コザの文化。
それが気持ちよくミックスされ、バスケットボールの中に落とし込まれているのが沖縄アリーナの魅力なのだ。
「100%の沖縄アリーナ」を見てみたい
先日、Bリーグの観客制限が緩和されることが発表された。
観客制限があり声が出せない状態でも、およそ4000人が集まり熱狂の中心地となっている沖縄アリーナ。
来年の1月にはBリーグオールスターが開催、2023年にはワールドカップの予選地にも決まっている。
8000人が集まり、大声での応援や指笛が響き渡る。
そんな「100%の沖縄アリーナ」を早く見てみたい。
一度体験したら絶対にまた行きたくなる「夢のアリーナ」。
「ここは天国か」
「いや、沖縄だよ」
ケビン・コスナーの名セリフが聞こえてきそうだ。
(写真=Basketball News 2for1、文=滝澤俊之)