【バスケW杯】「新世代の旗手」22歳の河村勇輝&富永啓生 日本を欧州勢からの“歴史的勝利”に導く
フィンランド戦の勝利を呼び込んだ日本の河村勇輝(左)と富永啓生©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 試合終了のブザーと共に、沖縄アリーナが割れんばかりの歓声で充満した。

 盛大な拍手や甲高い指笛の音が観客席から降り注ぐ中、PG河村勇輝はPF/Cジョシュ・ホーキンソンにジャンプして抱き付き、SG富永啓生は雄叫びを上げ、SG馬場雄大は顔をくしゃくしゃにして感泣。全てを出し切ったように膝に手を付いたSF渡邊雄太も口をぎゅっと結び、柔らかい笑みを浮かべて喜びを噛み締めた。チームを率いるトム・ホーバスHCは達成感を滲ませながら顔の横で両拳をぐっぐっと握り、そのまま右拳を振り下ろした。

 これは、日本のバスケットボール史に新たな1ページが刻まれた瞬間の描写である。

 W杯グループEの日本代表(FIBAランキング36位)は27日、沖縄アリーナでFIBAワールドカップ1次ラウンドの第2戦となるフィンランド(同24位)戦に臨み、第3Qで最大18点差を付けられながら、98ー88で劇的な逆転勝利を成した。W杯での勝利は2006年以来、17年ぶり。強豪国がひしめく欧州勢からの白星は初めてという快挙となった。

赤く染まった会場を盛り上げる渡邊雄太(手前)らアカツキジャパン©Basketball News 2for1

17年ぶりW杯1勝 富樫勇樹「若い力、勢いに助けられた」

 試合終了直後、代表を長らくけん引してきたPG富樫勇樹主将が激戦の名残を含んだ掠れ声で口にした言葉が、この試合を象徴した。

 「本当に若い力、勢いに助けられました」

 現地や画面で観戦した人にとっては、言うまでもないだろう。「若い力」とは、日本男子バスケ界が誇る“新世代の旗手”河村と富永のことである。河村は25得点、9アシスト、ターンオーバーゼロの大活躍。富永は3P4本を含む17得点に加え、3スティールを記録して「+/−」(その選手が出ている時間帯の得失点差)がチームで2番目に高い「+17」に達した。

 W杯初出場で、フィジカルの強さやサイズの大きさなど、世界トップレベルに対して本来の力が発揮できなかったドイツ戦からわずか2日。チーム最年少である22歳の2人が、その分厚い壁を難なく突破し、ジャパンを新たな境地へと導いた。

ディープ、クイック3P連発で“引力”まとう 復活の富永

 先に覚醒したのは富永だ。

 ドイツ戦では相手に警戒されて徹底マークを受け、3Pを2本しか打つことができず、12分42秒の出場で5得点という不本意な記録に終わっていた。しかし、この日は第2Qの序盤で左45度からプルアップでディープスリーを決めると、さらに右コーナーからもクイックで3Pをヒット。シュートタッチの良さを伺わせた。

 圧巻だったのは、最大点差となる18点のリードを奪われた第3Q残り2分46秒からのプレーだ。右コーナーからドリブルでディフェンスを押し込み、フェイダウェイでミドルを決める。さらに続くプレーでは、ゴール正面でステップバックからディープスリーをねじ込み、反撃の狼煙を上げた。心を折られかねないギリギリのラインでチームを踏み止まらせ、馬場も3Q終了間際の3Pで続き、射程距離となる10点差でこのクオーターを終えるきっかけをつくった。

 最終第4Qに入っても富永の勢いは止まらない。

 序盤で左45度から3Pを決めて7点差に詰め寄った。相手にダブルチームを仕掛けられ始め、強烈な“引力”をまとうと、今度はリングアタックしたホーキンソンに合わせて加点。「今日はオフェンスどうこうより、リバウンドを含め、いつも以上にディフェンスにフォーカスしてやっていました」と語った通り、この時間帯はリバウンドやシュートチェックでハードに動き、スティールからの速攻でアンスポーツマンライクファイルを誘うなど大車輪の活躍を見せた。

3Pでチームの危機を救った富永 ©Basketball News 2for1

第4Qで3P4本の15得点 河村が“冷血”に

 残り約7分半で4点差。怒涛の追い上げに、沖縄アリーナは大歓声が鳴り止まない。富永がつくり出したこの“大波”に乗ったのが、同世代の河村だ。FIBAの中継解説者の言葉を借りれば、「This guy’s got ice in his veins」(「この男は冷血になった」=NBAで勝負強さを讃える言葉)。

 相手に3Pを沈められるが、河村が右45度からのディープスリーですぐに押し返す。直後のプレーではオフェンスリバウンドを奪取し、バックビハインドパスでゴール下のホーキンソンに落としてスコア。残り5分を切った場面では右45からドライブを仕掛け、ファウルをもらいながらスクープレイアップを決め、豪快に吠えた。フリースロー1本も落ち着いて沈め、ついに79ー78と逆転した。

