“喋りっぱなし”の特別指定PG・喜志永修斗 二枚看板不在の富山グラウジーズの救世主に
富山グラウジーズでプレーする喜志永修斗©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 「Keep going,keep going!!」(やり続けよう!)

 「ここはノーファールで!」

 沖縄アリーナのコートに“喋りっぱなし”の選手がいた。2月5日、中地区7位の富山グラウジーズと西地区3位の琉球ゴールデンキングスによる一戦。声の主は、1月20日に特別指定選手として富山に加入した専修大学4年の喜志永修斗だ。身長181cm、体重83kgのPG。チーム最年少の22歳だが、安定したハンドリングに加え、全くと言っていいほど物怖じせずに仲間に指示を出す姿はチームに合流したばかりのルーキーとは思えない程の貫禄をまとっていた。

 平均スタッツが17.8点、9.9リバウンドのジョシュア・スミス、19.7得点、10.4リバウンドのブライス・ジョンソンという二枚看板がいずれも負傷で欠場し、さらにターンオーバーがリーグで最も多いという明確な課題を抱える富山。この日の試合に65-89で敗れ、5連敗となって7勝29敗と厳しい状況が続くが、ゲームコントロールに長けた新進気鋭の司令塔が浮上に向けた鍵になるかもしれない。

スタイルの変化に対応 オフェンス落ち着ける

 第1Qの開始3分32秒、この試合で初めて喜志永がコートに入ると、早速ハンドラーとして存在感を発揮する。一つ目のプレー。ボール運びでハーフラインを超えると、右手の人差し指を立ててクルクルと回しながら味方に合図を送る。すると選手たちが連動して動き出し、ハンドオフを繰り返してチームの得点源であるノヴァー・ガドソンの1対1の場面をつくり、ドライブからのキックアウトで加点した。

 セットプレーだけでなく、オフボールの時にスクリーンをかけて味方のフリーを演出したり、ボールプッシュしてアーリーオフェンスを仕掛けたり。試合を通して、常に声やジェスチャーでフロアバランスを整える姿も印象的だった。

 富山はこれまでインサイドに強みのあるチームだったが、スミスとジョンソンが不在の中で人とボールが動くスタイルへの変更を余儀なくされている。高岡大輔HC代行が現状を説明する。

 「ブースターさんなど、僕らの試合を見てくれている方からすると以前とは全く違うバスケをしていると思います。インサイドに強みあって、そこを起点にオフェンスを組み立てていましたが、今はそこのアドバンテージが全くないので、機動力を生かしたオフェンスにシフトしています」

苦しいチーム状況を救う活躍を見せる©Basketball News 2for1

 そんな状況下でチームに合流し、これまでに秋田、琉球との直近4試合に出場した喜志永。初めの秋田戦以外は24〜25分コートに立ち、既にローテーションの一角を担っている。ゲームコントロールについては「今はインサイドの起点がつくりづらい中で、外回りだけになっちゃうと相手ディフェンスのプレッシャーが強くなってしまうので、どこかでボールを落ち着けるセットプレーをしようと考えています」と語り、緩急、内外を使ったバスケを意識しているようだ。

 さらに今後、210cm、138kgとリーグ屈指のセンターであるスミスが復帰した場合を想定し、「今はボールを回すオフェンスを続けることが次戦にも繋がると思っていますが、ジョシュが戻ってくればまたインサイドの強みが足されるので、そこをうまくフィットさせていくのもガードとしての役割なのかなと思っています」と見通す。

ターンオーバー激減 デンプスとの意思疎通が奏功

 冒頭で記したように、富山は各チームが36試合を消化(群馬と渋谷は34試合)した現時点で、ターンオーバーの総数が560回(=1試合平均15.5回)とリーグで最も多い。出場試合数や出場時間が選手ごとで異なるため単純な比較は難しいが、個人の数でもジョンソンとコーディ・デンプスがいずれも96回でリーグで6番目に多く、特にデンプスはPGとしてハンドラーの役割も担うため大きな課題だった。

 それに対し、喜志永はチームに合流してから最初の試合となった1月21、22の両日の仙台戦で、コート外からチームを見ながら改善策を探っていたという。当時受けたチームの印象を振り返る。

 「今までコーディがターンオーバーが多いと言われてきましたが、コーディは元々ターンオーバーが多い選手じゃない。彼は生かされてこその選手だと思います。ガドソンもそうです。ガードがボールをコントロールし、あの2人を生かすことにフォーカスすればターンオーバーは減らせると感じました」

 つまり、自らがメインのハンドラーを担ってゲームをコントロールし、身長195cmで平均10.3点のデンプスには得点を取ることにより力を注がせる体制をつくった。喜志永が続ける。

 「すると、コーディが自分にボールを任せてくれるようになって、彼はセカンドでハンドラーをやってくれています。その後はコーディもやりやすそうにしていて、先週の秋田戦から『これを続けてほしい』と自分に言ってきてくれました。自分も意識しています」

 2人のPGが意思疎通を深めた効果は、すぐに数字に現れる。秋田との連戦では1試合目、2試合目でそれぞれチームで21回、20回に上ったターンオーバーが、琉球との連戦では5回と10回に激減。秋田戦で1人で4回、7回だったデンプスに至っては、琉球戦は2試合ともゼロだった。各選手の特性を即座に見抜き、意思疎通を図ってすぐに結果に繋げた喜志永の「観察眼」と「コミュニケーション能力」は見事という他にない。

©Basketball News 2for1

高いプロ意識「特別指定だから許される訳じゃない」

 実際にプレーを見た人はもちろんだが、これまでに記した記者会見での理路整然とした受け答えの内容を見ても、現役大学生にも関わらず、いかにプレーヤーとしての成熟度が高いかが伝わるのではないだろうか。まわりからすると、評価をする時に「特別指定選手なのに〜」という枕詞が付いてしまいそうだが、本人はその立場を意に介していない。

 「B1の舞台でやる上では、みんなプロとしてやっている訳で、特別指定選手だから何かが許されるということはありません。そういうのは自分も好きじゃない。やっぱり、みんなと同じように扱ってほしいです。今、チームはみんなと同じように自分を扱ってくれているので、自分としてもプロとしての意識を貫いていかないといけないと思っています」

 頼もしい若手に、周囲の信頼も厚い。高岡HC代行は「今年のロスターはPGにコンバートしてる選手も多いのですが、喜志永選手はずっとPGとしてやってきた選手なので、彼のところで収まるとボールが落ち着きます」と高く評価する。

 生え抜き15年目のベテラン・水戸健史も「ゲームをコントロールするポイントガードはうちに足りなかった部分だと思うので、すごく信頼しています。余裕を持ってプレーをコールしてくれて、安心してボールを預けられるので本当に頼もしいです。ベテランの僕が言うのもなんですが、チームを引っ張っていくくらいの気持ちでやってくれたらいいかなと思っています」と期待感を示した。

水戸健史も期待感を示す©Basketball News 2for1

不屈の精神力と人間的な魅力

 5日の試合終了後には、専修大の先輩である琉球の田代直希主将とコート上で満面の笑みを浮かべながら握手と言葉を交わしている様子が見られた。2人には出身大学以外にも共通点がある。足の前十字靭帯断裂という選手生命を脅かす程の大怪我を2度に渡って乗り越えた不屈の精神力を持っている事だ。

 「自分も田代さんも前十字靭帯の怪我を2回やってて、試合の初日にそれを知っていた田代さんが『もうこれからは怪我はないようにしようね』という話をしてくれて、最後は『またやろうね』と言ってくれました。田代さんは専修大が関東2部に降格する危機にあった試合で大活躍してチームを救ってくれた話が有名で、今でも大学のHCはその話をします。偉大な先輩として、背中を見ていかないといけない方だと思って声を掛けさせていただきました」

 10分にも満たない記者会見で、どんな質問にも丁寧に、そして誠実に答えていた喜志永。短期間でチームメートやコーチ陣から信頼を得られるのもうなずける。バスケ選手としてだけでなく、人間的な魅力も醸し出す22歳が、B1残留争いに身を置く富山にとって救世主になる可能性は十分にある。

(長嶺 真輝)

試合後、琉球ゴールデンキングスの田代直希(右)と握手©Basketball News 2for1

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