ファウルを受けながらレイアップを決め ©Basketball News 2for1
雄たけびを上げる ©Basketball News 2for1

 続くポゼッションでは、ステップバックぎみのクロスオーバーからプルアップの3Pを決めてリードを4点に。残り約3分、観衆を驚かせる場面が訪れる。NBAユタ・ジャズのエースで、213cmのラウリ・マルカネンが172cmの河村にマークに付いた。しかし、物ともしない。右45度からマルカネンが伸ばした手を越えてクイックのディープスリーをスウィッシュで決める。続くオフェンスでもスピードで置き去りにし、ホーキンソンに合わせて9点差に広げた。

 残り1分22秒で5点差まで詰め寄られるが、残り約1分でまたも右45度から3Pをヒット。直後に富永がファストブレイクからレイアップを沈め、残り40秒でリードを10点とし、勝負を決めた。

ラウリ・マルカネン(左)にマークされるも、3Pを沈めた ©Basketball News 2for1

ドイツ戦から2日で修正 ペイントアタックに自信

 昨シーズンのBリーグMVPとしての真価を遂に発揮した河村。7得点、3アシストにとどまり、4ターンオーバーを記録したドイツ戦で、ある学びがあったという。

 「1対1でボールを回さずにシュートを打つと、タフショットになる。自分は打てるタイミングではあるけど、チームのタイミングではないことも多いです。そこはドイツ戦ですごく学びました。自分がこのチームで求められている役割は、3Pを決めることではなく、ペイントアタックすることだと」

 確かにフィンランド戦、第4Qこそ完全に「ゴー・トゥ・ガイ」と化したが、9アシストのうち6つは第3Qまでに記録しており、3Pの成功数もそれまではゼロだった。度々ペイントに進入して相手にドライブを意識させたことが、第4Qだけの3P4本成功につながったことは言うまでもない。自身も「最後はチームがボールを託してくれて、1対1で決めきれたことはすごく良かった。今後のキャリアにおいても、ペイントアタックは強みになると思います」と述べ、自信を深めたようだ。

 ただ満足はない。日本が掲げる目標はアジア6カ国の中でトップとなり、2024年のパリ五輪出場権を獲得することである。27日時点で、白星を挙げたアジア勢は日本のみ。29日にある1次ラウンド最終3試合目のオーストラリア(同3位)戦に勝てば、グループ内の4チーム中、上位2チームが対象となる2次ラウンド進出が決まり、五輪出場権の獲得にもぐっと近づく。強い決意を宿した河村の瞳は、既に次戦を見据えていた。

 「フィンランドという素晴らしい国相手に勝ったことはうれしいですが、目標はアジア1位になることです。1勝して、その後に全敗したら意味がない。勢いを付けられる勝利だったと思うので、しっかりオーストラリア戦に向けて準備して、アジア1位になるという目標をぶらさずに戦っていきたいです」

試合後、インタビューに答える河村©Basketball News 2for1

明るい「日本バスケの未来」若手の刺激に

 試合後、2人に同じ質問をしてみた。「河村選手、富永選手という若い2人が代表を引っ張り、歴史的勝利を挙げたことは大きな意味がある。どう感じますか?」。答えはこうだ。

 富永「2人とも経験は浅いんですけど、その中で若く、エネルギーが溢れるプレーで勝利に導けたことはすごくうれしかったです。これからの自分たちのバスケットボール人生においても、すごく成長できる1試合になったと思います。河村は最後の大事な場面で3P決めてくれて、あれで相手の気持ちが切れた部分があったと思うので、すごく頼もしかったです」

 河村「若い選手がフレッシュさを出して、コートで表現をしてくことは大事だと思う。僕たちだけでなく、日本代表に入っていない若い有望な選手がたくさんいるので、その選手たちにいい刺激になって、日本バスケットボール界がより良くなるような存在でありたいと思います」

©Basketball News 2for1

 テーブス海、渡邊飛勇、金近廉、ジェイコブス晶、川島悠翔…。

 河村が言うように、将来が楽しみな若きプレーヤーはまだまだたくさんいる。彼らもどこかで、この歴史的な一戦を観戦していたはずだ。同世代をリードする2人の旗振り役が、世界を相手に躍動する姿を見て、どう感じたのか。歓喜か、それともこの舞台に立てなかった悔しさか。いずれにしろ、強烈な刺激になったことは間違いない。

 ホーバスジャパンと共に、熱い夜を体感した多くの人がこう感じたことだろう。日本男子バスケの未来は明るい、と。

(長嶺 真輝)

沖縄アリーナは大歓声に包まれた©Basketball News 2for1

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